太陽の自転周期が雷の発生に影響している

太陽の自転周期が雷の発生に影響している

江戸時代の日記の分析で判明

2018/04/27 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
学校法人武蔵野美術大学 大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国文学研究資料館
学校法人成蹊学園 成蹊大学 国立大学法人総合研究大学院大学

武蔵野美術大学(学長:長澤忠徳)の宮原ひろ子准教授、国立極地研究所(所長:中村卓司)・総合研究大学院大学(学長:長谷川眞理子)の片岡龍峰准教授、国文学研究資料館(館長:ロバート キャンベル)の岩橋清美特任准教授らの研究グループは、江戸時代の古典籍に含まれる日々の天気の記録などから、太陽の27日の自転周期が過去300年にわたって日本での雷の発生に影響を及ぼしてきたことを明らかにしました。

太陽活動と気候変動に相関が見られることはすでに知られていますが、そのメカニズムはまだ分かっておらず、加えて、気象の時間スケールでも太陽活動が影響するのかどうかについては議論が続いています。

研究グループは、江戸時代の古典籍を用いて、17世紀後半以降の約200年分の弘前、八王子、江戸における雷の発生日を調べました。その結果、太陽活動が活発化するほど、日本の夏の雷の発生に27日周期が強く現れることを発見しました。これは、太陽の自転が気象のスケールでも重要な影響を与えていることを示唆するものです。

太陽活動が活発化すると、太陽表面に黒点や白斑が現れ、また太陽フレアも起こりやすくなります。太陽の自転の影響で地球に降り注ぐ光の量が周期的に変化することや、太陽フレアの発生により地球に降り注ぐ宇宙線の量が27日周期で変動することが、雷の発生に影響している可能性があります。今後、太陽活動が雷の発生に影響するメカニズムを解明することにより、気候予測の精度向上や、長期的な気象予測への手がかりになることが期待されます。

本研究は、欧州地球物理学会の発行する学術誌「Annales Geophysicae」にオンライン掲載されました。

研究の背景

太陽の活動は、様々な時間スケールで変化します。よく知られている11年周期のほか、長いものでは1000年、2000年といった周期でも変動しています。過去の気候変動を古気候学的に調べた研究により、地球の気候が、そういった長周期の太陽活動の変動と非常に良く一致した変動をしてきたことが分かってきました(文献1)。しかしながら、気象のレベルでの太陽活動の影響は、断片的にしか分かっていませんでした。

太陽の活動のなかでもっとも短い周期の変動が、自転による27日の周期です。自転の影響で、地球に届く光の量や宇宙放射線の量が27日周期で変化します。研究グループでは、その周期性に着目し、日本における気象、特に雷と、太陽活動との関連を調べました。

研究の成果

研究グループは、弘前市に残る『弘前藩庁日記』と、八王子市に残る『石川日記』の江戸時代の二つの文献から雷の記録を抽出し、17世紀後半から19世紀中頃にかけての5~9月の雷活動のリズムを調べました。弘前藩庁日記には、弘前の天気だけではなく、江戸(現在の東京都心部)の天気の記録も残されているため、弘前、八王子、江戸の三つの地点について調べることができました。

図1は、八王子(a~c)と江戸(d~f)の2か所の雷データを周期解析したものです。太陽黒点数の年平均値が150以上の太陽活動が非常に活発な年(a、d)と、75~150の年(b、e)、75以下の不活発な年(c、f)に場合分けをして、横軸に雷が発生してから次に雷が発生するまでの間隔(日数)を、縦軸にその間隔が現れた回数(年平均)をプロットしました。その結果、黒点数が75を超えると27日周期が現れ始めますが(約89パーセントの有意性)、150を超えると非常に強くその周期性が現れることが分かりました(約99.5パーセントの有意性)。八王子でも江戸でも、同じ傾向が確認されました。雷活動の27日周期が太陽活動と関係していることが強く示唆されます。

