疲労による事故リスクを生体データからリアルタイムで予測する技術を開発

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「ライフ顕微鏡®」で培った、生体データと行動データの統合分析技術基盤を用い、トラックドライバーの心拍データから事故リスクを予測し、ドライバー・管理者に通知するアルゴリズムを生成

2022-03-24 株式会社日立製作所

図1 作業者の疲労に起因する事故リスクを生体データからリアルタイムで予測する技術基盤「ライフ顕微鏡®」で培った生体データと行動データの統合分析技術基盤を活用

図1 作業者の疲労に起因する事故リスクを生体データからリアルタイムで予測する技術基盤

「ライフ顕微鏡®」で培った生体データと行動データの統合分析技術基盤を活用

日立は、疲労に起因する事故リスクを生体データからリアルタイムで予測する技術を、株式会社日立物流、国立研究開発法人理化学研究所、株式会社 FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)と共同で開発しました。本技術は、日立が研究開発した「ライフ顕微鏡®」で培った生体データと行動データの統合分析技術基盤を活用したもので、業務中のトラックドライバーの心拍データから疲労に起因する事故リスクを予測し、ドライバーや管理者に通知する機能を実現します。本機能は、株式会社日立物流のスマート安全運行管理ソリューションSSCV (Smart & Safety Connected Vehicle)-Safety*1に実装されています。

製造や物流分野では人工知能(以下、AI)やサービスロボット技術による省力化・効率化が進んでいますが、トラックや航空機による運送業や、社会の安心・安全を支えるインフラシステムの維持・運営など、人による作業が不可欠な業務では疲労やストレスに起因するヒューマンエラーによる重大事故の未然防止が課題となっています。トラックやバスを運行する企業では、以前から管理者が業務前にドライバーの体調を確認し事故を防止する対策がとられていますが、運転中の疲労蓄積や注意力低下を含めたドライバーの体調をリアルタイムで把握することは困難でした。

日立では、センサネット技術を用いて人の活動状況を測定・解析するシステム「ライフ顕微鏡®」で培ってきたIoT技術や異分野のデータを統合・分析する技術基盤を活用し、作業者の心身の状態と、その時の作業内容の計測データからヒューマンエラーが発生するリスクを予測し、必要に応じその危険性を通知する安心・安全ソリューションの実現をめざし研究開発を進めています。今回、トラックドライバーの疲労に起因する事故を抑止するため、業務中のドライバー1200人日分の心拍データと車両挙動データから、事故リスクをリアルタイムで予測するアルゴリズムを開発しました。本技術により、心拍データをウェアラブルデバイスにより計測すれば、疲労やストレスの蓄積を事故発生の予兆としてドライバーや管理者が捉えることができ、事故を未然に回避することが可能となります(図2)。

日立では、今回開発した技術を物流以外の運送業をはじめ、建設業、製造業、社会インフラシステムの維持・運営など、ヒューマンエラーによる重大事故が懸念されるさまざまな業務に適用し、事故ゼロ社会をめざします。本成果の一部は、2021年10月に論文誌PLOS ONEに掲載されました*2

図2 事故リスクの予測技術による安全運行管理の実現

図2 事故リスクの予測技術による安全運行管理の実現

開発した技術の詳細

1. 疲労による事故リスクを生体データからリアルタイムで予測する技術

本技術は、業務中のドライバー1200人日分の心拍データの解析から自律神経機能*3の特徴量を求め、事故が発生するリスクをリアルタイムで計算し、その値がしきい値を超えた場合に、ドライバーや管理者に通知する機能を有します(図3)。

