大質量星の超新星エンジンをX線観測で解明

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ニュートリノ加熱による高エントロピー上昇流が爆発を後押し

2021-04-22 理化学研究所,京都大学,東京大学大学院理学系研究科,立教大学

理化学研究所(理研)開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の佐藤寿紀基礎科学特別研究員(研究当時、現 立教大学理学部物理学科助教)、長瀧天体ビッグバン研究室の長瀧重博主任研究員、京都大学の前田啓一准教授、東京大学大学院理学系研究科の梅田秀之准教授、吉田敬研究員らの国際共同研究グループは、チャンドラ衛星[1]によるX線観測から、超新星残骸[2]「カシオペア座A[3]」は「ニュートリノ[4]加熱」が引き金となって爆発した重力崩壊型超新星[5]の名残であるという観測的証拠を初めて掴みました。

太陽質量の約10倍以上の大質量星は、その一生の最期に「重力崩壊型超新星爆発[5]」と呼ばれる大爆発を起こします。この爆発メカニズムの解明は、宇宙物理学上の超難問といわれ、大規模な理論計算を用いても再現が困難でした。現在では、星が重力崩壊を起こすときに大量に放出されるニュートリノの一部のエネルギーが物質を加熱し、超新星爆発を引き起こすというシナリオが最も有力です。このメカニズムに関する最も重要な手がかりは、1987年に起きた超新星1987A[6]からのニュートリノの直接観測で得られました。しかし、このシナリオの本質であるニュートリノ加熱を裏付ける観測的証拠はありませんでした。

今回、国際共同研究グループは、超新星残骸カシオペア座A内にニュートリノ加熱時に立ち上る高エントロピー[7]の上昇流の痕跡を発見し、観測的にこの大質量星の「超新星エンジン」ともいうべき仕組みを明らかにしました。また、私たちの生活に欠かせない金属であるチタンが、超新星爆発時の上昇流内で大量に合成されていることも初めて観測しました。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(4月21日付:日本時間4月22日)に掲載されます。

なお本研究成果の画像は『Nature』(Volume 592 Issue 7855)の表紙を飾ります。

背景

岐阜県神岡鉱山地下に建設されたカミオカンデ[8]は1987年2月23日(日本時間)、マゼラン星雲で爆発した超新星1987Aから放射されたニュートリノを初めて検出しました。この研究に対しては2002年にノーベル物理学賞が贈られ、その後、大質量星の爆発メカニズムの理解が大きく前進しました。

そのメカニズムの現在最も有力なシナリオを図1に示します。太陽質量の約10倍以上の大質量星の内部では、進化の最終段階で鉄のコアが形成されます。この鉄のコアは、最終的には星自身の重力を支えきれずに潰れてしまう「重力崩壊」を引き起こします。この潰れたコアの中心では原始中性子星[9]が形成され、その表面に降り積もる物質が跳ね返されることで、星の外側へ向けて衝撃波が走ります。この反射衝撃波が星の表面まで達すれば、その星は爆発することになります。

しかし、多くの理論計算では、反射衝撃波は星の内部を伝搬する間にエネルギーを失ってしまい、星を爆発させることができませんでした。そこで、提案されたのが「ニュートリノ加熱」によって衝撃波を生き返えらせるメカニズムです。カミオカンデで検出された超新星1987Aのニュートリノは、爆発の中心領域から大量に放出されました。仮に、この超新星ニュートリノの全エネルギーの1%だけでも、ニュートリノ加熱によって周囲の物質に引き渡すことができれば、衝撃波が復活し、爆発が成功することになります。

図1 重力崩壊型超新星の爆発メカニズム

太陽質量の約10倍を超える大質量星は、一生の最期に鉄でできた中心コアが自重を支えきれなくなり潰れてしまう「重力崩壊」を起こす。重力崩壊中、その中心には超高密度の原始中性子星が形成され始め、その表面に落ちる物質が外側へ弾かれ「反射衝撃波」を形成する。この反射衝撃波がニュートリノ加熱によって押し上げられ、星表面まで到達できれば「超新星爆発」が起こる。


