巨大原始星の周りにアルミニウムを含む分子を発見~惑星材料の起源の理解へ~

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2019-04-25  東京大学,理化学研究所

発表のポイント

  • 巨大原始星の周囲の原始星円盤から回転して吹き出すガスの流れの中に、揮発性の低い元素であるアルミニウムを含む分子(一酸化アルミニウム)が存在することを発見した。
  • これまで進化末期の恒星から吹き出すガスにしか見つかっていなかった一酸化アルミニウム分子を、巨大原始星に発見し、その空間分布を初めて明らかにした。
  • 一酸化アルミニウムは鉱物をつくる気体分子であり、原始星周囲でのその分布は、惑星の材料がどのようにつくられるのかを理解する手がかりとなることが期待される。

発表概要

東京大学・JAXAの橘省吾教授、東京大学の上塚貴史特任助教、国立天文台・総合研究大学院大学の廣田朋也助教、理化学研究所の坂井南美主任研究員らの研究グループは、オリオン大星雲の中の巨大原始星「オリオンKL電波源I」から回転しながら吹き出すガスの流れ(アウトフロー)の根元付近に一酸化アルミニウム分子が存在することを、アルマ望遠鏡の観測データから明らかにしました。一酸化アルミニウム分子は年老いた恒星から吹き出すガスにしか観測されていませんでした。

本研究では、巨大原始星にその分子を発見し、その空間分布まで初めて明らかにしました。一酸化アルミニウム分子がアウトフローの根元付近にだけ観測されるという事実は、揮発性の低い一酸化アルミニウム分子がアウトフローの中で固体微粒子(ダスト)に変わっていることを示唆します。アルミニウムを主成分とする鉱物は、太陽系最古の固体物質中に豊富に存在しますが、その形成環境は充分に理解されていません。本研究の結果をきっかけに今後原始星周囲での金属を含む分子の分布を明らかにすることで、太陽系最初期に惑星の材料となった鉱物がどのようにつくられたのかを理解することに繋がると期待されます。

発表内容

恒星がどのように誕生し、その周囲に惑星がどのようにつくられるのかは天文学、地球惑星科学における大きな問題です。天文学においては、星や惑星がつくられている“現場”を観測することで、そのプロセスを理解しようとし、地球惑星科学においては、隕石や「はやぶさ2」のような探査機が持ち帰る試料を分析することで、太陽系最初期の惑星形成プロセスを理解しようとしてきました。

本研究では、アルマ望遠鏡(注1)の観測データを解析し、大質量星形成領域であるオリオン大星雲(注2)の中の巨大原始星「オリオンKL電波源I」(太陽系から約1400光年の距離に位置し、太陽の数倍以上の質量があると見積もられている)の原始星円盤(注3)から回転しながら吹き出しているガスの流れ(アウトフロー)の中での一酸化アルミニウム分子の存在とその分布を初めて明らかにしました。これまで、一酸化アルミニウム分子は進化末期の年老いた恒星から吹き出すガス中での存在が報告されていました。年老いた恒星が吹き出すガスの中で一酸化アルミニウム分子は固体微粒子(ダスト)(注4)となって銀河を漂い、新たな恒星や惑星の材料となります(そのようなダストが太陽系の材料となったことも隕石の分析からも知られています)。しかし、一酸化アルミニウム分子が誕生直後の若い星(原始星)の周囲に存在するのか、存在するとしてもどのように分布しているのかは知られていませんでした。

本研究では、オリオンKL電波源Iを観測したアルマ望遠鏡のデータの中に一酸化アルミニウム分子から放射される497 GHz(ギガヘルツ)と650 GHzの電波を発見し、原始星の周囲にもこの分子が存在することをはっきりと示しました。さらに、高空間分解能をもつアルマ望遠鏡の特性を活かし、その分布が、アウトフローが吹き出す根元の付近に限られていることを明らかにしました。同じくアウトフローに見つかる一酸化ケイ素分子などの分布に比べると、極めて局所的なその分布は、揮発性が低いという一酸化アルミニウム分子の科学的特徴から説明されます。高温のガスがアウトフローとして広がる過程で冷却され、そこに含まれる一酸化アルミニウム分子はダストとして凝縮し、ガスから取り去られた可能性が高いと考えられます。隕石の研究から、太陽系で最初につくられた固体物質はアルミニウムやカルシウムといった揮発性の低い元素に濃集した鉱物からできていることが知られています。これらの物質が惑星をつくる材料となりました。しかし、太陽系の最初期に惑星の材料となった鉱物がどのような環境でどうやってつくられたのかは充分に理解されていません。原始星周囲で一酸化アルミニウム分子がダストとして凝縮する可能性を示した本研究の成果は、原始星周囲での惑星材料の進化の一般的理解を進めることはもちろん、太陽系で惑星の材料がどのようにつくられ、惑星へと進化したのかを理解するための手がかりとなることが期待されます。また、様々な質量の原始星周囲でのガスの観測から明らかになる惑星材料に関する知見と、隕石や探査機によるリターンサンプルからわかる太陽系に関する知見とを比較することで、太陽系の形成・進化過程が銀河系内の他の惑星系とはたして似ているのか、異なるのかということを議論することができるようになると期待されます。

図. オリオンKL電波源I(図の中心)周囲の一酸化アルミニウム分子の輝線放射(497 GHz)の分布。中心天体位置から図の左上、右下へと羽を広げた蝶のように分子が分布する。楕円状の等高線はダストが放つ連続波(497 GHz)の分布を示し、横から見た原始星円盤の存在を示す。アウトフローは図の左上と右下方向に広範囲に広がっている。図左下の白丸は干渉計の合成ビームサイズを表す。

発表雑誌

雑誌名:Astrophysical Journal Letters

論文タイトル:patial distribution of AlO in a high mass protostar candidate Orion Source I

著者:Shogo Tachibana*, Takafumi Kamizuka, Tomoya Hirota, Nami Sakai, Yoko Oya, Aki Takigawa, and Satoshi Yamamoto

DOI番号:doi.org/10.3847/2041-8213/ab1653

用語解説

注1  アルマ望遠鏡

チリ・アタカマ砂漠に建設された大型電波干渉計。正式名称はアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。

注2  オリオン大星雲

オリオン座の三つ星(ベルトの部分)の下方に肉眼でも見える散光星雲。活発な星形成領域として知られる。

注3 原始星円盤

誕生直後の原始星の周囲にできる回転するガス円盤。惑星を誕生させる母胎となる。

注4 固体微粒子(ダスト)

1マイクロメートル程度もしくはそれ以下のサイズの微粒子。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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