2023-11-06 東京大学,科学技術振興機構
ポイント
- テラヘルツ電磁波と電子を半導体ナノ構造中に閉じ込めることにより、非常に強く相互作用させ、光と粒子の両方の性質を併せ持ったハイブリッドな量子状態を実現。
- 量子ポイントコンタクトと呼ばれるナノ構造を導入することによって、単一の光共振器中のハイブリッドな量子状態を電気信号として高感度に取り出す技術を確立。
- ハイブリッド量子状態を用いることにより、電子が持つ量子情報を、テラヘルツ電磁波を介して遠方に運ぶことができ、量子情報処理技術への応用に向けた重要な要素技術となると期待される。
東京大学 生産技術研究所の黒山 和幸 助教、平川 一彦 教授、および同大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川 泰彦 特任教授、權 晋寛 特任准教授は、スプリットリング共振器と呼ばれるテラヘルツ帯域に共鳴周波数を持つオンチップの光共振器と半導体ヘテロ構造中の電子を強く相互作用させ、光と電子の両方の性質を持つハイブリッド結合状態を生成するとともに、その量子状態を量子ポイントコンタクトと呼ばれる電気的な狭窄(きょうさく)構造を用いることで、電気的に読み出す技術を確立しました。
本研究では、単一オンチップのテラヘルツ光共振器とGaAs(ヒ化ガリウム)半導体中の2次元電子系との間の超強結合状態を、近傍に設置した量子ポイントコンタクトの電流を測定することによって観測しました。先行研究では、多数の光共振器を整列させ、その光透過率の平均値を測定する方法が主に用いられてきました。しかし、量子情報処理技術などへの応用を見据えると、単一の光共振器の量子状態を読み出す技術の確立が強く望まれていました。本研究では、従来の光測定による手法ではなく、電気的な測定手法を用いることで、単一のテラヘルツ光共振器と電子系が結合した量子状態を検出することに成功しました。この研究成果は、光と物質の結合状態の基礎学理の構築に大きく貢献するのみにとどまらず、レーザー技術などを始めとする光による物質の新奇な量子制御技術や、テラヘルツ帯域における量子情報通信技術への応用が期待されます。
本研究成果は、2023年11月1日(現地時間)に「Nano Letters」に掲載されました。
本研究は、科研費「基盤研究(S)(課題番号:JP20H05660)」、「若手研究(課題番号:JP20K14384)」、「基盤研究(C)(課題番号:JP20H05660)」、科学技術振興機構「さきがけ(課題番号:JPMJPR2255)」、村田学術振興財団「研究助成」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(563KB)
<論文タイトル>
- “Electrical Detection of Ultrastrong Coherent Interaction between Terahertz Fields and Electrons Using Quantum Point Contacts”
- DOI:10.1021/acs.nanolett.3c02272
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
平川 一彦(ヒラカワ カズヒコ)
東京大学 生産技術研究所 教授
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東京大学 生産技術研究所 広報室
科学技術振興機構 広報課