2020-09-15 東京大学,理化学研究所,東北大学,科学技術振興機構
ポイント
- 磁性ワイル半金属と呼ばれる特殊な磁性体において巨大な磁気光学効果を発見しました。
- 観測した磁気光学効果は物質のトポロジカルな性質を反映しており、これまでにない発現機構のものと言えます。
- テラヘルツ・赤外領域における革新的な光学デバイスの開発の進展が期待できます。
東京大学 大学院工学系研究科の岡村 嘉大 助教、高橋 陽太郎 准教授、理化学研究所の十倉 好紀 センター長、東北大学 金属材料研究所の藤原 宏平 准教授、塚﨑 敦 教授らの研究グループは、磁性ワイル半金属と呼ばれる近年新たに見つかった磁性体において、巨大な磁気光学応答の実証に成功しました。トポロジカル物質と呼ばれる一連の物質群では、特殊な電子構造に由来した新奇な電磁気応答が理論的に予測されており、次世代エレクトロニクス・フォトニクスへの応用展開が期待されています。例えば、こうした物質群においては、電子はあたかも非常に大きな磁場がかかっているかのように振る舞い、巨大な異常ホール効果に代表される非自明な伝導現象が報告されています。その一方で、光学応答についても物質のトポロジーに由来した新たな現象の存在が期待されていました。
今回、岡村 嘉大 助教らは、強磁性でなおかつトポロジカル物質であるCo3Sn2S2において、トポロジカルな電子構造に関連した磁気光学応答の探索を行いました。テラヘルツから赤外の広い光学領域において、高精度に磁気光学ファラデー・カー効果を測定した結果、この物質の磁気光学効果が、これまで観測されてきた通常の磁性体と比べてはるかに大きいことがわかりました。さらに、光学ホール伝導度スペクトルと第一原理計算との比較を行うことで、観測した光学応答がまさにトポロジカルな電子構造に由来していることを明らかにしました。
今回得られた成果は、トポロジカル物質が一般的に大きな磁気光学効果を示すことを示唆しています。今後、トポロジカル物質を利用した新しい光デバイスの開発へとつながっていくことが期待されます。
本研究成果は、2020年9月15日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成(研究代表者:川﨑 雅司)」(No.JPMJCR16F1)、「ナノスピン構造を用いた電子量子位相制御(研究代表者:永長 直人)」(No.JPMJCR1874)、「トポロジカル機能界面の創出(研究代表者:塚﨑 敦)」(No.JPMJCR18T2)の支援を受けて行われました。
<論文タイトル>
- “Giant magneto-optical responses in magnetic Weyl semimetal Co3Sn2S2”
- DOI:10.1038/s41467-020-18470-0
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
岡村 嘉大(オカムラ ヨシヒロ)
東京大学 大学院工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター 助教
藤原 宏平(フジワラ コウヘイ)
東北大学 金属材料研究所 低温物理学研究部門 准教授
塚﨑 敦(ツカザキ アツシ)
東北大学 金属材料研究所 低温物理学研究部門 教授
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
理化学研究所 広報室 報道担当
東北大学 金属材料研究所
科学技術振興機構 広報課