イアコーン収穫用スナッパヘッドを開発~ 汎用型飼料収穫機に装着可能なアタッチメント~

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2021-03-02 農研機構,株式会社タカキタ

ポイント

農研機構は、濃厚飼料の自給率向上のため、汎用型飼料収穫機に装着してトウモロコシの雌穂のみを収穫するスナッパヘッドを開発しました。トウモロコシが倒伏していない状態であれば、40a/hの作業能率を発揮します。

概要

我が国の濃厚飼料の自給率は12%と、ほとんどを海外からの輸入に頼っていることから、自給率向上が求められています。近年、国産濃厚飼料としてイアコーン1)サイレージ1)が注目されていますが、その収穫にはこれまで専用アタッチメントを装着した海外製で大型の自走式フォレージハーベスタ2)が必要であり、小区画ほ場が多い都府県への普及に向けた課題となっています。そこで農研機構は、都府県のコントラクタ3)の約3割に普及している汎用型飼料収穫機4)に着目し、平成29年度からこれに装着可能なイアコーン収穫用スナッパヘッドの開発に取り組んでいます。
この程、トウモロコシが倒伏していない状態であれば40a/hの作業能率、3%未満の収穫ロスと、実用レベルの性能を発揮できるようになったことから、令和3年4月より株式会社タカキタからモニター販売の受注が開始されることになりました。

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構農業技術革新工学研究センター 所長 小林 研

研究担当者 :同 研究推進部 戦略推進室 農業機械連携調整役 志藤 博克

広報担当者 :同 研究推進部 広報推進室 研究員 皆川 啓子

詳細情報

社会的背景

濃厚飼料はトウモロコシ子実、オオムギ、ダイズ等の穀物であり、栄養価が高いため畜産業には欠かすことができません。しかし、国産濃厚飼料が占める割合はわずか12%(2020農林水産省)であり、ほとんどを海外からの輸入に頼っているため、その自給促進は食料安全保障上、重要な課題となっています。近年、イアコーンサイレージが国産濃厚飼料として注目されていますが、その収穫には海外製で大型の自走式フォレージハーベスタが必要であり、小区画ほ場が多く大型機械の導入が困難な都府県では、イアコーンサイレージの普及を図る上で課題となっています。

開発の経緯

海外製の自走式フォレージハーベスタに装着するイアコーン用のアタッチメントはスナッパヘッドと呼ばれ、我が国でも北海道等の大規模生産地でのイアコーン収穫に利用されています。ただし、その価格はスナッパヘッド単体でも1000万円以上、本体と合わせると6000万円以上となるため、機械にかかる減価償却費を削減するにはできるだけ多くの面積で利用する必要があります。しかし、機体寸法が大きいため、小区画ほ場が多く、周辺道路が狭い都府県では大面積の稼働は難しいことから導入には制約があります。
そこで、農研機構では、平成21年度に農林水産省 農業機械等緊急開発事業で市販化され、都府県のコントラクタの約3割に普及している汎用型飼料収穫機に着目し、これに装着可能でコンパクトなスナッパヘッドの開発を構想しました。開発は、平成29年度から生研支援センターの革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)の支援を受け「府県における自給飼料生産利用技術の開発と実証」コンソーシアムで進め、令和元年度までに原型機を完成させることができました。そこで、令和2年度からは農業機械技術クラスター事業(うち「イアコーン収穫スナッパヘッドの現地適応化コンソーシアム」)を活用し、市販化に向け、耐久性・取扱性の向上を図るとともに、悪天候によりトウモロコシが倒伏した場合でも一定の収穫能力を持てるよう開発を進めています。このコンソーシアムは、開発担当:株式会社タカキタと農研機構(代表機関)、現地実証担当:コントラクタ組織であるアグリアシストシステム株式会社と株式会社那須の農、新潟県農業総合研究センター畜産研究所、岡山県農林水産総合センター畜産研究所及び徳島県立農林水産総合技術支援センター、管理運営機関:公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会から構成されています。

開発機の特徴

開発したスナッパヘッド(図1)は、トウモロコシの雌穂だけを分離収穫し、茎葉は10~20cm程度に切断してほ場に散布します。2条刈りで外形寸法は全長1,900mm、全幅2,250mm、全高1,300mm、質量は340kgと軽量・コンパクトであるため、汎用型飼料収穫機(図2)に装着したときの操縦性は、飼料用トウモロコシ(茎葉を含む)や飼料用イネの収穫時とほとんど変わりません。
汎用型飼料収穫機に装着してイアコーンを収穫したときの作業能率は、ほ場面積30a以上であれば40a/h、中山間地での10a程度のほ場でも20a/hです(図3)。雌穂は設定切断長6mmで細断され、直径1m、質量550~650kgのロールベール(図4)に成形されます。雌穂収穫時及びロールベール放出時に生じるロスの合計は3%未満であり、トウモロコシが倒伏していなければ、汎用型飼料収穫機に既存のマルチヘッダを装着して飼料用トウモロコシや飼料用イネを収穫した時と同等の性能を発揮します。

今後の予定・期待

開発機は、トウモロコシが倒伏していない状態では実用レベルの性能を発揮できる見通しが立ったため、令和3年4月より株式会社タカキタからモニター販売の受注が開始されることになりました。価格は250万円を予定しています。
近年、気候変動に伴う悪天候が原因となり、トウモロコシの倒伏による作業能率の低下や収穫ロスが課題となっています。そこで現在、倒伏した場合でも一定の収穫能力を持つ新機能を加えるべく、更なる開発を進めています。倒伏への適応性を向上させる機能については、後付けできるよう開発を進めており、令和4年度の本格販売を目指しています。

用語の解説
1)「イアコーン」及び「サイレージ」
イアコーンはトウモロコシの子実、外皮、芯を含めた雌穂の部分のことで、イア(ear=耳)とは、トウモロコシの立ち姿で雌穂が耳のように見えることからこのように呼ばれています。外皮と芯が含まれることからトウモロコシ子実よりも栄養価が若干下がりますが、輸入濃厚飼料(圧ペントウモロコシ)の代替として、主に乳牛、肉用牛、養豚に利用することができます。サイレージとは、飼料作物を密封貯蔵することで乳酸発酵させ、保存性を確保した飼料です。
2)フォレージハーベスタ
飼料作物を細断し、伴走するダンプトラック等の荷受け部を目掛けて吹き飛ばす収穫機械で、機体前部のアタッチメントを着脱交換することで牧草、トウモロコシ等に対応することができます。海外製の自走式の機体寸法は全長8~9.5m、全幅3~3.5m、全高約4m、質量約11~20t(本体のみ)です。
3)コントラクタ
農家からの委託を受けてほ場作業を行う事業体で、全国で858件、都府県で630件あり、増加傾向にあります(2020農林水産省)。
4)汎用型飼料収穫機
飼料作物を収穫・細断・ロール成形する自走式収穫機で、機体前部のアタッチメントを着脱交換することができます。また、クローラ式走行部の採用によりその場で旋回ができるため、狭小なほ場での作業性にも優れています。都府県のコントラクタ630件(令和元年度)に対して、令和3年1月現在で200台余りが販売されており、都府県のコントラクタの約3割に普及している計算になります。機体寸法は、全長5.6m、全幅2.2m、全高2.8m、質量約5t(本体のみ)です。
参考図

図1

図1 イアコーン収穫用スナッパヘッド

図2

図2 汎用型飼料収穫機とスナッパヘッドによるイアコーンの収穫作業風景

図3

図3 汎用型飼料収穫機とスナッパヘッドによるイアコーン収穫時の作業能率

図4

図4 イアコーンのロールベール

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