フラーレンの球面構造はどのようにしてできるのか

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3次元の分子が組み上がっていく様子を映像で捉えた

2021-05-25 東京大学,科学技術振興機

ポイント
  • 平面状の炭化水素分子が次第に球面性を獲得して最終的に球状のサッカーボール分子([60]フラーレン、C60)になる様子を原子レベルで逐一捉えることに成功した。
  • フラーレンの化学の最大で最後のミステリーは、球状網目構造がどのようにしてできるかであった。今回生成過程を原子レベルで逐一追跡して、平面分子がお椀型分子になる段階、お椀型分子が球状分子になる段階のそれぞれで一気に環化することが分かった。
  • これまで紙に書いて想像するだけだった化学反応の経路を、あたかも分子模型を見るがごとくに、動画として観察しながら研究できることが証明された。化学反応に関する深い理解が得られ、ものの性質の理解が進むと同時に、これまで観念的で分かりづらかった化学反応を直感的に理解するための手段を与える点で、教育的効果も大きい。

1985年に発見された60個の炭素原子からなる球状分子[60]フラーレン(C60)は、その対称的な構造の美しさに加え特異な電子物性、材料特性を有することからナノテクノロジーの象徴的材料として基礎から応用までさまざまな研究がなされている。その一方で、C60の特徴的な球状構造がどのようにして形成するのか全く知られていなかった。今回、東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻の中村 栄一 特別教授、原野 幸治 特任准教授、Dominik Lungerich 博士研究員(現 韓国IBS 研究教授)らの研究グループは、平面状の炭化水素(C6030)が徐々に反応し、曲面の中間体を経ながら、最終的にC60へと変換される様子を原子分解能電子顕微鏡の映像として捉えることに成功した。これまでの手法ではC60形成の途中の過程は全く分からなかったが、本研究ではC60の生成過程を原子レベルで逐一追跡することができ、平面分子がお椀型分子になる段階、お椀型分子が球状分子になる段階のそれぞれで一気に環化が進行することが分かった。本成果は、その形成過程が謎に包まれている多くのナノ材料の形成機構について重要な示唆を与えるだけでなく、化学反応を目で見て研究する新しい研究領域「映像分子科学」が、自然科学分野の研究と教育において大きな役割を果たすことが期待される。

本研究成果は、近日中に国際学術誌である「ACS Nano」で掲載される。

本研究成果は、科研費特別推進研究(課題番号:JP19H05459)、科学技術振興機構(JST)CREST(課題番号:JPMJCR20B2)などの支援によって実施された。本研究では、国際科学イノベーション拠点整備形成事業により導入され、東京大学 分子ライフイノベーション機構により運営されている共用機器である原子分解能透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM-ARM200F)を利用した。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“A Singular Molecule-to-Molecule Transformation on Video: The Bottom-Up Synthesis of Fullerene C60 from Truxene Derivative C60H30
DOI:10.1021/acsnano.1c02222
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
中村 栄一(ナカムラ エイイチ)
東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 特別教授

<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>
東京大学 大学院理学系研究科・理学部
吉岡 奈々子(ヨシオカ ナナコ) 主事員、飯野 雄一(イイノ ユウイチ) 教授・広報室長

科学技術振興機構 広報課

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