図1:八王子と江戸の雷の周期性。赤で示した箇所が太陽の自転周期(24~31日)に対応する。(a)(d)では特に、赤く色づけした箇所でグラフが上に伸びていることから、太陽の自転周期に類似する周期が強く表れていることが分かる。出典:Miyahara H., et al. Ann. Geophys., 36, 633-640, 2018(一部改変)

また、図には示していませんが、弘前では、太陽活動が活発な年でも、雷の発生に対する太陽の27日の周期の影響は、江戸や八王子と比較して非常に弱いものでした。

先行研究では、近年(2015年までの27年間)の雷のデータから、特に広域を覆う雷活動に、27日周期が強く現れることが示唆されていました(文献2)。本研究でもその期間の中で太陽活動が活発な時期についてデータをさらに詳しく調べてみたところ、太陽の27日周期の影響は、西日本から中部日本にかけて特に強く現れていることが見て取れました(図2)。比較的弱いものの、青森県でもその影響は見られます。一方、北海道では影響はほとんど見られません。

前述のとおり、17~19世紀にかけての弘前では、八王子や江戸と比較して27日周期が非常に弱まっていました。17~19世紀は、ちょうど小氷期の末期にあたります。寒冷化と、それにともなう大気循環の変化に関係して、本州の北端にあたる青森県でもこの時代は、近年の北海道と同様に、27日周期が出にくくなっていた可能性が考えられます。

図2:現代の雷データ(1989~2014年)による27日周期の強度マップ。σは統計的有意性を示す値で、数値が高いほど有意性が強い(偶然性が低い)ことを示す。例えば、1.5σが86%の有意性(すなわち、偶然に起こる確率が14%)、2.0σが95%の有意性(偶然に起こる確率が5%)を示している。出典:Miyahara H., et al. Ann. Geophys., 36, 633-640, 2018

研究の意義

太陽活動と気候変動の相関は数多く見つかってきていましたが、太陽の影響が気象のレベルでも確かに影響しているということが本研究によって示されました。現在はまだ太陽活動と気候/気象をつなぐメカニズムは解明されていません。したがって、気象予測には太陽活動の影響は組み入れられていませんし、気候モデルにもまだ十分にはその影響が組み込まれていません。今後、太陽活動がどのようにして地球に影響しているのか、そのメカニズムの解明を行っていくことが必要です。それを行うことによって、より精度の良い気候予測や、また長期的な気象予測への手がかりにもつながると考えられます。

発表論文

掲載誌: Annales Geophysicae
タイトル: Solar rotational cycle in lightning activity in Japan during the 18–19th centuries
著者:
宮原ひろ子(武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程研究室 准教授)
片岡龍峰(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 准教授 / 総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻 准教授)
三上岳彦(帝京大学 客員教授/首都大学東京 名誉教授)
財城真寿美(成蹊大学 経済学部 准教授)
平野淳平(帝京大学 文学部 専任講師)
吉村稔(山梨大学 名誉教授)
青野靖之(大阪府立大学 生命環境科学域 緑地環境科学類 准教授)
岩橋清美(国文学研究資料館 古典籍共同研究事業センター 特任准教授)
URL: https://www.ann-geophys.net/36/633/2018/
DOI: 10.5194/angeo-36-633-2018
公開日: 2018年4月18日(オンライン掲載)

文献

文献1: 宮原ひろ子「地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来」化学同人, 2014年.

文献2: Miyahara H., Higuchi C., Terasawa T., Kataoka R., Sato M., Takahashi Y., Solar 27-day rotational period detected in a wide-area lightning activity in Japan, ANGEO Communicates, 35, 583-588, 2017, doi:10.5194/angeo-35-583-2017.

研究サポート

本研究は、JSPS科研費(25287051、15H05816)、総研大学融合研究事業「天変地異と人間社会の変遷:言葉の在り方と世界の在り方」、および国文学研究資料館の「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画(歴史的典籍NW事業)」の支援を受けて実施されました。

お問い合わせ先

研究内容について
武蔵野美術大学 教養文化・学芸員課程研究室 宮原ひろ子

報道について
国立極地研究所 広報室
国文学研究資料館 古典籍共同研究事業センター事務室