2022-07-22 京都大学
いもち病は、いもち病菌というカビによって引き起こされます。イネをはじめとする穀物の葉や穂を枯らしてしまう最重要病害の一つです。寺内良平 農学研究科教授、清水元樹 岩手生物工学研究センター主任研究員らの研究グループは、独自に開発したゲノム解析技術「RaIDeN法」を用いて、いもち病菌が分泌するAVR-Piasタンパク質を認識して、イネの抵抗性を導くタンパク質Piasを初めて発見しました。Piasは、一対のNLR型免疫受容体タンパク質(Pias-1とPias-2)から構成され、Pias-2タンパク質にはNLR型受容体の基本骨格(釣りの“釣針“に対応)に加えてDUF761という付加ドメイン(釣針の“疑似餌”に対応)が見つかりました。イネ属の多くの系統を対象にPias-2の仲間の抵抗性タンパク質を調べると、様々な種類の付加ドメインが見られ、これらが釣針の異なる”疑似餌”となって、それぞれに対応した病原菌因子(または病原菌因子によって改変されたイネ因子)が引き寄せられて結合すると抵抗反応が引き起こされると推測されます。イネの進化の過程で、病原菌因子が標的としていたイネタンパク質の一部がNLR型免疫受容体に取り込まれて付加ドメインとなり、“釣針の疑似餌”として機能するようになったと考えられます。今後は、多様な植物遺伝子資源のゲノム配列を解読し、抵抗性タンパク質の付加ドメインを調べることにより、多くの病原菌に対する“釣針の疑似餌”を用意することができるようになります。また、Pias抵抗性タンパク質の付加ドメインを設計することにより、より病害に強い作物品種の作成が可能となります。
本研究成果は、2022年6月30日に、国際学術誌「Proceeding of National Academy of Science, USA(PNAS)」にオンライン掲載されました。
(写真)抵抗性イネ(左)と感受性イネ(右)にいもち病菌を接種した様子
(右図)イネ抵抗性タンパク質Piasは、付加ドメインDUF761が擬似餌のように働き、いもち病菌タンパク質AVR-Piasを引き寄せることにより抵抗性を誘導する
研究者のコメント
「病原菌は、個体数が多く世代時間も短いため、さまざまな仕組みを進化させて宿主に感染します。対して宿主は、自身の異なる遺伝子の断片を交換して、ゲノムやタンパク質のパッチワークにより病原菌に対抗しています。本研究で見出された付加ドメインは、擬似餌のようにはたらいて病原菌を見破ります。多様な付加ドメインのカタログを作成して擬似餌を用意することにより、新しい病原菌を見破ることが可能になります。そのために、様々な作物の遺伝子資源の保全とゲノム解析が極めて重要です。」(寺内良平)
研究者情報
研究者名:寺内 良平