アルコールや菓子類、レストランなどの消費削減が排出量低減の鍵に~
2019-12-20 総合地球環境学研究所
発表のポイント
- 日本の食のサプライチェーンで発生する二酸化炭素排出量 (カーボンフットプリント) 推計モデルを用いた約 60,000家庭の食の消費データの分析により、二酸化炭素を多く排出している家庭は、少ない家庭と比較して、アルコール飲料 (3.3倍) や菓子類 (2.0倍)、レストラン (2.0倍)、野菜、魚の消費額が大きく、カーボンフットプリントに寄与していることが明らかになった。
- これまでの研究で食のカーボンフットプリントの要因として明らかになってきた牛肉や豚肉など肉類の消費は、カーボンフットプリントの大きい家庭と小さい家庭とでほとんど差がなかった。
- この結果から、牛肉などから鶏肉や野菜中心への食生活の転換は多くの家庭にとって二酸化炭素排出量の削減に重要であるが、二酸化炭素を多く排出している家庭の排出量削減にはアルコール飲料や菓子類の消費、レストランの利用の低減が有効であることが明らかになった。
- 本研究は、Cell Press の科学誌One Earth に発表された。
研究背景
- 食のサプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量は、温室効果ガス排出量全体の大きな部分を占めている。特に、牛肉をはじめとする肉類は、畜産の過程で大量の飼料が必要であり、またメタン(家畜のゲップ)も排出されることから、気候変動の原因として問題となっている。
- この問題を解決するための方法の一つとして、牛肉や豚肉ではなく、サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量の小さい鶏肉や野菜を中心とした食生活の転換が必要であるという認識が世界中で広がっている。
- しかし、この食生活の転換は、肉類を多く食べる少数の家庭のみにとって重要なのか、あるいは多くの家庭に共通して重要なのかは全く明らかになっていない。
- 消費に関する統計データが豊富で、牛肉消費が少ないなど食のライフスタイルが先進的と言われる日本を対象に、家庭の食の消費データと食のサプライチェーンでの⼆酸化炭素排出量の要因を分析すると、日本だけでなく多くの国にとって有用な知見となる。
研究方法
- 総務省が実施している全国消費実態調査で得られた世帯ごとの食の消費データと、47都道府県間のサプライチェーンに伴う⼆酸化炭素排出量推計モデルを組み合わせることで、約60,000世帯それぞれの食のカーボンフットプリントを推計した。
- 約60,000世帯をカーボンフットプリントの大きさにしたがって4つのグループに分けて、肉類、魚、野菜などの食の消費項目をグループごとに比較した。
研究の特徴
- 既存研究では、国別に食のカーボンフットプリントを推計してきたが、個々の家庭レベルでどのような違いがあるのかは明らかになっていなかった。
- 本研究は、世界で初めて個々の家庭レベルの消費データを用いたことで、何が家庭ごとの食のカーボンフットプリントの差を示すのかを明らかにした。
期待される効果
- 鶏肉や野菜を中心とした食生活の転換によるカーボンフットプリント削減は、少数の家庭が行えば良いものではなく、多くの家庭にとって重要であることが明らかになった。
- ⼀方で、現在、食のカーボンフットプリントが高い家庭に対して気候変動への影響を減らすためには、アルコールや菓子類の消費、レストラン利用頻度の低減を促すための政策や対策が必要であることが分かった。
発表者
金本圭一朗 (総合地球環境学研究所)、Daniel Moran (Norwegian University of Science and Technology)、重富陽介 (長崎大学)、Christian Reynolds (University of Sheffield)、近藤康之 (早稲田大学)
発表論文・発表雑誌
- 雑誌名:One Earth
- 掲載日:2019 年12⽉20日 (日本時間2019年12月21日)
- 論文タイトル:Meat consumption does not explain differences in household food carbon footprints in Japan
- 著者:Keiichiro Kanemoto, Daniel Moran, Yosuke Shigetomi Christian Reynolds, Yasushi Kondo
- DOI番号: https://doi.org/10.1016/j.oneear.2019.12.004
問い合わせ先
総合地球環境学研究所 准教授 金本圭⼀朗