2022-10-06 国立天文台
金属3Dプリンタで製作したコルゲートホーン(左)と、上部にコルゲートホーンを搭載したバンド1受信機(右)。(Credit: NAOJ, ASIAA) オリジナルサイズ(361KB)
国立天文台は、アルマ望遠鏡のバンド1受信機に搭載する部品「コルゲートホーン」を、金属3Dプリンタを用いて製作することに成功しました。電波天文観測において、金属3Dプリンタで製作した初めての部品を組み込んだ受信機が誕生します。
3次元モデルデータに基づいて材料を積層・結合させることにより立体的に製品を生成する、付加製造技術(Additive Manufacturing, AM)の天文観測機器への応用を、2015年頃から国立天文台のアルマプロジェクトと先端技術センターとが連携して検討してきました。天文観測機器は一つの望遠鏡に一つだけの装置という固有なケースが多いこと、また特殊な部品が必要になることから、積層造形技術を有効に活用できる可能性があります。
当時は、アルマ望遠鏡のバンド1受信機(観測周波数35ギガヘルツから50ギガヘルツ)のプロトタイプの設計開発が進んでいたことから、バンド1受信機用の部品を試作品として選定し、装置の販売代理店企業と共に検討を重ねました。その後2019年に、先端技術センターに金属3Dプリンタを導入し、実用品としてのコルゲートホーンの製作に着手することになりました。
コルゲートホーンは、天体からの電磁波を受信機上で最初に受信し、後段に設置された検出器へ電磁波を集光する役目を果たします。最先端の受信機に使用するためには、アンテナビームパターンやその周波数特性といったコルゲートホーンそのものの性能が、仕様を満たす必要があります。加えて、コルゲートホーンが設置される低温かつ真空という環境で、問題なく機能するための金属材料物性の評価も重要です。
製作したコルゲートホーンは現在、台湾の中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)でバンド1受信機に組み込まれ、マイナス258度という極低温の環境で最終段階の性能試験が行われています。これまでの試験の結果では、このコルゲートホーンはアルマ望遠鏡の仕様に適合していることが確認されています。試験終了後、受信機はアルマ望遠鏡に搭載されます。電波天文学において、金属3Dプリンタで製作した初めての部品を組み込んだ高感度受信機の誕生です。
本開発・製作にご協力いただいた大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、北陸先端科学技術大学院大学、株式会社NTTデータザムテクノロジーズに感謝いたします。