貴金属触媒を使わずバイオマスからプラスチック原料を合成

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最適構造の二酸化マンガン触媒の開発に成功

2019/01/07  東京工業大学,科学技術振興機構

ポイント
  • β-二酸化マンガン触媒で糖由来化合物からポリマー原料の高効率合成に成功。
  • 理論計算により、さまざまな二酸化マンガンから最適な触媒構造(β型)を予測。
  • 既存触媒の6倍の表面積を持つβ-二酸化マンガン触媒合成の新手法を開発。

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の原 亨和 教授、鎌田 慶吾 准教授、大場 史康 教授と元素戦略研究センターの熊谷 悠 特任准教授らは、石油などの有限資源や貴金属触媒を一切使わずにポリエチレンテレフタレート(PET)から代替えが期待されているポリエチレンフラノエート(PEF)の原料「2,5-フランジカルボン酸(FDCA)注1)」を効率的に合成することに成功した。β-二酸化マンガン(β-MnO注2)を触媒に用い、再生可能なバイオマス由来の5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)注3)からFDCAを合成した。

原教授らが開発したアモルファス前駆体の低温結晶化法により、大きな表面積を持つβ-MnOナノ粒子を合成することが可能になり、従来のMnO触媒の性能を飛躍的に向上させることを達成した。従来の合成手法では大きな表面積を持つβ-MnOの合成は困難とされていたが、今回の開発技術を用いれば地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO)の排出を大幅に低減することが見込まれる。

限られた化石資源を使わずに化成品を製造することは避けられない課題となっており、そのために新しい触媒材料の設計と開発が切望されている。今回の技術開発はこうした社会のニーズに応えるものといえる。

研究成果は2019年1月7日(日本時間16時)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版で公開された。

本成果は主に、以下の事業・開発課題によって得られた。

戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)

研究開発課題名:「多機能不均一系触媒の開発」

研究代表者:原 亨和(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授)

研究開発実施場所:東京工業大学

研究開発期間:2012年10月~2020年3月

<研究の背景と経緯>

近年、汎用化成品・バイオプラスチック・燃料などの高付加価値製品の製造に、化石資源の代わりとなる生物由来の再生可能なバイオマス資源が注目されている。これらは化石資源と異なり、生成したCOが光合成で再びバイオマス資源へと変換されるためCO排出低減にも大きく寄与する(図1)。しかし反応制御において今なお多くの課題を抱えており、優れた触媒系の開発が急務となっている。

糖や炭水化物から生成される5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を酸化して得られる2,5-フランジカルボン酸(FDCA)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)の代替えポリマーであるポリエチレンフラノエート(PEF)の原料として注目されている。さらに、PEFはPETよりも優れたガスバリア性、熱安定性、低温での熱可塑性を持つため、容器や電子材料の封止材として高いポテンシャルが示唆されている。

特に、PEFボトルは東京オリンピックでの大幅な使用増が視野に入れられるなど、今後のFDCA製品市場の開発と拡大の可能性は極めて高いと考えられている。固体触媒を用いたHMF酸化によるFDCA合成反応は貴金属担持触媒の研究が主だが、過剰量の強塩基(NaOH)の添加や反応溶液への金属の溶出といった問題点がある。一方、貴金属フリーな触媒系は一般的に活性が低く、高収率でFDCAを得られる反応系はなかった。

このような研究背景のもと、希少金属触媒を使わずにHMFをFDCAへと効率的に変化できる触媒系の開発に着手した。安価で豊富に存在するマンガン酸化物の多様な結晶構造を精密に制御し、FDCA合成に最適な構造がβ-MnOであることを実験および理論計算により明らかにした。β-MnOの新しい合成手法を用いることで、従来合成法の問題点(β-MnOの表面積は小さく触媒性能が低い)を解決することに成功した。

電気化学反応の分野ではMnO触媒の結晶構造依存性は広く検討・議論されている一方、液相での有機反応に対して系統的な検討や活性-構造の相関に関する議論が行われた例はほとんどなかった。β-MnO触媒の有用性実証およびバイオマス変換反応における固体触媒としての利用はこれまでになく、今回の研究が初めての報告例となる。

<研究成果>

東工大の原教授らは実験と理論計算から触媒構造と反応機構を検討し、β-二酸化マンガン(β-MnO)触媒中の三つのマンガンを架橋する酸素原子が酸化反応に寄与すること、さらにこの知見は糖由来化合物5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を酸化して2,5-フランジカルボン酸(FDCA)を合成する反応に適用できることを明らかにした。この成果は安価で豊富に存在するMnOの精密な構造の制御が希少金属触媒を使わないバイオマス変換反応に有効なことを示している。

具体的には独自に開発したアモルファス前駆体の低温結晶化法により得られたβ-MnOナノ粒子が、HMFからポリエチレンテレフタレート(PET)の代替えポリマーであるポリエチレンフラノエート(PEF)の原料のFDCAへの酸化反応を促進する固体触媒として機能することを発見した(図1上)。