現在、このシナリオで、世界の複数の理論研究グループが超新星爆発をコンピュータ内で再現することに成功しており、ニュートリノ加熱時に生み出される対流やそれに伴う上昇流などの「非対称効果」が衝撃波を押し上げ、爆発することが分かってきています。このメカニズムは、「ニュートリノ駆動型対流エンジン(超新星エンジン)」と呼ばれています。一方で、このシナリオでは、ニュートリノ観測データから物質と相互作用したニュートリノからの情報を引き出すことはまだできておらず、この超新星エンジンの核心に迫ることができていませんでした。

研究手法と成果

ニュートリノ加熱で生み出される爆発における対流や上昇流といった非対称効果は(図2左)、超新星残骸を直接観測することで検証できると考えられます。また、その非対称構造の中や周辺は、他の領域に比べてエントロピーの高い環境(高温かつ低密度)にあると予測されています。このような環境では、爆発時に特定の元素が核融合反応[10]で効率的に合成されます。そのため、もし、ニュートリノ加熱で生み出された非対称構造を超新星残骸内で観測できれば、その元素量から他の領域で合成されたものと区別できます。

そこで、国際共同研究グループは、ニュートリノ駆動型対流エンジンを特徴づける元素であるチタン、クロム、鉄に着目し、超新星残骸「カシオペア座A」の非対称構造からこれらの元素の同時検出を目指しました。カシオペア座Aは、約350年前に爆発した重力崩壊型超新星の残骸で、地球のある天の川銀河に存在しています。米国のチャンドラ衛星で撮られたカシオペア座AのX線画像は非対称に分布する元素を示しており(図2右)、この超新星が非対称的な爆発を経験したと考えられています。特に、東南部(図2右の左下部)には非対称に飛び出た構造が見つかっており、その主成分は鉄であることが2000年初期に指摘されています。鉄は超新星の最深部でのみ大量に合成されることから、この構造は爆発中心部の非対称効果によって外側へ飛び出た可能性が高いと考えられます。そこで、チャンドラ衛星が2000年から2018年の約18年間にカシオペア座Aを観測したデータを総動員し、この構造内の元素を調べました。

超新星内部での上昇流形成プロセスと超新星残骸カシオペア座Aの図

図2 超新星内部での上昇流形成プロセスと超新星残骸カシオペア座A

左:ニュートリノ加熱時に生み出される対流や上昇流などの非対称効果。特に、局所的に大きく発達する上昇流は、超新星爆発の形状を歪めるとともに、特徴的な元素組成を示す。

右:研究対象である超新星残骸「カシオペア座A」のX線画像。爆発中心付近でしか合成されない鉄(赤)が東南部(左下)で飛び出ており、爆発時の非対称性によって生み出されたと考えられる。


その結果、チタン、クロム、鉄などの超新星エンジン周辺で合成される金属元素が、この構造内に同時に存在することを発見しました(図3左)。合成領域内のエントロピーが高くなると、チタンとクロムの量も増えます。観測・理論の両チームで構成される研究グループは、温度や密度の異なるさまざまな超新星内部環境下で合成される元素量を理論的に計算し、観測された元素量と比較しました(図3右)。その結果、この構造内の元素組成は、超新星エンジン周辺で生み出される上昇流による高エントロピー、かつ陽子過剰な環境[11]で合成されるものとよく一致することが分かりました。

これらの結果から、カシオペア座Aにおける鉄の豊富な構造はニュートリノ加熱によって生み出されたと結論付け、超新星の衝撃波がニュートリノ加熱によって復活した証拠としました。今回の発見により、超新星爆発のニュートリノ加熱の存在が観測的に立証されただけでなく、その爆発中心付近のエントロ

ピーなどの物理パラメータを推定できるようになりました。

チタン、クロムの発見と元素量の理論計算との比較の図

図3 チタン、クロムの発見と元素量の理論計算との比較

左:鉄が豊富な構造内(図2右の左下領域)のX線スペクトル。約4.7keVと5.6keV付近にチタンとクロムからの特性X線が見られる。

右:スペクトル解析から求めたチタン、クロム、鉄の質量比を理論計算と比較したグラフ。ニュートリノ駆動型対流エンジン周辺で予測される高エントロピーの陽子過剰環境で、観測量がよく説明できる。

