臼田64 m電波望遠鏡を用いた日本初の高速電波バースト検出

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2023-01-12 東京大学

池邊 蒼太(天文学専攻 修士課程)
岳藤 一宏(宇宙航空研究開発機構 主任研究開発員)
寺澤 敏夫(宇宙線研究所 名誉教授)
橋本 哲也(國立中興大學 助教)
本間 希樹(天文学専攻 教員/国立天文台 教授)

発表のポイント

  • 臼田64 m電波望遠鏡を用いた観測によって、発生機構が謎に包まれた天体現象である高速電波バーストを日本で初めて検出することに成功した。
  • 今回検出したリピート型高速電波バーストからの電波パルスは単発型並みに明るく、またFRB 20201124Aからのバーストの中で最も高い周波数での検出であった。
  • 単発型高速電波バーストの一部が再度高速電波バーストを放射する可能性を示唆した。今後単発型、リピート型の両方の更なる観測によりこの可能性を検証することが期待される。

発表概要

高速電波バーストは持続時間が非常に短い電波パルスが放射される天体現象であり、どうやって放射されているか、どのような天体から放射されているかが未解明な天体です。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程の池邊蒼太、宇宙航空研究開発機構主任研究開発員の岳藤一宏、東京大学宇宙線研究所名誉教授の寺澤敏夫、國立中興大學助教の橋本哲也、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻教員の本間希樹らは、臼田64 m電波望遠鏡を用いて日本初の高速電波バーストを検出しました。今回検出したリピート型高速電波バーストからの電波パルス(注1)は単発型並みに明るく、単発型高速電波バーストの一部が再度高速電波バーストを放射する可能性を示唆しました。

発表内容

研究の背景
高速電波バースト(Fast Radio Burst; FRB)は、典型的にミリ秒オーダーという非常に短い持続時間の電波パルスを発する天体現象です。2007年に初めて発見されてから、その母天体や放射機構が未だ謎に包まれた興味深い天体となっています。高速電波バーストの放射の性質や、それを取り巻く環境を知るためにはさまざまな周波数帯で本天体を観測することが重要です。しかしながら、現在ほとんどの高速電波バーストは約600 MHzや1.5 GHzで検出されています。

また、ほとんどの高速電波バーストは一回きりしか電波パルスが観測されていない「単発型」になりますが、いくつかの高速電波バーストは複数回電波パルスを放射する、「リピート型」として分類できることが確認されています。FRB 20201124Aという天体もその一つであり、最も活動的なリピート型高速電波バーストのうちの一つになります。この天体は2020年に初めて発見され、2021年の4月に活動が活発になり海外の望遠鏡により千個以上の高速電波バーストが観測されました。そして2022年の1月下旬に再び高速電波バーストが放射されていることが報告され、活動期に再び突入したことが予想されました。

研究内容
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の池邊蒼太大学院生らは臼田宇宙空間観測所の64 m 電波望遠鏡を用いて約2 GHzと8 GHzにて同時観測を合計約8時間行いました。解析の結果2 GHzで一つの高速電波バーストを発見することに成功しました(図1)。

臼田64 m電波望遠鏡を用いた日本初の高速電波バースト検出
図1:色の濃淡で信号の強さを表しており、黄色いところほどエネルギーが高いことを示し ています。黄色い斜めの曲線が高速電波バーストです。


これは日本の望遠鏡を使った高速電波バーストの初めての検出です。高速電波バーストは宇宙空間に存在する自由電子の影響により、高い周波数の電波ほど早く、低い周波数の電波ほど遅く到着します。本研究ではその特徴的な様子を捉えることができました。今回の結果はFRB 20201124Aからの電波パルスの検出の中で最も高い周波数での検出となりました。

このバーストを過去に発見された高速電波バーストと比較しました。図2ではそれぞれのバーストの持続時間とエネルギー密度を比較しています。


図2:本研究の高速電波バーストを過去に検出された高速電波バーストと比較した図。横軸がエネルギー密度(明るさの指標で高いほど明るい)、縦軸が持続時間であり、赤色・青色の点がそれぞれリピート型・単発型高速電波バーストを表しています。一般に単発型高速電波バーストはより高いエネルギー密度を持ち、その上で今回検出したものは単発型の種族と同等のエネルギー密度を持っていることがわかりました。


この図で見られるように、単発型高速電波バーストは一般的にリピート型のものより高いエネルギーを持っている可能性があります。その上で今回発見された高速電波バーストは他の多くのリピート型よりも遥かに高いエネルギーを有し、単発型と同程度のエネルギーを持つことがわかりました。この結果からリピート型高速電波バーストは単発型に匹敵するぐらい明るくなる可能性があること、即ち単発型高速電波バーストの中には本質的にリピート型のものが紛れている可能性があることが示唆されます。この可能性を確かめるために、今後単発型とリピート型の両方の高速電波バーストを追観測することが重要になります。最後に今回の成果の立役者である臼田64 mは1984年に完成した国内屈指のベテラン電波望遠鏡です。そのような望遠鏡でも天文学の最前線でまだまだ活躍できることが示されました。

本研究は、科研費
(課題番号:21J00416、21H01078、22K03681、15H00784(KN)、22H01267)、及びNational Science and Technology Council of Taiwan(110-2112-M-005-013-MY3、110-2112-M-007-034-、111-2123-M-001-008-)の支援を受けて実施されました。

発表雑誌
雑誌名
Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)論文タイトル
Detection of a bright burst from the repeating fast radio burst 20201124A at 2 GHz

著者
Sota Ikebe*, Kazuhiro Takefuji,Toshio Terasawa, Sujin Eie, Takuya Akahori, Yasuhiro Murata, Tetsuya Hashimoto, Shota Kisaka, Mareki Honma, Shintaro Yoshiura, Syunsaku Suzuki, Tomoaki Oyama, Mamoru Sekido, Kotaro Niinuma, Hiroshi Takeuchi, Yoshinori Yonekura, and Teruaki Enoto
*責任著者

DOI番号
10.1093/pasj/psac101

用語解説

注1  電波パルス
電波波長におけるパルス状の信号。

1701物理及び化学
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