大質量星形成領域Sharpless-76Eの精密な距離測定と、原始星の特定に成功

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2019/01/11 国立天文台

成果報告

大質量星形成領域Sharpless-76Eの精密な距離測定と、原始星の特定に成功
Sharpless-76Eの中間赤外線3色合成図。中心の紫十字印が今回観測された水メーザーの位置に相当。(出典:NASA/IPAC Infrared Science Archive, WISE)

SKA(※1)南アフリカ支部所属のJames O. Chibueze氏を中心とした研究チームは、VERAを用いて大質量星形成領域Sharpless-76Eの水メーザー観測を行い、年周視差や、天体内部における固有運動(天球平面上における運動)の精密な計測に成功しました。

Sharpless-76Eは、わし座に位置する大質量星(※2)形成領域です。これまでの干渉計観測(※3)により、複数の場所から3ミリ波長帯の電波を放射している塵が集まった領域が確認されており、星の赤ちゃん(原始星)の候補として注目されていました。しかし、それぞれが本当に原始星なのか?、という基本的な問題が残されています。その解決には、空間的な広がりや、運動の大きさなどを精密に測る必要があり、そのためには天体までの距離や、その天体の現場における運動を精密に決定することが欠かせません。

そこで、本研究チームは2010年12月~2012年6月にかけて、Sharpless-76Eに対する計7回の水メーザーVLBI観測を実施しました。その結果、これまで1.95+1.21-0.76kpcと誤差が大きく(約40-60%)曖昧だったSharpless-76Eの天体距離を、年周視差計測の結果に基づき1.92+0.09-0.08kpc(=6260 光年)と5%より高い精度で測定することに成功しました(図1上)。また、固有運動の計測を通じ、Sharpless-76Eの中で、特に2つの塵領域MM1、MM2のそれぞれに付随する水メーザーが、双方向に噴き出すアウトフローを示していることが分かりました(図1下)。

星形成領域におけるアウトフローは、星が今まさに誕生しようとしている原始星に特徴的に見られるガスの噴出現象です。従って、本結果からSharpless-76Eの塵領域MM1、MM2は、それぞれが確かに独立した原始星であることが明らかとなりました。また、本研究により精密に距離を測定出来たことから、赤外線波長のデータを星の進化モデルに照らし合わせることができ、MM1の方がMM2より若い原始星である可能性が見出されました。

fig.1
図1:Sharpless-76Eに対するVERAの水メーザー観測結果
(出典:Chibueze et al. 2017, MNRAS, 466, 4530。軸の表記など一部翻訳)。
(上)年周視差の計測結果。左は、天球平面上における水メーザーの位置変化を、右は東西・南北方向それぞれに対する正弦波成分(すなわち年周視差)の時間変化をプロット。
(下)固有運動(左:MM1、右:MM2)。色付きの点が、各水メーザー成分を表し、色の違いは視線速度(※4)に相当(青色が観測者に向かってくる方向)。矢印は本観測で検出された固有運動の向きと大きさを表している。

※1: Square Kilometre Array : 南アフリカ、およびオーストラリアにそれぞれ建設中の世界最高の集光面積(1平方キロメートル = 百万平米)を有する電波望遠鏡観測網
※2: 太陽に比べ8倍以上の質量を有する星
※3: 複数の電波望遠鏡で同じ天体を同時刻に観測することで、解像度と感度を向上させる手法
※4: 天体と観測者の間をつなぐ直線上における速度。天体や銀河の運動に伴うドップラー効果の影響により変化

文責:杉山孝一郎

関連論文
  • Chibueze, J. O., Hamabata, H., Nagayama, T., et al., 2017, MNRAS, 466, 4530, “Sharpless-76E: astrometry and outflows in a protostellar cluster”
1701物理及び化学
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