水素製造に太陽光エネルギーを活用~エタノールから水素を獲得し水素ガスを発生する有機化合物を開発~

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2021-03-02 京都大学

村上正浩 工学研究科教授、石田直樹 同講師、釜江祥希 同修士課程学生、上農悠花 同修士課程学生、成瀬啓司 工学部生、石津啓伍 同学部生(研究当時)らの研究グループは、太陽光のエネルギーを駆動力として利用する持続可能な水素製造法および水素化手法を開発しました。

水素(H2)はクリーンな次世代のエネルギー源として期待されているほか、医薬品や香料の合成にも用いられています。市販されている水素の90%以上は化石資源を原料として合成されていますが、持続可能性の観点から、再生可能な資源を利用する技術へと置き換えることが求められています。例えば、エタノールはバイオマスの発酵によって作られる再生可能な資源です。今回の研究では、水素キャリアとして働く有機化合物を開発しました。この水素キャリアは、太陽光のエネルギーを駆動力として、エタノールを水素源として利用して合成・再生できます。この水素キャリアを用いることにより、水素を製造したり、有機化合物を水素化することができます。本手法は持続可能な水素製造法および水素化手法として期待されます。

本研究成果は、2021年1月29日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載され、同誌の「Spotlights」に選ばれました。

本研究の概要図
図:本研究の概要図

1.背景

水素 H2)はクリーンな次世代のエネルギー源であるとともに、医薬品や農薬、香料などの合成に用いられています。市販されている水素の 90%以上は化石資源を原料として合成されていますが、持続可能性の観点から、再生可能な資源を利用する技術へと置き換えることが必要とされています。エタノールはバイオマスの発酵によって作られる再生可能な資源であり、水素の原料として魅力的です。しかし、エタノールから水素を取り出すにはエネルギーを投入する必要があることが課題で、再生可能なエネルギー源を用いた手法の開発が求められていました。また、水素に関連するもう一つの難題として、可燃性 爆発性を有する水素を安全かつ簡便に貯蔵する方法の開発が挙げられます。水素を安定な有機化合物に貯蔵する水素キャリアを利用する手法が注目されていますが、水素を貯蔵する際や発生する際に多大なエネルギーを必要とすることが課題でした。

2.研究手法・成果

本研究グループは太陽光由来のエネルギーを化学合成に利用することを目指して研究しており、今回の研究では、入手の容易な有機化合物であるケトン 1 の光反応 図1)に着目しました。ケトン 1 のエタノール溶液を、食品の保存に用いられるハイバリア性のビニール袋に入れて密閉し 図2)、太陽光を照射すると、ケトン 1 が太陽光を吸収して反応して、エタノールから水素を獲得し、1,2-ジオール 2 が生成しました。生成した1,2-ジオール 2 は太陽光に由来するエネルギーを化学エネルギーとして蓄えています。これにパラジウム触媒を作用させると蓄えたエネルギーを駆動力として水素ガスを発生して、ケトン 1 に戻ることを発見しました図3)。発生した水素ガスは有機化合物の合成に利用でき、得られたケトン 1 は太陽光とエタノールを用いて再度 1,2-ジオール 2 に変換できました。すなわち、1,2-ジオール 2 は再生可能資源である太陽光とエタノールを利用して再生できる水素キャリアとして働いていることになります。また、1,2-ジオール 2 は常温 常圧で固体であり、ありふれたプラスチックのボトルで保存できます。常温 大気下で、少なくとも半年は分解することなく保存することができました。

3.波及効果、今後の予定

今回の成果は、太陽光のエネルギーを駆動力として、再生可能資源であるエタノールを水素源として水素を製造したり、有機化合物を水素化する簡便な手法を提供するものです。太陽光のエネルギーを利用して 1,2-ジオールを合成して貯蔵しておき 曇天や小雨でも反応は進行することを確認しています)、必要な時に水素を発生させることができます。また水素ガスを安全に貯蔵するには、水素ガス検知機能を備えた排気システムなどが必要ですが、今回開発した水素キャリアは常温 大気下で保存できますので、大掛かりな施設を必要としません。実験室レベルでの簡便な水素発生方法として期待されます。

4.研究プロジェクトについて

本研究は文部科学省科学研究費助成事業 JP18H04648, JP20H04810)、公益信託 ENEOS 水素基金の支援を受けて実施しました。

<研究者のコメント>

SDGs の実現にはありとあらゆる分野で変革が求められます。有機合成化学の分野も例外でなく、化石資源に頼らないことを決心して、再生可能性 持続可能性を指向した新しい手法を模索する必要があります。今回の成果は、この考えのもとで研究する中で見つかった想定外のものでした。持続可能性の芽はそこかしこに眠っていることを信じて、今後も探索を続けていきたいと考えています。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Sustainable System for Hydrogenation Exploiting Energy Derived from Solar Light
太陽光のエネルギーを活用する持続可能な水素化)
著 者:Naoki Ishida, Yoshiki Kamae, Keigo Ishizu, Yuka Kamino, Hiroshi Naruse, Masahiro Murakami
掲 載 誌:Journal of the American Chemical Society DOI:10.1021/jacs.0c13332

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:村上正浩
研究者名:石田直樹

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