福島第一原子力発電所 1 ~ 3 号機における事故進展を探る

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国際ベンチマーク解析から得られた知見

『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.21

福島第一原子力発電所 1 ~ 3 号機における事故進展を探る

図1-16 環境中に放出された主要 FP の総量(解析結果)
THALES2/KICHE コードによる解析では、水相中におけるヨウ素の化学反応を考慮しています。そのため、気相中に移行しやすい分子状ヨウ素や不純物として存在する有機物との反応による有機ヨウ素が生成され、比較的高い環境中への放出割合が予測されました。

図1-17 2 号機原子炉容器内で観測された圧力上昇とその原因の考察
観測された三つの圧力上昇は、この期間の解析において溶融燃料と炉内構造物が混合したもの(以下、デブリ)が、水が残っている下部プレナムに段階的に移行していることから、デブリと水の相互作用により生じた水蒸気や水素が寄与したと考えています。


経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故に関するベンチマーク解析「BSAF」プロジェクトを 2012 年から 2018 年まで 2 期にわたり実施しました。第 1 期では地震発生後1 週間における事故進展に基づいた原子炉圧力容器(RPV)及び格納容器(CV)内部状況の推定、第 2 期では地震発生から 3 週間までを対象にした事故進展、核分裂生成物(FP)のプラント内移行挙動、環境に放出される FP の化学形や放出量及びそのタイミング(ソースターム)の推定を主たる解析目的としました。本プロジェクトでは、各国の参加機関が共通の境界条件を用いる解析の他に、事故進展や FP 移行挙動との関連性が高いと考えられる特徴的な観測データの再現に向けた解析を実施し、各機関の結果を集約することで確からしい事故シナリオの検討を行いました。

原子力機構では、独自のシビアアクシデント総合解析コード THALES2/KICHE を用いて 1 ~ 3 号機までの事故進展、FP 移行挙動及びソースターム解析を行いました。環境中に放出された希ガス、セシウム及びヨウ素の積算量に関する解析結果を図 1-16 に示します。例えば 1 号機では、特定の真空破壊弁が設置されている配管や排気筒下部近傍で高線量率が観測されたことから、この状況は圧力抑制室の圧力を圧力差でドライウェルに逃がす真空破壊弁が完全に閉まらなくなることで、FP を含んだドライウェルの気体の一部が FP 除去機能を持つ圧力抑制プールを経由せずに放出されることで生じたと仮定した解析を行いました。2 号機に関しては、地震による原子炉停止後から約 76 時間後に観測された RPV内の三つの圧力上昇に対応してサイト外の空間線量率が増えたことから、事故進展を探る重要な手掛かりとなり得ると考え、図 1-17 に示すようにその原因を推察しました。このような 1F 事故の観測データを参照した長期間の解析を通じ、THALES2/KICHE の解析の安定性や、多様な事故対応のモデル化等に係わる解析技術を向上させることができました。

各機関の解析結果を集約し、例えば 1 号機については、事故発生初期の外部からの注水が有効でなかったこと、溶融炉心がほぼ格納容器に放出されていることなどが合意されました。一方、RPV 内炉心溶融モデルや溶融炉心/コンクリート相互作用モデルの不確かさが大きいこと、また、長期的な FP 挙動に関して、一旦構造材表面等に付着・捕捉された FP の再移行モデルが不十分であることも指摘されました。このような課題に対応しつつ、事故進展理解のさらなる深化を図るため、私たちは、BSAF の後継としての役割を持つ OECD/NEA の 1Fの原子炉建屋及び CV 内情報の分析「ARC-F」プロジェクトに参加するとともに、その運営を担っています。
(玉置 等史)

●参考文献
Tamaki, H. et al., Analysis for the Accident at Unit 1 of the Fukushima Daiichi NPS with THALES2/KICHE Code in BSAF2 Project, Proceedings of 18th International Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics (NURETH-18), Portland, U.S.A., 2019, p.72–82, in USB Flash Drive.
Tamaki, H. et al., Analysis for the Accident at Unit 2 of the Fukushima Daiichi NPS with  THALES2/KICHE Code in BSAF2 Project, Proceedings of 18th International Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics (NURETH-18), Portland, U.S.A., 2019, p.100–111, in USB Flash Drive.
Tamaki, H. et al., Analysis for the Accident at Unit 3 of the Fukushima Daiichi NPS with THALES2/KICHE Code in BSAF2 Project, Proceedings of 18th International Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics (NURETH-18) , Portland, U.S.A., 2019, p.536–547, in USB Flash Drive.

2005放射線防護
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