新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の死亡リスクを推定

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2020年1月〜2月の中国を対象として

2020-04-15 京都大学

水本憲治 白眉センター特定助教らの研究グループは、2020年1月〜2月の、中国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による患者数と死亡者数のデータを用い、新型コロナウイルス感染症罹患時の死亡リスクを推定しました。

死亡リスク推定にあたっては、被害規模の観点から、中国を(1)武漢市、(2)湖北省(武漢市を除く)、(3)中国全体(湖北省を除く)、の3地域に区分し、入院から死亡までの時間遅れを調整しました。

時間遅れ調整後の死亡リスクは、武漢市においては12%に達する一方で、他の地域では概ね1%程度と推定されました。武漢市における高い死亡割合の原因としては、院内感染等の医療システムの崩壊の他、未報告の患者数の増加等の要因等が考えられ、手洗い等の個人的な実践の他、社会的隔離や移動制限の重要性が示唆されました。

本研究成果は、2020年3月13日に、国際学術誌「Emerging Infectious Disease」のオンライン版に掲載されました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の死亡リスクを推定

図:中国3地域における時間調整後死亡率(2020年2月11日時点)

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.3201/eid2606.200233

Kenji Mizumoto and Gerardo Chowell (2020). Estimating Risk for Death from 2019 Novel Coronavirus Disease, China, January–February 2020. Emerging Infectious Diseases, 26(6).

詳しい研究内容について

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 罹患時の死亡リスクを推定
―2020 年 1 月〜2 月の中国を対象として― 概要
京都大学大学院総合生存学館/白眉センター 水本憲治 特定助教らの国際共同研究グループは、2020 年1月〜2月の、中国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による患者数と死亡者数のデータを用い、新型コロナウイルス感染症罹患時の死亡リスク推定を行いました。死亡リスク推定にあたっては、被害規模の観点から、中国を(1)武漢市、(2)湖北省(武漢市を除く)、(3)中国全体(湖北省を除く)、の 3 地域に区分し、入院から死亡までの時間遅れを調整しました。
時間遅れ調整後の死亡リスク(*)は、武漢市においては12%に達する一方で、他の地域では概ね1%程度と推定されました。武漢市における高い死亡割合の原因としては、院内感染等の医療システムの崩壊の他、未報告の患者数の増加等の要因等が考えられ、手洗い等の個人的な実践の他、社会的隔離や移動制限の重要性が示唆されました。
本研究成果は、2020 年 3 月 13 日に国際学術誌「Emerging Infectious Disease」のオンライン版に掲載されました。
図. 中国 3 地域における時間調整後死亡率。(2020 年 2 月 11 日時点)1.背景
世界的流行のおそれがある新興感染症に対しては、感染力(Reproduction number:再生産数)とともに、死亡リスクを定量化して、数値として提供することが求められます。これら二つの疫学指標等を参考に、医学・公衆衛生学的介入の強度が決定されるからです。
こうした介入は流行途中に徐々に実行されていくために、早期に死亡リスクを推定し、政策決定者に提供すれば、介入の強度、実施のタイミングや期間を決定するのに有用となります。しかし、流行途中に推定を実施する場合、様々なバイアスの影響を受けます。代表的なものが、時間遅れや報告バイアスです。
時間遅れは、感染/症状出現/診断/報告から死亡までに時間がかかるためです。死亡割合は、累計死亡者を累計患者数で除したものですが、累計患者数の増加が累計死亡者の増加よりも先に起こるために生じます。さらに、感染症罹患時の死亡割合は、年齢・健康状態等の要因により大きく異なり、初期には高齢者等の弱者が被害を受けることも大きく影響します。2.研究手法・成果
今回、本研究グループは、上記の問題点を以下のような取り組みによって解決しました。

(1) データ:確定患者数データを利用
● 被害規模の観点から、中国を、3 地域、(1) 武漢市、(2)湖北省(武漢市を除く), (3)中国全体(湖北省を除く)、の 3 地域に区分
● 2020 年 2 月 11 日以前のデータを利用(2 月 12 日以降、症例定義が変更されたため)
(2) データ:複数のソースから COVID-19 で死亡された患者データを入手。入院から死亡までの時間遅れに関する分布の推定に利用。(ガンマ分布, mean 10.1 日, SD 5.4 日)
(3) 死亡リスク推定には、以下の統計モデルを利用。


πti が時刻ti における時間調整後の死亡リスク、Dti が時刻ti までの累積死亡者数、ct が時刻tにおける新規患者数、hs は入院から死亡までの時間遅れの分布を表します。Dti は確率 πti の二項分布サンプリングの結果と想定し、推定にはベイズ推定を利用しました。

