2022-04-19 京都大学
伊勢武史 フィールド科学教育研究センター准教授、佐藤永 海洋研究開発機構地球環境部門北極環境変動総合研究センター研究員は、画像分類AI(※1)を用いて、所与の気候に対応する潜在植生(※2)を推定するための新手法を開発しました。
この手法は、潜在植生の推定において初めて画像分類AIを利用したもので、気候変動に伴った植生変化予測を行う簡便で実用的な手法を提供するものです。この手法では、画像で表現された季節変化パターンから、潜在植生ごとの特徴量を抽出する学習を画像分類AIに行わせます。この学習を行ったAIは、現在の潜在植生分布を、従来の手法を上回る精度で再現しました。また、この学習済みAIを21世紀末に予測されている気候環境に適用することで、(1)アマゾン盆地南部の疎林化、(2)北米大陸とユーラシア大陸における温帯林の拡大、(3)亜寒帯林の高緯度・高標高側への分布シフト、といった植生変化を予測しました。これらの予測は傾向としては従来の研究と変わりませんが、その定量的な信頼性の向上が期待されます。
本手法は、画像分類AIの単純な応用であり、要求される技術や計算機環境が比較的低いため、気候変動に伴った感染症リスクや農業スキームの変化といった事象などを高精度かつ簡便にモデリングする手法として、様々な応用が期待されます。
本成果は、「Geoscientific Model Development」に4月18日付(日本時間)で掲載されました。
※1 画像分類AI:本研究ではLeNetを採用した。LeNetは最初期の画像分類AIであり、元々は手描きの数字を読み取ることを目的として開発され、比較的シンプルな構造(いわゆる“隠し層”の枚数が少ないなど)を有している。そのため、比較的単純な画像を、10前後の区分に分類する用途に適している。
※2 潜在植生:所与の環境条件(気候、地質、地形、緯度など)の元において、また人為的な影響が無視できる状況において、最終的に安定する植生のタイプ。そのタイプ分けの方法は、扱う地理範囲や目的に応じて様々であるが、本研究では全地球の植生を15種類に分類するISLSCP2潜在植生地図を用いた。
図 方法の概要。
研究者情報
研究者名:伊勢 武史