今後の期待

本研究により、宇宙物理学の超難問として長年注目されてきた大質量星の超新星爆発メカニズムに、観測の立場からたくさんの情報を提供できるようになりました。同様な方法で、今後、さまざまな理論的課題にアプローチできると考えられます。現在の超新星理論分野では、スーパーコンピュータを用いた大規模計算が必須になっており、なかでも理研のスーパーコンピュータ「富岳[12]」を用いれば、今後の理論研究は飛躍的に前進すると期待できます。この観測と理論の合わせ技で、宇宙の謎の一つがまた解明される日は遠くないかもしれません。

理研玉川高エネルギー宇宙物理研究室では、次期X線天文衛星「XRISM(クリズム)」を開発中であり、2022年度に打ち上げ予定です。XRISM衛星は現行の数十倍のエネルギー分解能を持つため、チタンやクロムを含むさまざまな希少元素の検出感度が桁違いに向上すると考えられます。超新星残骸の高エントロピー上昇流内では、他にもさまざまな希少元素が存在すると考えられています。この宇宙に存在する”元素工場”の観測から、私たちの身近に存在する元素の起源が明らかになると期待できます。

補足説明

1.チャンドラ衛星
1999年7月にNASAによって打ち上げられたX線天文衛星。X線帯域で世界一の角度分解能を誇り、鮮明な天体画像を取得できる。

2.超新星残骸
超新星爆発後に形成される衝撃波で超新星物質が加熱され、高温プラズマとして光っている天体。数千万度まで加熱されており、X線帯域で明るく輝く。

3.カシオペア座A
カシオペア座に位置する超新星残骸で、地球から1万光年ほど離れている。太陽の約15倍程度の重い星が爆発した名残だと考えられている。

4.ニュートリノ
素粒子のうちの中性レプトンの名称。星や超新星の内部から放射されている。超新星からのニュートリノ放射は、1987年にカミオカンデで初めて観測された。

5.重力崩壊型超新星、重力崩壊型超新星爆発
太陽の10倍以上の重さを持つ星が爆発したときの超新星を重力崩壊型超新星と総称する。これらの超新星は、星の中心コアが自重に負け、重力崩壊することがきっかけとなり爆発する。

6.超新星1987A
1987年にマゼラン星雲で起きた重力崩壊型超新星爆発。

7.エントロピー
熱力学および統計力学で定義される示量性の状態量。超新星内部では、高温度・低密度環境でエントロピーが高くなる。

8.カミオカンデ
陽子崩壊を実証するために1983年に岐阜県神岡鉱山地下1000mに建設された観測装置。1987年に超新星1987Aからのニュートリノ放射を観測した。

9.原始中性子星
重力崩壊によって中心部に形成される高密度天体。原始中性子星内部では、中性子の縮退圧と核力による斥力で重力に反発し、重力崩壊が止まる。この表面に物質が降着し跳ね返ることで、外側へ向かう反射衝撃波が形成される。

10.核融合反応
軽い元素同士が融合してより重い元素を作り出す反応。太陽のような恒星内部や超新星内部の高温・高密度環境下で起きる。

11.陽子過剰な環境
超新星爆発において、大部分の物質は中性子の数が陽子の数より若干多い「中性子過剰な環境」を経て放出される。一方、高エントロピー上昇流内では、ニュートリノと物質が相互作用することで、陽子の数の方が多い「陽子過剰な環境」が実現されると予測されている。

12.スーパーコンピュータ「富岳」
「京」の後継機。社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAI(人工知能)の加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータ。15万8976個の中央演算装置(CPU)を搭載し、1秒間に約44京2010兆回の計算が可能。2020年6月と11月に世界のスパコンランキング「TOP500」「HPCG」「HPL-AI」「Graph500」で2期連続の世界一位を獲得した。

国際共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部
玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員(研究当時) 佐藤 寿紀(さとう としき)
(現 立教大学 理学部物理学科 助教)
長瀧天体ビッグバン研究室
主任研究員 長瀧 重博(ながたき しげひろ)
研究員 小野 勝臣(おの まさおみ)

京都大学 大学院理学研究科
准教授 前田 啓一(まえだ けいいち)

東京大学大学院理学系研究科
特任研究員 吉田 敬(よしだ たかし)
准教授 梅田 秀之(うめだ ひでゆき)

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