2018/09/06 農研機構
農研機構は、「きぬむすめ」より収穫期がやや遅い”やや晩生”で多収の良食味水稲新品種「恋初めし」を育成しました。収量は、「きぬむすめ」と比較して、2割程度多収です。玄米千粒重は24g程度で、やや大粒です。穂いもちと縞葉枯しまはがれ病1)に強い特長があります。多収性を活かし、業務用としての利用が期待されます。
概要
- 農研機構は、西日本向けの多収・良食味水稲新品種「恋初めし」を育成しました。
- 西日本で多く栽培されている「きぬむすめ」と比較すると、育成地 (広島県福山市) では出穂期は3日ほど、成熟期は5日ほど遅く、”やや晩生”です。
- 収量は「きぬむすめ」より 2 割程度多収です。西日本を中心とした地域で実施した奨励品種決定調査では、それぞれの地域の対照品種より平均で13%ほど多収です。
- 玄米千粒重は、「きぬむすめ」より3 gほど重く、24 g程度です。食味は、「きぬむすめ」に近い良食味です。
- 穂いもちと縞葉枯病に強く、栽培適地は、西日本を中心とした地域です。
- 多収性を活かし、業務用としての利用が期待されます。
関連情報
- 予算:農林水産省委託プロジェクト研究「実需者等のニーズに応じた超多収良食味業務用及び超多収加工用水稲品種等の開発」および運営費交付金
- 品種登録出願番号:第33003号(平成30年4月5日出願、8月14日出願公表)
お問い合わせ
研究推進責任者
農研機構 西日本農業研究センター 所長 水町 功子
研究担当者
同 水田作研究領域 水稲育種グループ 主任研究員 重宗 明子
広報担当者
同 企画部 産学連携室 広報チーム長 菅本 清春
詳細情報
新品種育成の背景・経緯
近年、主食用米の約4割が中食・外食等の業務用向けに販売されており、業務用実需者のニーズに応じた多収・良食味品種への要望が高まっています。農研機構で育成した、「あきだわら」、「たちはるか」などの多収で良食味の品種は、西日本でも業務用としての作付けが広がっています。
一方、高齢化や担い手不足などにより農業生産法人へ作業委託する農家が増えており、農業生産法人が作付けする農地は増大し続けています。作業を分散し、効率よく田植えや収穫を行うには、熟期が異なる品種を組み合わせることが必須となっており、西日本で中生の「あきだわら」と晩生の「たちはるか」の間の”やや晩生”にあたる品種が要望されていました。また、これまでの業務用に適した品種には、いもち病や縞葉枯病への抵抗性が不十分な品種もあり、これらの改良も急がれる状況にありました。
そこで農研機構は、”やや晩生”で穂いもちと縞葉枯病に強く、業務用に適した多収・良食味品種「恋初めし」を育成しました。
新品種「恋初めし」の特徴
- 多収で良食味の「あきだわら」と、穂いもちと縞葉枯病に強く、良質・良食味の「中国201号(後の「恋の予感」)」を交配して育成した品種です。
- 西日本で多く栽培されている「きぬむすめ」と比較すると、育成地(広島県福山市)では出穂期は3日ほど、成熟期は5日ほど遅くなります。業務用に適する品種として広く栽培されている「あきだわら」と比較すると、出穂期は6日、成熟期は5日遅くなります(表1)。「きぬむすめ」と比較すると、稈長は同等で、穂長は長く、穂数はやや少なく、草型は”偏穂重型”です(写真1)。
- 育成地における収量は、約690 kg/10aで、「きぬむすめ」と比較すると2割程度多収で、「あきだわら」とほぼ同等です(表2)。西日本を中心とした地域で実施した奨励品種決定調査では、ほとんどの試験で地域の対照品種(「日本晴」、「ヒノヒカリ」など)より多収であり、平均で13%ほど多収です(図1)。玄米千粒重は「きぬむすめ」、「あきだわら」より3 gほど重く24 g程度です。玄米品質は「きぬむすめ」並です(表2、写真2)。
- 食味は、「日本晴」と比較すると明らかに良好で、「きぬむすめ」に近い良食味です(図2)。
- 穂いもちに強く、縞葉枯病に抵抗性を持ちます。また、トリケトン系4-HPPD阻害型除草剤2)には抵抗性を示します(表3)。
- 栽培適地は、西日本を中心とした地域です。
栽培上の留意点
- 高温登熟耐性が “やや弱”のため(表3)、登熟期が高温となる地域や作期では白未熟粒が増加し、玄米品質が低下するおそれがあります。
- 耐倒伏性が”やや強”で、多収品種としてはやや不十分ですので、極端な多肥は避けてください。
- 白葉枯病にやや弱いため、常発地では防除を徹底して下さい。
品種の名前の由来
親品種である「恋の”予感”」が発展して、恋が始まったことをイメージし、業務用に適する品種として広く栽培し始められることを願って「恋”初めし”」と命名しました。
今後の予定・期待
- 出穂特性からみた栽培適地は西日本ですが、”かなり晩生”となる北陸地域でも、大規模農業生産法人で収穫時期の拡大に向けた試作が始まっています。
- 多収で、かつ千粒重が24 g程度と大きく、精米・炊飯歩留まりの向上が期待できることから、中食や外食向けの業務用としての利用が見込まれます。
種子入手先に関するお問い合わせ先
- 農研機構 西日本研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム
- 農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
用語の解説
1)縞葉枯病
- ヒメトビウンカによって媒介されるイネのウイルス病で、感染したイネは、茎数の減少や穂の出すくみが起こるため、減収します。ヒメトビウンカは、ムギ畑やイネ科雑草地で越冬するほか、海外からの飛来も確認されており、2008年には西日本の各地で縞葉枯病が多発しました。
- 日本陸稲品種や外国水稲品種には、縞葉枯病に抵抗性を持つ品種が多く存在しており、西日本農業研究センターの前身の中国農業試験場では、1964年にパキスタン原産品種の「Modan」から抵抗性を導入した我が国最初の縞葉枯病抵抗性の中間母本「St No.1」を育成しています。「St No.1」を利用して、「あさひの夢」、「恋の予感」、「恋初めし」など、縞葉枯病抵抗性品種が多数育成されています。
2)トリケトン系4-HPPD阻害型除草剤
- ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、メソトリオンの3つの除草剤成分で、現在では3割以上の除草剤に含まれる、重要な成分となっています。「とよめき」、「やまだわら」など、業務用として栽培されている多収品種にはこれらの薬剤に感受性を示し、投与すると枯死するものが存在することが確認されています。