生産効率の向上と安心・安全のアピールに効果
2019-03-05 農研機構
ポイント
日本の養豚業者の多くを占める中規模農家にも導入可能な豚舎洗浄ロボットを開発しました。厳しい環境下で行われる豚舎洗浄作業を人に代わって行うとともに、洗浄・消毒の徹底を通じて病害リスクを低減させ、消費者に対する安心・安全のアピールに寄与します。
概要
日本の養豚業者の多くを占める中規模養豚農家1)に適した、取扱性・操作性に優れ、外国製と比べてコンパクトな豚舎洗浄ロボットを開発しました。肥育豚舎用(高機能型と低価格型)と分娩豚舎2)用の3種類を製作し、現地試験に供した結果、人手による作業時間と比べ66~68%の削減が可能でした。今後は低価格型の市販化を優先し、環境耐性や耐久性の向上を進め、2020年度以降の市販化を目指します。
肥育豚舎用洗浄ロボット(高機能型)
関連情報
予算:生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」、
農研機構運営費交付金
詳細情報
社会的背景
養豚業界は激化する産地間競争への対応及びTPPやEUとのEPA合意を踏まえた国際競争力強化に迫られています。また、自治体は品質の向上により差別化を図り、積極的なプロモーション活動を通じた地域ブランド力の強化を推進しています。一方、家畜伝染病の発生と蔓延は地域ブランドの信頼性失墜に直結するリスクとなり、中には離乳後事故率が出生幼豚の約1割にも及ぶなど、生産効率を下げる農場も認められます。その対策として、人や物資を通じた病原体の侵入の阻止と、豚舎の洗浄・消毒の徹底が図られています。しかし、豚舎の洗浄作業は、排泄物が飛散する極めて厳しい環境下で行われる上に、農場における全労働時間の約1/3を占めることから、離職する従業員が相次ぎ、養豚経営の人材育成に深刻な影響を及ぼしています。一部の大規模養豚農家では、外国製の豚舎洗浄ロボットを導入・運用していますが、車体が大きく、1000万円以上と高価なために中規模養豚農家には普及しておらず、操作性や取扱性についても改良の要望が寄せられています。
開発の経緯
外国製の豚舎洗浄ロボットは、高圧洗浄機に接続して洗浄作業の大部分をロボットが行い、作業者は残りの仕上げ作業のみを行うだけでよいため、大幅な軽労化と徹底化に寄与しています。しかし、機体が大型のため広い通路が必要であり、また、事前に動作手順を教える作業(ティーチング)の際のアームの操作方法が難しい、込み入った箇所の洗浄は困難といった課題が寄せられていました。
そこで、日本の養豚農家の多くを占める中規模豚舎に適した取扱性・操作性に優れ、本体価格600万円以下、機体幅650mm以下、ティーチング操作が容易といった開発目標を立てました。
開発機の特徴
豚舎内部の構造は、比較的広くてシンプルな肥育豚舎、狭小で付帯設備が多い分娩豚舎とで大きく異なります(図1)。そのため、一方式のアームで対応することは困難と考え、以下の2方式(3種類)のアームを有する洗浄ロボットを開発しました。
【肥育豚舎用洗浄ロボット】
高機能型は最大長3.6mの伸縮式アームを全方向移動クローラ台車に搭載し、測域センサを利用した隔柵に沿って走行可能な自律走行システムにより、タブレット端末を用いたワイヤレスでの操作ができます(図2)。現地試験に供した結果、すべて人手で行う作業時間と比べて68%の削減が可能でした(表1)。また、洗浄ロボットの動作状況を携帯端末で閲覧でき、エラー発生時には警告メールを受け取れる管理システムも開発しました。
低価格型は、モーター1台で走行する車輪式台車とガイドホイールによる直進走行方式を採用し、低コスト化を図るとともに操作性の向上を図りました(図3)。
【分娩豚舎用洗浄ロボット】
複雑な動きができる6軸アームの特長を活かし、アームを直接把持してティーチングできる機能(ダイレクトティーチング)を搭載することで構造が複雑な分娩豚房への適用を図りました(図4)。現地試験に供した結果、人手による作業時間と比べて66%の削減が可能でした(表1)。
洗浄後の豚房内の床面及び壁面の残存細菌数を分析した結果、対照区(人手による洗浄)とロボット洗浄区(洗浄はロボット、仕上げは人手)に差はありませんでした。なお、洗浄効果は豚房の汚れ具合やティーチングの仕方によって変わるため、汚れ具合に応じて適切なティーチングを行うことが重要です。
今後の予定
豚舎洗浄ロボットの実用化に向けては、低価格型肥育豚舎用洗浄ロボットの市販化に向けた取組を先行させ、2020年度以降の市販化を目指します。
用語の解説
1) 中規模養豚農家:母豚200頭規模の経営体を想定しています。
2) 分娩豚舎:分娩と哺乳のために用いられる施設です。子豚の圧死防止と保温に配慮するため、母豚を固定する分娩柵と保温箱・保温マットなどの局所保温設備を有しています
(出典:農業技術事典NAROPEDIA、農文協)
参考図
図1 豚舎概要の一例(左:肥育豚舎、右:分娩豚舎)
図2 開発した肥育豚舎用洗浄ロボット(高機能型)
図3 肥育豚舎用洗浄ロボット(低価格型)
図4 開発した分娩豚舎用洗浄ロボット
(左:開発機の外観、右:ダイレクトティーチングの様子)
表1 現地試験の結果(作業時間比較)
お問い合わせ
研究推進責任者 :
農研機構 農業技術革新工学研究センター 所長 藤村 博志
研究代表者 :
農研機構 農業技術革新工学研究センター 戦略統括監付 戦略推進室 農業機械連携調整役 志藤 博克
研究実施責任者 :
株式会社中嶋製作所 技術部 取締役部長 窪田 忠志
スキューズ株式会社 開発グループ グループリーダー 髙﨑 徹
トピー工業株式会社 サイエンス事業部 クローラーロボット部 部長 津久井 慎吾
香川大学 創造工学部 機械システム工学領域 教授 前山 祥一
国立高等専門学校機構津山工業高等専門学校 総合理工学科 教授 井上 浩行
株式会社NTTドコモ 第一法人営業部 農業ICT推進プロジェクトチーム 担当課長 石原 英一
農研機構動物衛生研究部門 細菌・寄生虫研究領域病原機能解析ユニット ユニット長 勝田 賢
千葉県畜産総合研究センター 養豚養鶏研究室 室長 鈴木 和美
一般社団法人日本養豚協会 専務理事 室長 小礒 孝
有限会社ブライトピック千葉 代表取締役 志澤 勝
広報担当者 :
農研機構 農業技術革新工学研究センター 企画部 広報推進室 広報プランナー 藤岡 修