熱の伝わりをナノスケールで直接視る ~熱拡散を定量計測できる新しい電子顕微鏡法を開発~

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2024-01-16 物質・材料研究機構,科学技術振興機構

NIMSは、電子線をパルス化した特殊な走査透過電子顕微鏡と独自の精密温度測定技術により、熱の伝搬経路や動きを観察できる新たなナノスケール熱輸送観察法を開発しました。

近年、省エネルギーや再エネルギー化の観点から、排熱を電気に変換する熱電変換デバイスや、高温にさらされる電子部品などを冷却する放熱用複合材料など、熱を精密に制御・利用する次世代の材料・デバイスの開発が期待されています。一方、ナノスケールでの熱の移動は、構成材料の種類、欠陥、大きさによって、その大きさ、速さ、経路、伝導メカニズムが異なるため、ナノ構造を観察しながら材料内部の熱の流れを直接観察できる新しい手法の開発が期待されています。

研究チームは、透過電子顕微鏡でナノサイズに絞った電子線をパルス状にして試料に照射し、断続的に変化する温度を極小サイズの熱電対(NIMSが開発)で測定する観察法を開発しました。熱源をパルス化することで、試料中を伝わる熱に時間的な変化を与えることができるため、伝わる熱の速さや大きさを解析することが可能になりました。特に、試料上でナノサイズの熱源の位置を、ナノスケールの精度で変えることができるため、熱源の場所を変えながら熱が伝わる時間(位相差)や大きさ(振幅)を画像として記録できます。この画像を元に、材料中のナノスケール領域の熱伝導性を測定できるだけでなく、熱の伝わり方をアニメーションとして直接観察することもできます。

今後、電子顕微鏡が得意とする微細構造評価と本研究のナノ熱流観察法により、実材料中の複雑な熱の流れとミクロな構造の関係を明らかにし、次世代の熱輸送材料や熱電変換デバイスなどの高性能化に貢献することが期待されます。具体的には、放熱用複合材料内での複雑な熱伝導メカニズムの解明、ミクロな溶接・接合部界面における熱伝性能の評価など、実用材料の高性能化につながる観察が可能になります。特に熱電変換材料では、熱の動きを直接観察することによる精密な特性評価が可能となり、より高性能・高効率なデバイス開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、「Science Advances」誌の2024年1月13日(日本時間)発行号(Vol.10,Issue 2)にて掲載されました。

本研究は、主に科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「磁性を活用した革新的熱電材料・デバイスの開発(JPMJMI19A1)」(代表研究者:森 孝雄)、JSPS 科研費 JP20H02093、JP22KF0388の助成を受けて行われました。また、研究の一部では、オーストラリア研究評議会(ARC)のFL160100089を受けて行われたものです。

<プレスリリース資料>
  • 本文 PDF(873KB)
<論文タイトル>
“STEM in-situ thermal wave observations for investigating thermal diffusivity in nanoscale materials and devices”
DOI:10.1126/sciadv.adj3825
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
川本 直幸(カワモト ナオユキ)
NIMS マテリアル基盤研究センター 先端解析分野 電子顕微鏡グループ 主幹研究員

<JST事業に関すること>
幸本 和明(コウモト カズアキ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部

<報道担当>
NIMS 国際・広報部門 広報室
科学技術振興機構 広報課

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