安価で豊富に存在するMnOは多様な結晶構造を持つが、液相酸化反応における反応性の違いについてはこれまで未解明であった(図2)。そこで、実験と理論計算を用いて、最適構造や反応サイトについての詳細な検討を行った。まず、各二酸化マンガンについて第一原理計算注4)を用いて結晶構造内の酸素の空孔形成エネルギー注5)を算出したところ、β-MnOの三つのマンガンを架橋する酸素原子が最も空孔になりやすい(=反応しやすい)ことが分かった。

実際に、さまざまな結晶構造を持つMnOを合成し、各構造中の酸素の反応性を昇温還元測定(H-TPR)注6)により求めたところ、β-MnOの酸素の反応性が最も高いことが示唆された(図3)。このことは、実際の触媒反応の活性序列とも一致したことから、本研究により初めてβ-MnOの液相酸化反応への優れた触媒能が明らかとなった。

これまでに水熱法注7)によるβ-MnOの合成が報告されているが、表面積が小さいために触媒性能の向上を大きく制限していた。そこで、4価のマンガン種を含むアモルファス前駆体を低温で結晶化する新しい合成手法を開発し、従来の水熱法で合成したサンプルの約6倍の表面積を持つβ-MnOナノ粒子を合成することに成功した。HMFの酸化反応を行うとFDCA収率が大きく向上し、高表面積化による飛躍的な触媒性能の向上が確認された(図4)。

<今後の展開>

今回開発した高機能β-MnO触媒は、HMFの酸化反応によるFDCA合成反応だけでなく、さまざまな液相での選択酸化反応や気相での完全燃焼反応など広範な化学反応に適用できる可能性がある。さらに、MnOは触媒以外にも化学センサー、磁性材料、スーパーキャパシタや電極材料としても研究されているため、広範な用途応用への展開も期待される。

今回の結果は、ありふれたMnOという物質であっても精密な理論計算・構造制御により、固体触媒の活性を大きく向上させることができることを示している。今後、本アプローチを他の(複合)酸化物触媒にも応用することで、機能を予測して触媒をつくることができるため、さらなる活性向上や別の反応への展開が可能となり、温和な条件下での高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待される。

<参考図>

図1

図1

(上)バイオマス資源からのポリエチレンフラノエート(PEF)合成ルート。本研究で新規に開発したβ-MnOナノ粒子触媒が、HMFからFDCAへの酸化反応を効率的に促進する。

(下)化石資源からのポリエチレンテレフタレート(PET)合成ルート。PET生産量は非常に多いため、バイオマス資源からの合成ルートに置き換えることができれば飛躍的なCO排出抑制につながる。

図2 MnO2の持つ多様な結晶構造

図2 MnOの持つ多様な結晶構造

ピンク色の八面体はMnOユニットである。

図3 実験結果(触媒反応活性・酸素原子の反応性)と理論計算結果(酸素の空孔形成エネルギー)の関係

図4 従来法(水熱法)および新法(本研究)により合成したβ-MnO2を用いたHMFの酸化反応

図4 従来法(水熱法)および新法(本研究)により合成したβ-MnOを用いたHMFの酸化反応

新法により合成したβ-MnOの表面積は従来法のものよりも約6倍になり、中間生成物5-ホルミル-2-フランカルボン酸(FFCA)の生成はほとんど観測されずFDCA収率が向上した。

<用語解説>
注1)2,5-フランジカルボン酸
両末端にカルボキシ基を有するフラン化合物。PETの原料であるテレフタル酸と類似の構造を有しているため、PET代替ポリマーの原料として注目されている。
注2)β-二酸化マンガン
さまざまな構造を持つMnOの中の一種で、一次元の(1×1)のチャネル構造を持つ。結晶性MnOはMnO八面体ユニットが頂点共有あるいは稜共有することで、さまざまなトンネル構造や層状構造を形成する。
注3)5-ヒドロキシメチルフルフラール
水酸基とホルミル基を有するフラン化合物。グルコースから得られるためバイオマス由来原料として、モノマーや燃料として検討されている。
注4)第一原理計算
実験で得られた結果を参照しないで構成元素と構造のみをパラメーターとし、系の電子状態やエネルギーなどを求める計算手法。
注5)酸素の空孔形成エネルギー
酸化物の結晶構造から酸素原子が酸素分子として抜けて酸素空孔(本来酸素原子がある場所が空の状態)が形成する際のエネルギー変化。
注6)昇温還元測定
-TPRは金属酸化物の物性評価の1つで、酸化物の還元性について定量的な情報を与える。
注7)水熱法
高温高圧の熱水中で化合物を合成あるいは結晶成長する手法。
<論文情報>

タイトル:“Effect of MnO2 Crystal Structure on Aerobic Oxidation of 5-Hydroxymethylfurfural to 2,5-Furandicarboxylic Acid”

著者名:Eri Hayashi, Yui Yamaguchi, Keigo Kamata, Naoki Tsunoda, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba, and Michikazu Hara

DOI:10.1021/jacs.8b09917

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

鎌田 慶吾(カマタ ケイゴ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

<JST事業に関すること>

江森 正憲(エモリ マサノリ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部 低炭素研究推進グループ

<報道担当>

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

科学技術振興機構 広報課

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