セサミンの抗炎症効果に関わる分子的作用機構を世界で初めて解明

ad

2020-02-20    慶應義塾大学,日本医療研究開発機構

慶應義塾大学医学部医化学教室の加部泰明准教授と末松誠客員教授らのグループは、東京医科大学の半田宏特任教授らとともに、独自の薬剤受容体探索技術を駆使することにより、セサミン代謝物の標的となる受容体タンパク質の同定に成功し、セサミンの抗炎症に関わる分子的な作用メカニズムを世界に先駆けて解明しました。

ゴマの有効成分であるセサミンは、健康維持・増進を目的として古くから用いられています。セサミンは、摂取されると肝臓で代謝されて、活性成分に変換されて効果を発揮すると考えられていますが、その詳細な作用メカニズムについては分かっていませんでした。

本研究では、①セサミン代謝物SC1が、アネキシンA1(以下、ANX A1・注1)分子の活性制御領域に結合すること、また、それにより②ANX A1の抗炎症活性に関わる部位が活性型に変換されること、③活性型ANX A1が免疫細胞で炎症物質の発現を抑制し、それにより過剰な炎症誘導が抑制されることを世界で初めて明らかにしました。また、急性肝炎モデルを用いた解析において、セサミンはANX A1依存的に抗炎症効果および肝保護効果を示すことを明らかにしました。

これらの成果は、セサミン摂取による抗炎症作用に関する分子的な作用標的および機能を明らかにした初めての知見であり、セサミンを利用した健康増進や医薬への応用など新たな応用展開に貢献できる成果です。

本研究成果は、2020年2月20日(英国時間)に学術誌『npj Science of Food』のオンライン速報版で公開されます。

研究の背景

セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン(注2)で、健康維持・増進を目的に抗酸化効果や抗炎症効果などさまざまな効果を期待して用いられています。セサミンは体内に摂取されると肝臓で代謝されてポリフェノール様の代謝物SC1に変換されることにより(図1)、抗酸化効果を示すと考えられてきましたが、生体内において抗炎症効果や肝保護効果など抗酸化作用だけでは説明のつかない多様な作用を示すことから、特異的な生体制御のメカニズムが存在することが示唆されていました。

セサミンの抗炎症効果に関わる分子的作用機構を世界で初めて解明

図1 セサミンの肝臓における代謝物SC1への変換

本研究では、独自のアフィニティ精製システム(注3)を用いることにより、セサミン関連代謝物に選択的に結合するタンパク質の網羅的な探索を行い、得られた結合タンパク質の機能制御を解析することによりセサミンによる未知の生体制御機構の解明を行いました。

研究の内容

上記のセサミン代謝物の結合タンパク質の網羅的解析により、セサミンの代謝物SC1の結合タンパク質として、抗炎症機能を有するANX A1が同定されました。セサミン自体にANX A1結合能は見られませんでしたが、SC1がANX A1の活性制御領域に高い親和性を示して特異的にANX A1に結合することを明らかにしました(図2)。SC1がANX A1と結合することにより、ANX A1のセリン残基のリン酸化が誘導され、抗炎症活性に関わるN末端ドメインの遊離を引き起こすことで活性型となり、単球系免疫細胞における炎症性サイトカインTNFαなどの発現を抑制することを見出しました。このような抗炎症作用はセサミン自体では効果が見られなかったことから、セサミンは体内でSC1のような代謝物に変換されることにより機能を示すことが実証されました。

図2 SC1のアネキシンA1(ANX A1)との結合構造(docking simulation)左図:赤表記がSC1構造、リボン表記がANX A1タンパク質構造(黄色;SC1結合領域)
右図:SC1/ANX A1結合領域拡大図。水色表記はSC1構造、ピンク表記はCaイオン


また、肝障害モデルにおいて、セサミンまたはセサミン代謝物SC1投与により、抗炎症効果および肝保護効果を示すことを明らかにしました。さらにANX A1欠損モデルではこのような効果が消失することから、セサミンの抗炎症効果はANX A1活性化に依存することが示唆されました(図3)。

図3 セサミンのアネキシンA1(ANX A1)に依存した抗炎症作用(左)および肝保護効果(右)

これらの知見から、セサミンが肝臓で代謝されて活性代謝物SC1に変換され、これが受容体タンパク質ANX A1と結合して活性型にすることにより炎症性物質の発現を抑制する、という一連の分子作用の結果、肝炎などにおける過剰な炎症が抑えられ、症状の改善につながることが分かりました(図4)。

図4 セサミン代謝物によるアネキシンA1(ANX A1)を介した抗炎症機能制御モデル図

研究の意義・今後の展開

これらの成果は、セサミン摂取による抗炎症作用に関する分子的な作用標的および機能を明らかにした初めての知見であり、セサミンを利用した健康増進や医薬への応用など新たな応用展開に貢献できる成果であると考えられます。また、セサミン摂取により慢性的な肝炎によって生じる肝線維化を抑制する作用も示唆されたことから、慢性炎症やそれによって引き起こされる慢性的な疾患などの改善・予防につながる可能性も期待されます。今後、セサミン摂取による慢性炎症抑制を介した老化関連疾患の予防など、健康長寿につながる研究がさらに発展することが期待されます。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:清水 孝雄)研究開発課題名「代謝システム制御分子の系統的探索による治療戦略創出と創薬展開」(研究開発代表者:加部 泰明)(謝辞番号:JP19gm0710010)、JSPS 科研費 JP18K06921、農林水産省 農山漁村6次産業化対策事業 医福食農連携推進環境整備事業(医福食農連携コンソーシアム整備支援)および国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(JST-ERATO, 末松ガスバイオロジープロジェクト)の支援により行われました。慶應義塾大学医学部の末松誠客員教授は、AMEDからの研究費を受給しておりません。

論文
タイトル:
Annexin A1 accounts for an anti-inflammatory binding target of sesamin metabolites
タイトル和訳:
アネキシンA1はセサミン活性代謝物の抗炎症作用に関わる受容体として機能する
著者名:
加部泰明、竹本大輔、金井彩香、平井美和、小野佳子, 赤澤壮太、堀川学、北川義徳、半田宏、櫓木智裕、柴田浩志、末松誠
掲載誌:
npj Science of Food(オンライン速報版)
用語解説
(注1)アネキシンA1:
哺乳類から植物等にわたり広く保存されているタンパク質であり、特徴的な4つの繰り返し構造を持ち、リポコルチンとも呼ばれる。N末端領域が活性部位として働き、カルシウム等と結合して活性化し、抗炎症作用を発揮する。
(注2)リグナン:
植物中に広く存在し、さまざまな生理活性を持つ化合物群である。ゴマ種子中に微量に含まれるリグナンとして、セサミンなどが知られている。
(注3)アフィニティ精製システム:
分子間の特異的な親和性を利用して結合・精製する手法。今回はセサミン代謝物を独自の精製用担体に固定化して、これに結合するタンパク質を精製した。
お問い合わせ先
本発表資料のお問い合わせ先

慶應義塾大学医学部 医化学教室
准教授 加部 泰明(かべ やすあき)

AMEDに関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 研究企画課

0502有機化学製品
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました