微細な光の力で、ナノスケールの左右を観察

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2023-10-06 分子科学研究所

【発表のポイント】および【概要】

分子科学研究所の山西絢介特任助教、AHN Hyo-Yong特任助教、岡本裕巳教授らの研究グループは、キラルな金ナノ構造体に円偏光を照射し、その近くを動かした探針に働くキラル光学効果による光の力を検出することで、ナノスケールでの物質構造の左向き、右向きを観測することに成功しました。この結果によって、光を用いたナノスケールでの物質のキラリティ構造解析ができること示しました。

1.研究の背景

キラルとは物質の構造が、その鏡写しにした構造と同じにならない性質を表します。左手と右手は鏡写しの関係で、重ならない構造(同じにならない)なのでキラルです。キラルな物には、右手系と左手系の区別が生じます。生命を構成する多くの物質はキラルで、右手系か左手系のいずれかしか天然に存在しないことがしばしばあります。また、新しい機能を持つ物質でも、そのキラルの性質が重要な役割を担うことがあります。こういったキラルな物質の特徴の一つとして、右回りの円偏光と左回りの円偏光(1)に対して異なる応答を示すこと(キラル光学効果)が知られています(図1)。一方で、これまでキラルな物質の近くで生じるナノスケールでのキラル光学効果の観測は実現されていませんでした。

微細な光の力で、ナノスケールの左右を観察
図1 キラルな物質(乳酸)の円偏光に対する応答(キラル光学効果)。D体の乳酸の右円偏光に対する応答とL体の乳酸の左円偏光に対する応答は、等価な応答になる。L体と右円偏光、D体と左円偏光の応答も等価になる。

2.研究の成果

本研究では、光が照射された物体にかかる微小な「光の力」(2)を検出する光誘起力顕微鏡(OF-PiFM)によって、ナノスケールのキラル光学効果を観測しました。OF-PiFMを用いれば、ナノスケールでのキラル光学効果を観測できると理論的には考えられていましたが、実際に観測された例はありませんでした。同研究グループは、OF-PiFMによって、右回り及び左回りの円偏光を照射されたキラルな金ナノ構造体近くで、力検出用探針に誘起される力を検出することで(図2)、ナノスケールでのキラル光学効果を観測することに成功しました。


図2 本研究の測定概念図。

研究グループでは、この方法の有効性を確認する試料として、金でできた卍型のナノ構造体(図3)を用いました。


図3 キラルな金ナノ構造体の走査型電子顕微鏡像。

この試料のOF-PiFMによる顕微イメージングの結果、右回り円偏光を照射した場合と左回り円偏光を照射した場合で、異なる像が得られることを示しました(図4)


図4キラルな金ナノ構造体近くの右回り円偏光と左回り円偏光の光の力像。

この結果は、ナノスケールで物体が局所的に右手系か左手系かを、円偏光を使ったOF-PiFMで区別して観察できることを明らかにするものです。

3.今後の展開・この研究の社会的意義

本研究結果において、ナノスケールでのキラル光学効果が観測できることが示され、様々なナノスケールの単一物質のキラル構造解析の可能性が示されました。今後は、生体分子などを対象に単一分子の構造解析への応用展開が期待されます。

4.用語解説

(1) 円偏光:
光の電場・磁場が、進行方向に直交する面内で円を描くように回転するとき、その光は円偏光と呼ばれる。回転方向に右回りと左回りがあり、右円偏光、左円偏光という。右円偏光と左円偏光は互いに鏡像関係にある螺旋状の電場・磁場をもち、互いに重ならない構造を持つので、円偏光はキラルな光である。

(2) 光の力:
物体に強い光を照射すると、物体に光から力が加わる場合がある。大きく分けて、光の進む方向に加わる力(光散乱力)と、光の強度が位置によって異なる時に光の強い方向に向かって加わる力(光勾配力)がある。この研究で利用されているのは、主に光勾配力である。

5.論文情報

掲載誌:Nano Letters
論文タイトル:“Nanoscopic Observation of Chiro-Optical Force”
著者:Junsuke Yamanishi, Hyo-Yong Ahn, and Hiromi Okamoto
掲載日:2023年10月04日(オンライン公開)
DOI:10.1021/acs.nanolett.3c02534

6.研究グループ

分子科学研究所 メゾスコピック計測研究センター 岡本グループ

7.研究サポート

本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(JP21H04641)、挑戦的研究(JP21K18884)、新学術領域研究(JP16H06505)、および学術変革領域研究(A)(JP22H05135)等の支援を受けて実施されました。

8.研究に関するお問い合わせ先 (研究代表者)

山西 絢介(やまにし じゅんすけ)
分子科学研究所 メゾスコピック計測研究センター 特任助教

岡本 裕巳(おかもと ひろみ)
分子科学研究所 メゾスコピック計測研究センター 教授

9.報道担当

自然科学研究機構・分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当

1700応用理学一般
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