高移動度グラフェン超格子デバイスの作製により成功 量子エレクトロニクスへの展開に期待
2018-05-19 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 国立大学法人 群馬大学
NIMSと群馬大学は、高い移動度を持つグラフェン超格子デバイスを作製し、トポロジカルな原理による量子バレー流の観測に成功しました。バレーという固体結晶内の電子が持つ量子力学的内部自由度 (隠れた自由度) を利用した量子光学的干渉素子やトポロジカルな超伝導量子情報素子など新しい量子エレクトロニクスへの展開が期待されます。
概要
- 物質・材料研究機構と群馬大学は、高い移動度を持つグラフェン超格子デバイスを作製し、トポロジカルな原理による量子バレー流の観測に成功しました。バレーという固体結晶内の電子が持つ量子力学的内部自由度 (隠れた自由度) を利用した量子光学的干渉素子やトポロジカルな超伝導量子情報素子など新しい量子エレクトロニクスへの展開が期待されます。
- バレー流によって情報を伝達することを目指すエレクトロニクスはバレートロニクスとも呼ばれ、近年のInternet of Things(IoT)に資する低消費電力素子の候補の一つとして注目されています。エレクトロニクスの担い手である電子は、電荷やその自転方向に対応するスピンと呼ばれる量子力学的な内部自由度を持っています。固体結晶中の電子は、さらにバレーという隠れた内部自由度が存在し、今日のエレクトロニクスの基盤を担うシリコンなどの半導体材料で古くから知られていました。しかし、バレー自由度を制御することは難しく、積極的にデバイスなどに利用する視点は最近まで注目されていませんでした。
- 黒鉛の単原子層であり、炭素原子が蜂の巣状に並んだシートであるグラフェンと、同じく蜂の巣構造を持つ六方晶窒化ホウ素を貼り合わせたグラフェン超格子デバイスでは、電子はバレー自由度を持つことができ、電荷の移動に伴って電流が生じるのと同様に、バレー流というものが電荷の流れを伴わずに発生することが予測されています。今回研究チームは、高品質なグラフェン超格子デバイスを作製してバレー流の検出を試み、巨大なシグナルとしてバレー流を電気的に検出することに成功しました。さらに、デバイスの端 (エッジ) に局在した電流が現象を支配している、量子バレー流の可能性を確認しました。
- 量子バレー流の基礎科学的研究をベースに、将来のデバイス応用を目指し、バレー自由度を外部から制御する量子光学的干渉素子やトポロジカルな超伝導量子情報素子などの開発を進めていきます。
- 本研究は、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の小松克伊 博士研究員 (現在、東芝メモリ株式会社) 、森山悟士 主任研究員と、群馬大学大学院理工学府電子情報部門の守田佳史 准教授からなる研究チームによって行われました。本研究成果は、現地時間2018年5月18日午後2時 (日本時間19日午前3時) に米国の科学雑誌「Science Advances」に掲載されます。
プレスリリース中の図2:グラフェンと六方晶窒化ホウ素で作製した原子層超格子デバイス
掲載論文
題目 : Observation of the quantum valley Hall state in graphene superlattices
著者 : Katsuyoshi Komatsu, Yoshifumi Morita, Eiichiro Watanabe, Daiju Tsuya, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, and Satoshi Moriyama
雑誌 : Science Advances
掲載日時 : 現地時間2018年5月18日午後2時 (日本時間19日午前3時)
DOI:10.1126/sciadv.aaq0194