20世紀中頃の北極寒冷化は人間活動による大気中の微粒子の増大と気候の自然変動が複合的に影響

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北極温暖化の将来予測の信頼性向上に貢献

2022-04-07 国立極地研究所,気象庁気象研究所

国立極地研究所の相澤拓郎特任研究員と気象庁気象研究所の大島長主任研究官、行本誠史研究官の研究グループは、気象研究所で開発した気候モデルを含む、世界の最新の気候モデル群によるシミュレーションデータを結集させ分析することで、20世紀中頃の北極寒冷化は、人間活動に起因する大気中の微粒子の増大と自然に生じる数十年周期の気候の寒冷化が同時期に起きたことが主原因だと明らかにしました。

本成果は、北極域での気候変動のメカニズムの解明につながるとともに、北極温暖化の将来予測の信頼性向上に貢献することが期待されます。この成果は、2022年1月28日(日本時間)にGeophysical Research Lettersに掲載されました。

研究の背景

2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議で合意された温室効果ガス削減に関するパリ協定では、世界平均の温度上昇を産業革命前に比較して2℃よりも十分低く保つことを目標としていますが、今後北極域では、世界平均の2倍以上の気温上昇が見込まれています。将来の北極温暖化を理解するためには、人間活動や自然に生じる気候の内部変動(注1)が過去の北極の気候変動にどの程度影響を与えてきたかを、観測と数値シミュレーションによって正確に評価しておくことが必要です。

北極域の地上気温は、20世紀初頭の1910~1940年にかけて上昇し、20世紀中頃の1940~1970年にかけて低下し、20世紀後半の1970年以降から現在にかけて上昇しています。二酸化硫黄などから生成される大気中の微粒子であるエアロゾル(注2)は、太陽光を散乱し、地球を冷却する効果があります。北極域に近いヨーロッパやアメリカでは、人間活動による二酸化硫黄排出規制の導入前の1970年頃をピークに大気中のエアロゾル濃度が急速に増大し、20世紀中頃に起きた北極寒冷化に大きな影響を与えたと考えられますが、最新の気候モデル群を用いたシミュレーションによる評価はまだありませんでした。近年、過去の気候変動の要因を定量的に調べるため、気候モデルの国際比較プロジェクトである第6期結合モデル相互比較計画(CMIP6:注3) の枠組みで、気候変動の検出と要因分析に関するモデル相互比較計画(DAMIP:注4)が実施されました。気象研究所もDAMIPに参画し、独自に開発した最新の気候モデルによるシミュレーションデータを提供しました。

結果

本研究では、CMIP6/DAMIPにおいて世界各国により提供された多数のシミュレーションデータを用いて、世界の最新の気候モデル群による北極気温変動の再現性を調査し、20世紀中頃に観測された北極寒冷化の要因を定量的に評価しました。

最新の気候モデル群によるシミュレーション(CMIP6/DAMIP)では、従来の気候モデル群(CMIP5)と比較して、20世紀の北極気温変動の再現性が向上しました(図1)。観測された10年移動平均北極平均気温の30年差 (1970年と1940年との差)-0.81℃に対して(図1・青線)、シミュレーションに基づく要因分析の結果、温室効果ガスによる効果が0.44℃ (±0.22℃)の温暖化、人為起源エアロゾルによる効果が-0.65℃ (±0.37℃)の寒冷化、太陽活動と火山噴火活動による効果が-0.14℃ (±0.11℃)の寒冷化に寄与したと見積もられ、人為起源エアロゾルが北極寒冷化に大きく寄与していることが明らかになりました(図2)。数十年規模の気候の内部変動によって生じる平均的な寒冷化イベントの気温変化は-0.47℃と見積もられ、人為起源エアロゾルと同様に北極寒冷化に大きく寄与したと考えられます(図2)。また、全ての効果を取り入れたシミュレーションにおいて、各気候モデルで出力された気温などの物理量を複数の気候モデルで平均する「マルチモデル平均」、各気候モデル間の計算結果のバラつきの大きさを示す指標である「インターモデルスプレッド」(1標準偏差)、および、気候の内部変動を考慮したところ、シミュレーションによる10年平均北極平均気温の30年差 (1970年と1940年との差)は-0.93℃~-0.45℃となり、観測された-0.81℃はこの幅の範囲内にあることが明らかになりました。本研究により、人為起源エアロゾルの増大と自然に生じる数十年規模の気候の内部変動が北極寒冷化の主要因であることを明らかにできました。

図1:産業革命前(1850~1900年)を基準としたときの北極平均地上気温の偏差の変化。短い時間スケールの変動を低減させ、長周期の変動を強調させるために10年移動平均(任意の年を中心とした10年間の平均値)の値を示す。青(HadCRUT5)が観測値、緑がCMIP6の35モデルのマルチモデル平均、赤がDAMIPの13モデルのマルチモデル平均、黒がCMIP5(注3)の22モデルのマルチモデル平均を示す。DAMIPの13モデルはCMIP6の35モデルに含まれている。

図2:1940年から1970年における北極平均地上気温の変化に対する各要素の貢献度。1970年の10年平均気温 (1965-1974)と1940年の10年平均値 (1935-1944)との30年差。赤の三角は観測による気温変化を表す。色のついた縦棒で代表的なインターモデルスプレッド(1標準偏差)の幅、黒い縦棒で最大幅のインターモデルスプレッドを示している。


