難治がん征圧に向け
2019-04-25 新潟大学,日本医療研究開発機構
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野 近藤英作教授らは、膵がんへの薬物送達システム(DDS)※1の輸送体(キャリア)となる特殊ペプチドを独自の手法で開発しました。同ペプチド技術を応用して、難治がんである膵がんに対する次世代抗がん剤の創成を目指し、エーザイ株式会社の米国子会社であるエーザイ・インクとの共同研究を実施します。
- ※1:薬物伝達システム(DDS)
- ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System, DDS)とは、体内の薬物分布を目的に沿って量的・空間的・時間的に制御・操作する技術システムである。
本研究成果のポイント
- 膵がん細胞へ選択的で高吸収性能を発揮する特殊ペプチドの独自開発に成功した。
- 同ペプチドは生体安全性が高く、かつ体内の標的とするがん組織に網羅的かつ高効率に吸収される輸送体として、抗がん剤を選択的にがん組織に集積できる。
- 本ペプチド技術を応用して、先進的な抗がん剤創成技術と実績を持つエーザイ株式会社と協力し、同社米国子会社エーザイ・インクと革新的な治療効果を生む抗膵がん剤新薬を共同開発する。
研究の背景
2018年9月に発表された国立がん研究センターの最新データでは、がん患者は毎年100万人を超え死亡者数は40万人前後で推移しつつも増加傾向にあるとされている。がん罹患数予測では2018年度膵がん患者は4万人(1位大腸がん15万人、2位胃がん12万人)であるが、膵がん死亡者予測数は3万5千人、さらに本年3月の公開情報では全がん患者の10年生存率が全体で55%であるところ、膵がんでは5%と部位別で最低を記録しており、現行医療上の最難治がんとなっている。膵がんの征圧は本邦のみならず全世界的にもがん医療における危急の最重要解決課題である。
研究の概要
ペプチドは近年、健康食品として様々なサプリメントや飲料にも用いられる「からだにやさしい」短いアミノ酸から成る材料である。世界的にすでに多様な抗体医薬(Antibody-Drug Conjugate; ADC)の開発が活発となる中、抗体に代わってこのような人体に関する利点を生かし、ペプチドを応用するPDC(peptide-drug conjugate)の開発はがん征圧のための世界的な次世代戦略となっており、革新的がん治療の先端を拓く挑戦である。新潟大学(医学部実験病理学・近藤英作主任教授ら)は難治の膵がん細胞・組織に対する選択的で高吸収性能を発揮する新規ペプチドの独自開発に成功した(膵がんホーミングペプチドと命名)。このペプチドのポテンシャルを応用した膵がん治療のためのPDC創薬開発のため、エーザイ・インクと膵がんホーミングペプチドに関する特許の独占的ライセンス契約および共同研究契約を締結し、同社研究所EPAT(Epochal Precision Anti-Cancer Therapeutics、プレジデント 上仲俊光)と共同で従来の膵がん治療剤を凌駕する新規抗がん剤の開発を推進していく。
研究の成果
今回われわれは独自の腫瘍ホーミングペプチドの開発技術を基盤にして、難治がんである膵がん(浸潤性膵管がん)に高度にシフトした吸収性を発揮するオリジナルペプチドを開発した。このペプチドは同時に生体低侵襲性であり、これを応用したDDSの確立は、既存の実用抗がん剤に組み合わせた革新的なPDCの創成につながる。PDCは“患者のからだにやさしく、かつ十分な制がん効果”を得るポテンシャルを持つため、がん専門医が担う膵がんなどの難治がん治療を大きく進化させる機会を提供できる。また将来的に我が国発信の独創的テクノロジーとして世界のがん医療分野に向けた発信力を持つものと期待される。
今後の展開
新潟大学とエーザイが協働し、依然として予後不良の難治がんとして大きな課題となっている膵がんの患者さんのための革新的な治療薬として、次世代抗膵がん薬(抗膵がんPDC)の創成と、本邦発信の膵がん先進医療の確立を目指す。がん患者さんのベッドサイドに届けることを目標として、21世紀の新しい革新的ながん征圧医療技術の展開を目指していきたい。
本研究への支援
本研究は日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)「残存病変、転移・再発巣を掃討する腫瘍高度集積性PDC(peptide drug conjugate)の開発」の支援を受けて行われました。
本件に関するお問い合わせ先
研究内容について
新潟大学医学部実験病理学
(新潟大学大学院医歯学総合研究科・分子細胞病理学分野)
近藤 英作(教授)
記者発表について
新潟大学広報室(担当:一箭)
AMED事業について
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課