オリオン座「もうすぐ星が生まれる場所」目録完成~「謎の二つ目玉」原始星の発見~

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2020-08-04 国立天文台

概要
星々の誕生している場所は「分子雲」と呼ばれ、宇宙空間において分子ガスが集まっているところです。分子雲の中でも特に密度が濃くなっているところは「分子雲コア」と呼ばれており、星の誕生する現場にあたります。そして、分子雲コアの中心部が、自分の重力によってさらに収縮していくことにより、原始星と呼ばれる生まれたばかりの星になると考えられています。しかしながら、すべての分子雲コアで星が誕生するとは限りません。また、どの分子雲コアからもうすぐ星が誕生しそうかを特定することはとても困難でした。
野辺山宇宙電波観測所の金観正研究員と立松健一所長をはじめとする国際研究グループは、重水素という特殊な水素に着目し、重水素の割合が星の誕生時に最大になることを利用して星の誕生の現場を探し出しました。まず、野辺山45m電波望遠鏡を使って、オリオン座分子雲にある「分子雲コア」の重水素の測定を一つ一つ実施して、オリオン座における「もうすぐ星が生まれる場所」目録を完成させました。次に、星の誕生の直前・直後と判明した場所を、最高の性能を持つ南米チリにあるアルマ望遠鏡森田アレイによって詳細な観測を実施しました。その結果、星の誕生の直前の場所では周囲のガスが集まる「体重増加」運動が観測され、星の誕生直後の場所では「謎の二つ目玉」構造が発見されました。これらの結果は、分子雲コアが星の誕生のプロセスをどのように開始するのか、そして、星の誕生のプロセスはどうなっているのかという謎に大きなヒントを与えるものです。

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図1:オリオン座の写真と野辺山45m電波望遠鏡、アルマ望遠鏡の森田アレイの観測結果。右下が謎の2つ目玉構造。中段は45m電波望遠鏡で観測された分子雲コアの「水素を含む分子」の分布を示し、下段はアルマ望遠鏡によって「重水素を含む分子」で撮影された拡大図である。

星の誕生のきっかけ
星の原材料となる分子ガスが集まっている「分子雲」の中でも特に密度が濃くなっているところが「分子雲コア」であり、星々が誕生する現場と考えられています。分子から発する電波をとらえることによって分子雲や分子雲コアは観測されるため、星が生まれる前の段階は電波での観測がたいへん重要になります。一方で、電波望遠鏡の観測で密度のたいへん濃い場所を特定することはできるのですが、すべての分子雲コアで星が誕生するとは限らず、また、観測した分子雲コアで本当に近い将来星が誕生しそうかどうかを判断することはできませんでした。そのため、分子雲コアの中心部が重力によって収縮し原始星ができると考えられていますが、どのようにして分子雲コアから星が誕生するプロセスに至るのかが解明されていないのです。
星の誕生の指標となる重水素
野辺山宇宙電波観測所の金観正研究員と立松健一所長をはじめとする国際研究グループは、重水素という特殊な水素に着目しました。水素は、炭素や酸素などの宇宙を構成する元素の中で最も軽く、最も多く存在するものです。一方で重水素は、通常の水素より中性子という粒子を一個多く持っているため、約2倍の重さを持つ、特殊な水素と言えるでしょう。最近の観測によってこの重水素が、たいへん重要な存在であることがわかってきました。通常の水素に対する重水素の割合をみると、分子雲コアの中でどんどん高くなりますが、ひとたび星が誕生すると急に減少することがわかってきたのです。つまり、重水素の割合が多いほど、星の誕生の瞬間に近いことになります。重水素の割合の測定は、岩石・化石の放射年代測定に類似していると言えるでしょう。
観測手法とその結果
研究グループは、まず野辺山45m電波望遠鏡を使って、オリオン座分子雲にあるたくさんの分子雲コアの重水素の割合を測定しました。そして、重水素の割合が大きい場所を特定し、オリオン座の「もうすぐ星が生まれる場所」目録を完成させたのです。「もうすぐ」といっても10万年単位の話ですが。さらに、この観測によって、重水素が多くて星誕生の直前と直後だと判明した場所(図1)を、史上最高性能を誇るアルマ望遠鏡で詳細に観測しました。アルマ望遠鏡の日本製作部分「森田アレイ」※を使った観測です。その結果、星の誕生直前の場所では周囲のガスが分子雲コアに向かって流れ込む様子が観測されました。分子雲コアから星形成のプロセスが開始されるきっかけとして、「乱流(さざ波)減衰」、「磁力線減少」、そして「体重増加」の3つのモデルがありますが、今回の結果は「体重増加」モデルを支持するものです。また、星の誕生直後の場所では「謎の二つ目玉」構造が発見されました(図2)。原始星に対称に重水素を含むガスが分布しています。この構造がどのようにできたのか、また星の誕生に普遍的なことなのかは、今後の観測によって明らかになってくるでしょう。 重水素を指標とする観測は、星の誕生の現場を探り出す重要なツールとなります。このような観測によって、分子雲コアから原始星に至るプロセスの解明が進むことが期待されます。

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図2:アルマ望遠鏡の森田アレイで発見した「謎の二つ目玉」。赤い星印は原始星の位置を示す。重水素を含む分子N2D+の分布を示す図。※ 通常カタカナ表記ですが、研究代表者の立松所長の先輩・友人である森田耕一郎氏を偲んで今回のみ漢字表記とさせて頂きます。

今回の研究結果は、米国天文学会発行の学術専門誌 The Astrophysical Journal に6月に掲載、The Astrophysical Journal Supplement Series に8月に掲載予定の2つの論文にて報告されます。
・Tatematsu et al. “ALMA ACA and Nobeyama Observations of Two Orion Cores in Deuterated Molecular Lines“ ( doi:10.3847/1538-4357/ab8d3e )
・Kim et al. “Molecular Cloud Cores with High Deuterium Fraction: Nobeyama Single-Pointing Survey” ( doi:10.3847/1538-4365/aba746)

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