半導体工場等における解析結果の精査時間を大幅に削減
2020-12-10 統計数理研究所
株式会社東芝(所在地:東京都港区 社長:車谷 暢昭 以下、東芝)および大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所(所在地:東京都立川市 所長:椿 広計 以下、統数研)は、半導体工場等の製造現場における不良原因解析AIにおいて、現場技術者の知見の反映を可能にすることなどにより、従来数日かかっていた解析結果の精査時間をわずか1日に短縮できるAI「Transfer Least absolute shrinkage and selection operator(Transfer Lasso)」を共同開発しました。
東芝および統数研は、Transfer Lassoの詳細を、機械学習分野において世界最高峰の国際会議の1つであるThirty-fourth Conference on Neural Information Processing Systems (NeurIPS2020、12月6日~12日、オンライン開催)にて発表します。
図1:不良原因解析AIの概要。品質監視データに加えて、現場技術者の知見と過去の品質低下原因を用いて原因を解析し、分析作業を大幅に短縮する。
製品の品質低下は生産コストに直接影響するため、製造現場においては、製品の品質を監視し、品質低下がみられる製品の検出、原因の特定、対策の実行を素早く行う必要があります。特に半導体の製造現場では、製造装置の経時変化や、メンテナンスによる装置の状態、また、納入される材料の特性変化等により、製品の品質が日々変動するため、定期的(毎週~毎月)な品質監視が求められます。監視データから品質が低下する原因を特定するには、AIで原因を推定し、現場技術者による推定結果の妥当性の確認(解析結果の精査)が必要です。
しかし、製造現場には多数の工程および製造装置があり、それぞれが複雑に連携しています。また、1つの製造装置あたり必要な監視項目は約400にのぼると言われており、監視データは極めて膨大になります。現場技術者が効率的に解析結果を精査するには、より効率的な原因推定を行うAIの開発が不可欠です。
図2:半導体工場ではAIを用いた不良原因の絞り込みを実施しているが、結果の精査に要する作業に時間がかかっている。
大規模な監視データから品質に影響する原因を自動的にあぶりだす手法として「Least absolute shrinkage and selection operator(Lasso)」というAIがありますが、前回の解析から原因に本質的な変化がない場合においても、データの中に存在するノイズの影響で誤った原因を提示し、解析結果が変わるという課題があります。現場技術者の知見による解析結果と異なることから、解析結果の精査には数日間必要でした。これはLassoによる原因解析が不安定なことに加え、現場技術者の知見の反映が難しいことに起因しています。
図3:従来技術を用いた品質低下の原因解析。原因解析が不安定であるため、解析結果が毎回変動し、結果の精査に要する作業量が大きくなってしまう。
そこで東芝および統数研は、解析結果の精査時間を大幅に削減できる新しいAI「Transfer Lasso」を共同開発しました。Transfer Lassoは、現場技術者が過去に精査した製造プロセスの知識や物理的な法則といった知見を反映することで、過去に実施したことがある解析結果の精査のやり直しが不要になります。また、技術者のAIに対する不安を払しょくし、より納得感のある原因解析の提供にもつながります。
さらに、前回の原因解析結果をもとに、取得した監視データの傾向の変化を検知し、変化(差分)があるときのみ、新たな原因や解消された原因を提示することを可能にしました。差分のみに着目することで、データにおけるノイズ等の影響を受けにくくなり、膨大なデータの中から本質的な原因を安定的かつ高精度に提示することができます。
一般的に、品質低下の原因と推定される項目は、1つの製造装置あたり10程度に絞り込む必要があると言われていますが、Transfer Lassoにより、従来、絞り込みに数日かかっていた現場技術者の精査時間を1日以内に削減することができます。また、定期的な原因解析にかかる作業時間を大幅に短縮し、素早く対策を検討することが可能になります。
Transfer Lassoは、理論保証のある汎用的な手法であることが認められ、NeurIPS2020に採択されました。
図4:Transfer Lassoを用いた品質低下の原因解析。現場技術者の知見を反映することで、同じ解析結果の精査の繰り返しが不要になる。
東芝では、2020年度末までに、パワー半導体工場においてTransfer Lassoを適用する予定です。また、2021年度末をめどに、化学プラント等を対象としたプラント監視制御システムへの搭載を目指します。今後、工場・プラントを含む様々な分野の実課題への適用を検証し、生産性・歩留り・信頼性の向上に貢献してまいります。
【本件に関するお問い合わせ先】
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
統計数理研究所 運営企画本部 企画室URAステーション