また、自然に生じる数十年規模の気候の内部変動に伴う地上気温の空間パターンを調査し、20世紀中頃に観測された寒冷化の空間分布と類似していることを明らかにしました(図3)。観測された寒冷化イベントがどの程度の頻度で発生するかを、特定の条件を満たす現象を複数抽出し、現象を重ね合わせることで特定の時空間構造等を検出する解析手法「コンポジット解析」により定量的に調査した結果、100~300年に一度程度であることが分かりました。現在、北極域では温暖化が急速に進行しており、2015~2045年の近い将来に予測されている温暖化は2℃以上と見積もられるため、将来仮にこのような数十年規模の気候の内部変動による寒冷化イベントが起きた場合、温暖化による気温上昇を緩和する効果があるものの、将来予測されている北極温暖化を打ち消す可能性は低いことが分かりました。

図3:シミュレーションによる数十年規模の気候の内部変動による寒冷化の時空間パターン
(a)内部変動による気温の時間変化と観測の気温の時間変化の位相を合わせたもの。内部変動イベントは、全13モデルの9953年分のシミュレーションの中で38事例抽出された。
(b)シミュレーションに基づく内部変動の空間分布(抽出された38事例について特定の年における前後10年平均値とその30年前の年における前後10年平均値との30年差)。
(c)観測の気温変化の空間分布(1968年前後10年平均値と1938年前後10年平均値との30年差)。

今後の展開

気候モデルによる将来予測の信頼性を高めるためには、気候モデルが過去の気候変化を精度良く再現できることが非常に重要です。従来の気候モデル群では、北極気温変動の再現性は必ずしも十分ではありませんでした。本研究では、世界の最新の気候モデル群によるシミュレーションデータを結集させ分析することで、最新の気候モデル群では北極域の気温変動の再現性が従来のモデル群よりも向上していることを示しました。このことから、最新の気候モデル群を用いた将来予測研究は、以前より信頼性が高まることが期待されます。

本成果は、北極域での気候変動のメカニズムの解明につながると期待され、将来の北極気候変動の理解の向上に資するものです。国立極地研究所では、北極気候変動の理解を更に向上させるために、世界各国から提供される観測データとシミュレーションデータを用いた更なる解析研究を推進し、気象研究所では、引き続き、数値シミュレーション技術を向上させ、将来の気候変動予測の高度化を進めていく予定です。

発表論文

掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:Contributions of anthropogenic aerosol forcing and multidecadal internal variability to mid-20th century Arctic cooling—CMIP6/DAMIP multimodel analysis

著者:
相澤 拓郎(国立極地研究所 国際北極環境研究センター)
大島 長(気象庁気象研究所)
行本 誠史(気象庁気象研究所)
URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021GL097093
DOI:https://doi.org/10.1029/2021GL097093
論文公開日:2022年1月28日

注1:内部変動
日々の気温でも高い日や低い日があるように、北極平均気温でも高い年や低い年があります。このような人間活動とは無関係に生じる自然変動のうち、気候システム内部において、外部要因(太陽活動や火山噴火活動など)によらず大気・海洋・陸面が相互作用することにより自然に生じるさまざまな現象を内部変動と呼びます。長短さまざまな時間スケールの現象があり、代表的なものでは、日々の天気をもたらす移動性の高低気圧、季節から数年規模の気候変動をもたらすエルニーニョ/ラニーニャ現象、数十年規模の気候変動をもたらす大西洋数十年規模変動があります。

注2:エアロゾル
大気に浮遊する粒子状物質。代表的なものとして、二酸化硫黄として排出され大気中での酸化等により生成される硫酸塩エアロゾルなどがあります。硫酸塩エアロゾルは、太陽光を散乱し、日射を遮ることで、地球を冷却する放射効果があります。

注3:CMIP6(Coupled Model Intercomparison Project Phase 6)
世界各国の気候モデルセンターが開発した気候モデルを結集させた国際比較プロジェクト。気候システムをより良く理解するために、国際協力の促進、モデル間相互比較を可能にする実験群のデータセットが提供されています。大気中の温室効果ガスやエアロゾル濃度を産業革命前に固定した基準実験と、共通の外部因子(人間活動や太陽活動・火山噴火活動など)の変化を考慮した過去気候再現実験等で構成されます。第6期CMIP (CMIP6) の結果は、2021年刊行のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書で引用されています。第5期CMIP(CMIP5)は、CMIP6の前身として実施され、その結果は2013年刊行の第5次評価報告書で引用されています。

注4:DAMIP(Detection and Attribution Model Intercomparison Project)
CMIP6の一環で実施され、気候モデルを用いて気候変動の検出と要因分析を目的としたシミュレーションデータを提供することを目的とした国際比較プロジェクト。産業革命以後の過去の気候変動の要因を調べるために、主として温室効果ガスの変化のみを考慮した実験、人為起源エアロゾルの変化のみを考慮した実験、太陽活動と火山噴火活動の変化のみを考慮した実験等が行われています。

研究サポート

本研究は、文部科学省の北極域研究加速プロジェクト(ArCS II, JPMXD1420318865)、統合的気候モデル高度化研究プログラム(TOUGOU, JPMXD0717935561)、 JSPS科研費(JP18H03363, JP18H05292, JP21H03582)、環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202003, JPMEERF20205001)、環境省地球環境保全等試験研究費(国1753)の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
国立極地研究所 国際北極環境研究センター 特任研究員 相澤 拓郎
気象庁気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室 主任研究官 大島 長

(報道について)
国立極地研究所 広報室
気象庁気象研究所 企画室 広報担当

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