電池の劣化原因の詳細な解析が可能に 全固体電池の高性能化への貢献に期待
2020-02-17 物質・材料研究機構
NIMSは、全固体リチウムイオン二次電池の複合電極において、充放電反応に伴う電位分布の変化を連続的に可視化することに初めて成功しました。従来は反応開始前と終了後しか観測できなかった電極内の充放電反応機構の微視的理解が進むことで、全固体リチウムイオン二次電池の性能を向上させる新たなデバイス設計指針の獲得につながると期待されます。
概要
- NIMSは、全固体リチウムイオン二次電池の複合電極において、充放電反応に伴う電位分布の変化を連続的に可視化することに初めて成功しました。従来は反応開始前と終了後しか観測できなかった電極内の充放電反応機構の微視的理解が進むことで、全固体リチウムイオン二次電池の性能を向上させる新たなデバイス設計指針の獲得につながると期待されます。
- 全固体リチウムイオン二次電池は、その高い安全性や良好なサイクル特性から、次世代の蓄電池として期待されています。実用化に向けてさらなる電池性能の向上が求められていますが、そのためには、充放電中に電極内部で生じる電気化学反応を詳細に解析し、性能低下をもたらしている原因を探求する必要があります。本研究チームは2016年に、充放電前後での電極内の電位変化を高い空間分解能で直接観察する手法を開発しましたが、さらなる詳細な解析のため、充放電中に電極内部で生じる電位分布変化を連続的に計測する技術が望まれていました。
- 今回、研究チームは、これまでに開発した断面試料作製技術とケルビンプローブフォース顕微鏡技術に電気化学測定系を組み込むことで、動作中の電池の内部電位変化を連続的に可視化する技術を開発しました。さらにこの手法を用いて、実際の全固体リチウムイオン二次電池の複合正極で進行する充放電反応の様子を観察した結果、充電反応は集電体側から負極側へ不均一に進行していくのに対し、放電反応は複合正極全体で均一に進むことが分かりました。これは、充電過程では複合正極中で電子伝導ネットワークがうまく形成されていないことを示す結果です。
- 開発した手法は、従来の電気化学測定では困難だった電池性能の劣化原因の詳細な解析など、様々な電池評価技術への応用が可能です。今後、電池開発の現場において、電池の高性能化に向けた電池設計・構造制御指針を得るための重要な技術として利用されることが期待されます。
- 本研究は国立研究開発法人物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点 表面物性計測グループの石田暢之主任研究員と増田秀樹NIMSポスドク研究員 (現筑波大学) らの研究チームによって行われました。また本成果の一部は、科学技術振興機構 (JST) が推進する戦略的創造研究推進事業 (CREST) 「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的異能素材等の創成」のうちの採択課題「超イオン伝導パスを拓く階層構造による結晶相界面デザイン」、および、文部科学省の委託事業「統合型材料開発プロジェクト」に基づいたナノ材料科学環境拠点の支援を受け、NIMS蓄電池基盤プラットフォームの設備を用いて行われました。本研究成果は、NIMSおよび太陽誘電株式会社の共著論文として、英国時間2019年12月12日にCommunications Chemistry誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図 : (a) 電池構造と観察領域、(b) 電位分布観察時のサイクリックボルタモグラム、(c-g) 充電過程および (h-l) 放電過程における複合正極の電位分布の変化
掲載論文
題目 : Dynamically visualizing battery reactions by operando Kelvin probe force microscopy
著者 : 増田秀樹、松下恭介、伊藤大悟、藤田大介、石田暢之
雑誌 : Communications Chemistry
掲載日時 : 英国時間2019年12月12日