2018/09/15 JAXA はやぶさ2プロジェクト
最初のタッチダウンに向けて 1回目の運用リハーサルを9月10日から12日にかけて行いました。実際の運用では、高度約600mくらいで探査機は上昇してしまいましたが、降下中に広角の光学航法カメラ(ONC-W1)で航法目的に撮影をしていました画像をリアルタイムで公開しました。最後に撮影された画像を図1に示します。これは、9月12日の12:40(日本時間)頃に、リュウグウ表面から約635mで撮影されたものです。
[左 拡大図] [右 拡大図]
図1 2018年9月12日12:40(日本時間)頃にONC-W1によって撮影されたリュウグウ。リュウグウ表面からの距離は約635m。この画像では、上がリュウグウの南極になっており、地球とは逆向きに自転している。(b)で赤い丸で囲んだ部分が明るくなっているのが衝効果。また、矢印で示す黒い点は「はやぶさ2」の影である。
(画像クレジット:JAXA)
この画像で左側の部分(図1(b)で赤い丸で囲んだあたり)が少し明るく見えますが、これは衝効果(opposition effect)と呼ばれる現象です。太陽—天体表面—観測点がなす角度(これを位相角と呼びます)がゼロ度に近づくと急激に明るく見える現象です。そして明るい部分の中心に黒い点が見えますが、これが「はやぶさ2」の影になります。ちょうど真後ろから太陽の光が当たっていて、探査機の影が落ちているわけです。
探査機の影は、動画で見るとさらによく分かります。図2に公開されている画像を動画にしたものを示します。
図2 探査機がリュウグウに接近しているとき(2018年9月11日14時頃から9月12日13時頃まで、日本時間)にONC−W1で撮影された画像を動画にしたもの。 (画像クレジット:JAXA)
この動画を見ますと、接近するにつれてリュウグウがだんだん大きくなってきて、最後のところで、衝効果や「はやぶさ2」の影が見えることが分かります。リュウグウが自転してもまた距離が近づいて拡大しても「はやぶさ2」の影は移動しないことが分かります。さらに画面上で固定されているようにも見えます。これについては、下の「少し詳しい話」をご覧ください。
地球から3億km以上彼方で、900mほどのリュウグウに影を落としている6mくらいの「はやぶさ2」。壮大ですが、けなげな感じがしますね。
■少し詳しい話
「はやぶさ2」の影の動きや衝効果について、少し詳しい説明をします。図1が撮影されたときの天体の位置関係は図3のようになっています。「はやぶさ2」はリュウグウのすぐ近くにいますからこの図ではリュウグウと一緒になってしまいますが、方向としては地球とリュウグウを結ぶ線に沿ってリュウグウに接近していきました。
図3 2018年9月12日の天体の配置。太陽系の北(地球の北極がある方)から黄道面に投影した図。この図で天体は太陽の周りを反時計回りに公転している。 (図のクレジット:JAXA)
リュウグウの近くを拡大した図を描くと図4のようになります。
図4 リュウグウ付近の模式図(図のクレジット:JAXA)
図4のように「はやぶさ2」は地球とリュウグウ中心を結ぶ線に沿って降下していきます。太陽はこの図で斜め右方向から照っています。「はやぶさ2」が降下していくと、「はやぶさ2」の影はリュウグウの左側から見えてきて、右の方に移動していくことになります。
また、太陽光は平行光線と考えてよいですから、図4でθという角度は探査機が降下するような短い時間ではほとんど変化しません。つまり影が見える方向は探査機が降下してもほとんど同じ方向なので、図2の動画で影の位置が固定されているようにみえるのです。
影が落ちている位置の真反対の方向に太陽がいることになりますが、太陽と真反対になるところの周辺が周りよりも明るく見えることが知られています。これが衝効果と呼ばれるものです。図5に簡略化した模式図で示します。太陽光線の方向と視線方向がなす角(α:位相角と呼びます)がゼロに近いと天体表面から反射してくる光が強く見えることになります。
図5 衝効果の説明図(図のクレジット:JAXA)
衝効果は、「はやぶさ」がイトカワを探査したときにも見られました(図6)。
図6 小惑星イトカワの“ミューゼスの海”(正式名はMUSES-C Regio)に映った「はやぶさ」の影とその周りの衝効果(2005年11月) (http://www.isas.jaxa.jp/j/special/2008/hayabusa/11.shtmlより)
リュウグウに接近すれば、図6の「はやぶさ」の影のようにくっきりと「はやぶさ2」の影が見えるはずです。次の接近に期待したいと思います。