まず、疲労科学分野の専門家と日立との共同研究により、ドライバーの疲労やストレスに関わる自律神経機能の特徴量群(約50種)を設計しました。次に、次節で述べるヒヤリハット*4分類技術を用いて、特徴量に対するヒヤリハット場面の発生しやすさを示す危険度の確率分布を計算しました。その結果、ヒヤリハットの危険度の分布は特徴量の値(疲労やストレス)により、ヒヤリハット確率が高い方向に拡大することがわかりました。そこで、約50種の特徴量を用いて、危険度が高い場面の確率を特徴量によって推定する回帰分析を行い、危険度の範囲を低い方に最大約50%狭める特徴量の抽出に成功しました(図4)。このような新規な解析手法により、心拍データのみから特定の自律神経機能特徴量を計算し、事故リスクを計算可能なアルゴリズムを生成しました。

図3 ヒヤリハットの発生と相関の高い自律神経機能特徴量を用いた事故リスク予測アルゴリズム

図3 ヒヤリハットの発生と相関の高い自律神経機能特徴量を用いた事故リスク予測アルゴリズム

図4 今回抽出された自律神経機能の特徴量(副交感神経指標)と、運転操作(ヒヤリハット場面)の発生確率と危険度の関係(特徴量が増す(リラックスする)ほど、危険度の範囲が低い方に約50%狭まる)

図4 今回抽出された自律神経機能の特徴量(副交感神経指標)と、

運転操作(ヒヤリハット場面)の発生確率と危険度の関係

(特徴量が増す(リラックスする)ほど、危険度の範囲が低い方に約50%狭まる)

2. 機械学習によるヒヤリハット分類技術

車両挙動データから異常挙動の特徴を抽出し、上述したヒヤリハット場面が発生しやすい危険度を出力するヒヤリハット分類技術を開発しました。

物流業務において、運転中の生体データと事故リスクの関係を統計的に明らかにするには大量のデータを必要とします。しかし、トラックの年間事故発生件数はトラック保有台数の1%程度と少なく、また、特定の車両やドライバーが事故を起こす事例は稀なため、統計的に有用なデータの収集は困難でした。そこで、事故につながりかねない「ヒヤリハット」の場面に着目しました。

ヒヤリハット場面は車載カメラ映像などから人が目視確認できますが、確認には膨大な時間を要するため、機械学習を用いて車速・加速度のデータからヒヤリハット場面を自動で分類する技術を開発しました(図5)。その際、一部のデータを用いて専門家がヒヤリハット場面を選定し、教師データとして用いました。また、分類精度向上のため、実際のヒヤリハット事例をもとに高速道路走行や車両停止前後などの事故が発生しやすい走行シーンを複数定義し、それぞれの走行シーンごとに機械学習を行いました。このような学習の結果、精度84%で車両挙動データからヒヤリハット場面を自動で分類することが可能になりました。このような分類技術を用いて、速度・加速度のデータからヒヤリハット場面の発生確率を示す危険度を求めました。

図5 機械学習により、車両挙動データからヒヤリハット場面を分類し、その発生確率と危険度を求める技術

図5 機械学習により、車両挙動データからヒヤリハット場面を分類し、その発生確率と危険度を求める技術

*1 株式会社日立物流のスマート安全運行管理ソリューションSSCV-Safety

https://www.hitachi-transportsystem.com/jp/sscv/safety/

*2 Shunsuke Minusa ,Kei Mizuno,Daichi Ojiro,Takeshi Tanaka,Hiroyuki Kuriyama,Emi Yamano,Hirohiko Kuratsune,Yasuyoshi Watanabe, “Increase in rear-end collision risk by acute stress-induced fatigue in on-road truck driving”, PLOS ONE, October 21, 2021.

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0258892

*3 自律神経: 全身の様々な機能を調節する神経であり 、交感神経と副交感神経の二つから成る。交感神経は主に活動に向けた機能を促進し、副交感神経は休息や睡眠に向けた機能を促進することにより、双方の良いパワーバランスで様々な場面に最適な心身のコンディションを作り出している。
*4 ヒヤリハット: 重大な事故などに至らなかったものの、事故につながりかねない危険な事象。
照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

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