2022-03-30 東京大学,日本原子力研究開発機構,J-PARCセンター,総合科学研究機構中性子科学センター,理化学研究所,科学技術振興機構
ポイント
- 2種類の元素からなるシンプルな合金中で超高密度な磁気スキルミオン(微小な磁気渦)が生成されていることを発見しました。
- 磁場の強さや温度によって磁気スキルミオンの並び方が変化することを見いだし、その微視的な機構を明らかにしました。
- 超高密度な磁気スキルミオンの設計や外場制御に新たな指針を与えており、今後の物質探索や機能開拓の礎となることが期待されます。
電子スピンの渦巻き構造である磁気スキルミオンは、典型的な直径が数十~数百ナノメートル(1ナノメートは10億分の1メートル)と小さく、次世代超高密度磁気メモリーのための新たな情報担体の候補として注目されています。磁気スキルミオンは、元々、特殊な対称性の結晶構造を持つ物質中でのみ現れると考えられていました。しかし最近では、ごくありふれた結晶構造を持つ物質中で、直径が数ナノメートルの超高密度な磁気スキルミオンの形成が報告され、従来とは異なる形成機構が提案されています。
東京大学 大学院工学系研究科の高木 里奈 助教、関 真一郎 准教授らを中心とする研究グループは、理化学研究所、東京大学 物性研究所、日本原子力研究開発機構、総合科学研究機構、東京大学 大学院新領域創成科学研究科との共同研究のもと、単純な結晶構造を持つEuAl4(Eu:ユウロピウム、Al:アルミニウム)という物質に着目し、中性子・エックス線の散乱実験を行ったところ、直径3.5ナノメートルの超高密度な磁気スキルミオンを生成していることを発見しました。さらに、磁場や温度によって磁気スキルミオンの並び方が正方格子から菱形格子へと変化することを見いだし、その起源が物質中を動き回る電子が媒介する相互作用に由来していることを明らかにしました。
本研究成果は、2種類の元素のみを含む単純な2元合金であっても、極小サイズの磁気スキルミオンの多彩な秩序構造を実現できることを示しており、今後の物質設計・探索や制御手法の開拓に重要な指針を与えることが期待されます。
本研究成果は、2022年3月30日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけの「情報担体とその集積のための材料・デバイス・システム」研究領域(No.JPMJPR20B4)および「トポロジカル材料科学と革新的機能創出」研究領域(No.JPMJPR18L5・JPMJPR20L8)、同 戦略的創造研究推進事業 CRESTの「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出」研究領域(No.JPMJCR1874)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費 補助金基盤研究S(No.21H04990)、同 基盤研究A(No.18H03685・20H00349・21H04440)、同 基盤研究B(No.17H02815・19H01856・20H01864)、同 若手研究(No.21K13876)、東京大学 克研究奨励賞、旭硝子財団、村田学術振興財団の支援を受けて、大強度陽子加速器施設 J-PARC研究課題(2017L0701,2019C0006)、日本原子力研究開発機構 JRR-3研究課題(No.21512,21401)、ドイツ電子 シンクロトロン研究所 DESY研究課題(I-20190781EC)のもとで実施しました。
<論文タイトル>
- “Square and rhombic lattices of magnetic skyrmions in a centrosymmetric binary compound”
- DOI:10.1038/s41467-022-29131-9
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
高木 里奈(タカギ リナ)
東京大学 大学院工学系研究科総合研究機構・物理工学専攻 助教
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
(さきがけ担当)
(CREST担当)
<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
東京大学 物性研究所 広報室
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
東京大学 東京カレッジ 広報担当
児玉 猛(コダマ タケシ)
日本原子力研究開発機構 広報部 報道課長
J-PARCセンター 広報セクション
総合科学研究機構 中性子科学センター 利用推進部 広報担当
理化学研究所 広報室
科学技術振興機構 広報課