しなやかな幼虫の動きを再現するソフトロボットの開発に成功~ぜん動運動の物理の解明に貢献~

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2023-04-06 電気通信大学,東京大学

発表のポイント

  • 虫のぜん動運動を模したソフトロボットを開発し、ハエの幼虫の運動特性を再現
  • ソフトロボットを用いて幼虫の収縮力が運動速度に関係することを予測
  • 柔らかい動物が巧みに動くしくみの物理的理解に貢献できると期待

発表概要

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 共通教育部の高坂洋史准教授、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻の孫喜洋大学院生(研究当時)、同専攻の能瀬聡直教授の研究グループは、ショウジョウバエ幼虫の動きを再現するソフトロボットの開発に成功しました。この成果は国際科学誌 PLOS ONEに2023年4月5日付けで掲載されました。

発表内容

【背景】
動物のしなやかな動きは、神経回路からの筋収縮指令と、それによって引き起こされる身体の物理的変化によって生じます。従来、運動を司る神経回路については詳しく調べられてきました。一方で、環境との作用・反作用を介して、身体が実際にどのように運動するかについては、あまり明らかになっていませんでした。その理由の一つとして、動物の運動特性を操作できる実験系の開発が進んでいないことが挙げられます。

【手法】
この研究では、動物の示す典型的な運動の一つであるぜん動運動に注目しました。モデル化する対象として、ぜん動運動を示し、かつ神経回路の研究が進んでいるショウジョウバエの幼虫を選びました。これまでにシリコーン樹脂を用いて幼虫を模したソフトロボットが開発されていますが、ぜん動運動によって移動することができませんでした。

そこで、実際の幼虫を模して二点の改良を加えました。まず、従来は体節を膨張させていましたが、本研究では真空ポンプを用いて実際の幼虫と同様に個々の体節を収縮させました。また、幼虫のお腹には靴のスパイクのような構造があって、その摩擦が前進運動に関わっていると考えられているので、ソフトロボットに前後非対称な摩擦が生じるようなしくみを取り入れました。

【成果】
開発したソフトロボットに対して、適切な強度とタイミングで体節内の圧力をコントロールしたところ、ぜん動運動のような動きを再現することができました。このロボットは、幼虫の動きの特徴のいくつかも再現することが明らかになりました。幼虫は、前進運動より後進運動の方が遅いことが知られていますが、開発したソフトロボットでも同様に、前進運動よりも後進運動が遅いことが観察されました。

さらに、このロボットを用いて、従来は解析が難しかった、収縮力の強さが運動に与える影響を調べました。真空ポンプとロボットとの間のバルブの開閉時間を制御することで、収縮力を変えて運動速度を調べたところ、収縮力が強いほど、運動速度が上がることが明らかになりました。以上の結果から、幼虫がぜん動によって巧みに動く物理機構について、ソフトロボットを使うことで詳しく解析できることが示唆されます。

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図.ソフトロボットのぜん動運動の様子

【今後の期待】
動物は長い進化の過程で、複雑な物理環境に適応して動くしくみを獲得してきました。一見ありふれた動物の動きですが、そのしくみは巧妙で、それを明らかにするには、多様な研究アプローチを必要とします。今回開発したぜん動運動を模したソフトロボットは、柔らかい動物の多彩な動きを支える物理機構を明らかにすることに貢献できると期待されます。

動物がいかにして動くかは、基礎科学において時代を超えて重要なテーマであるばかりではなく、応用上も重要な研究課題です。特に近年急速に発展している動物の動きにインスパイアされたソフトロボットは、人間の介入が困難な環境やスケールの空間で高度な活躍をすることが期待されています。本研究のソフトロボットを用いた幼虫の運動機構の研究が、動物の運動機構の理解と、有用なソフトロボットの開発の双方に寄与することが期待できます。

論文情報

著者名:Xiyang Sun, Akinao Nose, Hiroshi Kohsaka
論文名:A vacuum-actuated soft robot inspired by Drosophila larvae to study kinetics of crawling behaviour
雑誌名:PLOS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0283316
公表日:2023年4月5日

お問い合わせ

新領域創成科学研究科 広報室

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