地下鉄における混雑時の運転状況を模した車内 CO2濃度の計測と換気の評価

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混雑時の運行車両における感染対策を検証するための基礎データを取得

2021-12-28 産業技術総合研究所

ポイント

  • 地下鉄の実車両を用いて混雑時の運転状況を模してCO2を車両内に吐出させ、車内CO2濃度変化を実測
  • 混雑時の運転状況を模して窓閉状態で約9分間走行(試験対象路線における最大限保守的な条件)すると、車内のCO2濃度は3,200 ppm程度まで上昇した
  • 10 cm×2カ所の窓開状態で車内のCO2濃度は約15%減少し、窓開けによる換気は一定の効果があることが改めて確認された
  • 窓閉および窓開(10 cm×2カ所)状態における走行時の1時間あたりの換気回数は、それぞれ約6.3回および約9.4回と推計された

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)安全科学研究部門リスク評価戦略グループ 篠原 直秀 主任研究員、内藤 航 研究グループ長は、国土交通省からの相談を受け、東京地下鉄株式会社(以下「東京メトロ」という)の協力を得て、混雑時の車内環境を模擬した地下鉄車両を試運転運行し、車内のCO2濃度の変化を計測した。窓を閉め切った状態で約9分間の走行を行うと、車内のCO2濃度は3,200 ppm程度まで上昇した。窓を10 cmで2カ所開けた状態で約9分間の走行を行うと、車内のCO2濃度の上昇は約15%減少した。地下鉄車両内を完全混合空間と仮定し、ワンボックスモデルにより、それぞれの運行における1時間あたりの換気回数を概算すると、窓閉では約6.3回、10 cm×2カ所の窓開けでは約9.4回と推計された。今回実施した模擬試験は、実際の混雑車両で起こりうる人間の代謝熱などによる上昇気流などは再現できていないため、測定値の解釈には注意が必要であるが、本試験より得られた結果は、混雑時の運行車両における感染対策を検証するための貴重な基礎データになることが期待される。

地下鉄試験車両内の計測の様子

研究の社会的背景

新型コロナウイルス感染症の終息が見えない中、どのような対策が効果的かを知ることは重要であり、社会的にも関心が高い。不特定多数の人が利用する鉄道やバスなどの公共交通機関の車両内は、通勤通学などの時間帯によっては、3密が生じやすい空間になるため、そのような公共交通機関の車両内は、どの程度の換気状況なのか、窓開けなどの対策によりどの程度の改善効果があるのかなどの実態を確認することは、今後の効果的な対策のあり方を検討する上で重要である。

研究の経緯

産総研では2020年7月に、東京メトロの協力のもと、実際の地下鉄車両を用いて、窓開けなどの対策によって換気回数がどのように変化するかについて実測を行った1)

地下鉄車両の窓開けなどの換気の効果に関する調査の概要は以下を参照。
https://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/2020/nr20201203/nr20201203.html

今回は、実際の地下鉄車両におけるCO2濃度と換気の関係についての基礎的なデータを得ることを目的として、実際の地下鉄車両において各種条件下でCO2濃度がどのように変化するか、窓開けの効果はどの程度かを把握するための模擬試験を実施した。また、各種条件における換気の程度を知るため、簡易なモデルによる試算も行った。

昨年の試験では車両内にCO2を充填させ各種条件下での換気回数をCO2濃度減衰法により推定した。今回の試験では、乗客の呼気を模してCO2を車両内に吐出させCO2濃度の上昇と換気効果を推定した。

研究の内容

混雑時の車内環境を模擬した地下鉄車両を試運転運行し、車内のCO2濃度がどのように変化するかを計測した。試験条件は、通勤ラッシュ時以外の駅停車・ドア開閉が長時間行われない急行運転において、通勤ラッシュ時の高い混雑率を想定して設定した。具体的には、2021年10月21日(木)と22日(金)に、東京メトロ副都心線8両編成の中間車両を使用して、車内の1カ所に設置したCO2発生装置から発生させたCO2(一人あたりの呼気0.25 L/min)を、32本の長さの等しい管を通じ車内に均等になるように吐出させ、車両内に設置した21カ所のCO2測定器(T&D RTR-576)でCO2濃度を計測した。CO2の時間当たりの吐出総量は、混雑時を想定し定員の150%乗車として設定した。また、先頭車両にて外気相当のCO2濃度を計測した。CO2吐出源およびCO2計測器の設置高さは立席と座席を想定し、それぞれ床面から150 cmと120 cmとした。CO2吐出源からは、立席では窓方向へ、座席からは車内方向へCO2を吐出させた。試験区間は、営業路線において最大で約9分間程度、急行運転により駅停車・ドア開閉が行われない区間が存在することを想定(最大限保守的な条件)し、約9分間で試験を行った。簡易モデルを用いたデータの分析では、完全混合を仮定したワンボックスモデルを用いて、換気回数を推定した。

図1

図1 車両内の測定機器設置図

図2

図2 測定中の車内の様子

急行運転(途中駅停車なし)におけるCO2濃度計測の結果を図3に示す。平均値でみると、車内のCO2濃度は、窓閉状態での走行では3,200 ppm程度、窓開(10 cm×2カ所)状態の走行では2,700 ppm程度まで上昇した。窓開けによりCO2濃度は15%程度減少しており、窓開けによる換気は一定の効果があることが改めて確認された。

図3

図3 急行運転無停車区間におけるCO2濃度の変化.
上段:窓閉め条件、下段:窓開け条件.
左側:21カ所の測定データ、右側:21カ所の測定データの平均値


昨年7月に実施した車内換気試験では、地上区間で窓閉め条件において、1時間あたり約3.1回の換気が確認されている。完全混合を仮定したワンボックスモデルを用いて、約9分後のCO2濃度が今回の試験結果と同程度になる1時間あたりの換気回数を計算すると、窓閉条件では約6.3回、窓開(10 cm×2カ所)条件では約9.4回と推計され、前回の測定結果と比べて換気回数が多かった(図4)。これは、測定区間や測定車両が異なる事によるものと考えられ、測定する環境により換気回数が変動することが示唆された。

図4

図4 CO2濃度の実測とワンボックスモデルによる推定との比較

今回の試験は、実際の地下鉄車両に乗客が乗車した状態ではないが、その状態を模した環境において、CO2濃度と換気との関係を知る基礎的なデータを実際の運行車両を用いて得たことに意義がある。混雑時を模した車両内のCO2濃度は3,200 ppm程度になると推定されたが、同時に走行時は窓閉めの状況でも換気回数は6回を超える一定の換気があることがわかり、窓開けにより換気効果はさらに改善することが示唆された。

今回の試験で得られた結果は、公共交通機関などのCO2濃度や換気についての考え方の整理や新型コロナ感染リスクや対策の効果の評価への貢献が期待される。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ
主任研究員 篠原 直秀  E-mail:n-shinohara*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
研究グループ長 内藤 航  E-mail:w-naito*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)

用語の説明
◆ワンボックスモデル
空間中に排出された物質(ここでは二酸化炭素)が単一空間の中で一様に混合されると仮定したモデル
参考文献

1) Shinohara N, Sakaguchi J, Kim H, Kagi N, Tatsu K, Mano H, Iwasaki Y, Naito W. (2021) Survey of air exchange rates and evaluation of airborne infection risk of COVID-19 on commuter trains. Environment International, 157: 106774.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8299185/pdf/main.pdf [PDF:2.2MB]

参考

鉄道車両内における二酸化炭素濃度と新型コロナウイルス感染症との関係等に係る情報について (国交省HP

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