2023-10-18 九州大学
ポイント
- 化学・材料研究にデータ科学手法を取り入れた研究が盛んに行われているが、機能性高分子と呼ばれる高い機能を有する高分子材料に対してデータ科学手法を取り入れた研究はほとんど行われていなかった。
- 本研究では、機能性高分子の中でも燃料電池や水電解装置などの中核部材であるアニオン交換膜に着目し、論文情報から単独重合体・共重合体を統一的に収録した独自データベースを構築することで、アニオン交換膜のアニオン伝導度やその劣化挙動を高精度に予測する機械学習モデルの構築に成功した。
- 本研究の成果によってアニオン交換膜の課題となっているアニオン伝導度と耐久性を両立した有望材料を高効率に探索できるようになることが期待され、燃料電池や水電解装置の研究開発の加速、さらには水素社会の実現に貢献することが期待される。
概要
従来の化学・材料研究は、実験を中心に試行錯誤を繰り返しながら実施されてきました。しかし近年のデータ科学手法の発展にともない、化学・材料とデータ科学の融合研究が盛んに行われています。しかしながら、エネルギーを始め、環境、バイオなど社会生活を支える基幹材料群である機能性高分子分野への適用は未だ殆どなされていませんでした。
九州大学大学院工学研究院の加藤幸一郎准教授、藤ヶ谷剛彦教授および同大学工学府博士課程2年のPhua Yin Kan氏の研究グループは、機能性高分子の中でも、水素社会実現の鍵と期待される燃料電池や水電解の重要部材であるアニオン交換膜に着目し、分子構造に基づいてアニオン伝導度やその劣化挙動を高精度に予測可能な機械学習モデルを構築しました。独自にアニオン交換膜データベースを論文情報に基づいて構築することで、単独重合体と共重合体の双方を予測可能としているだけではなく、アニオン交換膜作成直後および劣化試験中のアニオン伝導度経時変化の高精度予測も実現しています。
今回開発した機械学習モデルを用いることで、燃料電池や水電解装置の重要部材であるアニオン交換膜の研究開発を加速させ、水素社会の実現に貢献することが期待されます。さらに、機械学習モデルの構築方法はアニオン交換膜以外の機能性高分子にも展開可能なものであるため、様々な分野への波及効果も期待されます。
本成果は、2023年10月17日にTaylor & Francis Onlineが発行する国際学術誌「Science and Technology of Advanced Materials (STAM)」にオンライン掲載されました。
機械学習モデルの構築フロー:単独重合体・共重合体の双方を含む独自データベースに基づき、機械学習モデルを構築
用語解説
(※1) アニオン交換膜
イオンを選択透過させるイオン交換膜の1 種であり、陽イオンを交換するものを「カチオン交換膜」、陰イオンを交換するものを「アニオン交換膜」と呼ぶ。
(※2) 水電解装置
電気エネルギーにより水を水素と酸素に分離する装置。
(※3) 説明可能AI(XAI)
人工知能(AI)や機械学習モデルが導き出した解について、どのようにして出力した結論に至ったかを人間が納得可能な根拠を示す技術。
(※4) SHAP
協力ゲーム理論の「Shapley value」を機械学習に応用したフレームワーク。ひとつひとつの説明変数がモデルの予測値に与える貢献度を算出可能なため、説明可能AI の手法の1つとして注目。
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論文情報
掲載誌:Science and Technology of Advanced Materials (STAM)
タイトル:Predicting the Anion Conductivities and Alkaline Stabilities of Anion Conducting Membrane Polymeric Materials: Development of Explainable Machine Learning Models
著者名:Phua, Yin Kan; Fujigaya, Tsuyohiko; Kato, Koichiro
D O I :10.1080/14686996.2023.2261833
研究に関するお問い合わせ先
工学研究院 加藤 幸一郎 准教授