以上の結果、2 月 11 日における時間遅れ調整後の死亡率は、以下のように推定されました。
● 武漢市 12.2 (95% 信用区間: 11.3–13.1)
● 湖北省(武漢市を除く) 4.2 (95% 信用区間: 3.7–4.7)
● 中国(湖北省を除く) 0.9 (95% 信用区間: 0.7–1.1)
時間遅れ調整後の死亡率(致命割合)について、武漢市は中国全体(湖北省を除く)の死亡率(致命割合)の約 12 倍という結果が得られました。この理由としては、武漢市において医療体制の崩壊が起こったこと等が示唆されます。実際、中東呼吸器症候群では、大規模な院内感染の結果、基礎疾患を有する/高齢の患者が感染したことで、致命割合が 20%に達しました。これらから、院内感染・医療体制を防ぐために、社会的隔離(social distancing)や移動制限(movement restrictions)等の徹底が必要ということが示唆されます。3.波及効果、今後の予定中国における新型コロナウイルス感染症に関する致命割合を、時間遅れを調整して、被害規模別の 3 地域で推定しました。最も被害が大きい武漢市における時間遅れ調整後の死亡率(致命割合)は 12%に達し、その他の地域の中国の 12 倍に及ぶことが明らかになりました。この高値の死亡リスクの背景には、医療崩壊の寄与が示唆され、この崩壊を防ぐような公衆衛生的介入(社会的隔離や移動制限等)が重要と考えられます。
中国特有の報告バイアスの存在なども考えられるため、その他の国でも検証する必要があるとともに、被害規模の正確な推定には、血清学的調査を実施して、感染者数を測定することが求められます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、下記の研究費の支援のもとに実施されました。
日本学術振興会:15K209366
文部科学省:卓越研究員事業

<用語解説>
Case fatality ratio:致命割合(致死率)
「死亡/患者数」で計算される。患者数は、報告患者数を表す。未報告の有症状の患者や、無症状の感染者等は含まれていないために、注意が必要。なお、「死亡/感染者」は、Infection fatality ratio(IFR)と言われる。

中東呼吸器症候群:Middle East Respiratory Syndrome(MERS)
致命割合等について研究の詳細に関しては、発表者らの過去の研究成果も合わせてご覧ください。
● Mizumoto K, et al.Real-time characterization of risks of death associated with the Middle East respiratory syndrome (MERS) in the Republic of Korea, 2015. BMC Med.2015;13. (doi: 10.1186/s12916-015-0468-3.)
● Mizumoto K, et al. Estimating the risk of Middle East respiratory syndrome (MERS) death during the course of the outbreak in the Republic of Korea, 2015. Int J Infect Dis.2015;39. (doi: 10.1016/j.ijid.2015.08.005.)

<研究者のコメント>
本研究成果は、新型コロナウイルス感染症の死亡リスク(致命割合)を数値として早期に、かつ精緻に提示することが、公衆衛生的介入に最も重要であるという目的を定めて達したものです。
高値の死亡リスクには、医療崩壊の寄与が示唆され、この崩壊を防ぐような公衆衛生的介入(社会的隔離や移動制限等)が重要と考えます。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Estimating Risk for Death from 2019 Novel Coronavirus Disease, China, January–February 2020
(新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 罹患時の死亡リスク推定, 中国(2020 年 1 月-2 月))
著 者:Kenji Mizumoto, Gerardo Chowell
掲 載 誌:Emerging Infectious Disease
DOI:10.3201/eid2606.200233 https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/6/20-0233_article

<参考図表>


図 1. 中国 3 地域における累積患者数(上段)及び累積死亡者数(下段)。期間(2020 年 1 月 1 日-2 月 11 日)
A)&D) 武漢市、B)&E) 湖北省(武漢市除く)、C)&F)中国(湖北省除く), Day 1(2020 年 1 月 1 日)


図 2. 中国 3 地域における粗死亡率(上段)及び時間調整後死亡率(下段)。期間(2020 年 1 月 1 日-2 月 11 日)
A)&D) 武漢市、B)&E) 湖北省(武漢市除く)、C)&F)中国(湖北省除く), Day 1(2020 年 1 月 1 日)黒丸:観察データ. 淡黒領域:50%信用区間、濃黒領域:95%信用区間;

図 3. 中国 3 地域における時間調整後死亡率。(2020 年 2 月 11 日時点)

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