2023-10-05 九州大学
ポイント
- 船の出発地と目的地を決める海運会社に着目してCO₂排出量変化に影響を及ぼす要因を特定。
- 海運会社ごとに航路レベルでのCO2 排出量を推計し、CO₂排出量の多い航路を特定。
- 海運会社の形成する輸送ネットワークの変化がCO₂排出削減へ向けた重要なカギである。
概要
経済のグローバル化により製品の生産地と消費地の分散が急速に進む中で、それらを繋ぐ国際海運由来のCO₂排出量を削減することは世界的に重要な課題となっています。九州大学大学院経済学府博士後期課程1年の下津浦大賀大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同大学院経済学府修士課程1年の庄田朋申大学院生および同大学院経済学研究院の加河茂美主幹教授の研究グループは、船舶の出発地と目的地およびそれらを繋ぐ航路を決定する運航会社のオペレーションがその課題解決に向けた政策立案のカギになると考え、コンテナ船の運航履歴に関するビッグデータを用いて、海運会社レベルのCO₂排出量を推計し、その変化要因を分析しました。
本研究は、主要な7 つの国際海運会社のMaersk Line(Maersk)、Mediterranean Shipping Company(MSC)、COSCO SHIPPING Lines(COSCO)、CMA CGM(CMA)、Hapag-Lloyd(Hapag)、Ocean NetworkExpress(ONE)、Evergreen Marine Corporation(EMC)に焦点を当て、2018年、2019年、2020年において相対的にCO₂排出量が大きかった上位10航路を運航会社別に特定しました(2018年と2020年の結果に関しては図1 を参照)。図1から、「シンガポールからスエズ運河」の航路が最もCO₂排出集約的(2018年が124万トン-CO₂、2020年が210 万トン-CO₂)であり、その排出量が増加傾向であること分かります。
加えて、本研究は国際コンテナ船輸送由来のCO₂排出量の変化を距離(Distance)、船の大きさ(Capacity)、輸送ネットワーク(Structure)、平均燃費(Intensity)の4要因に分解する分析手法を開発し、どの要因がCO₂排出量の変化に影響しているかを会社ごとに明らかにしています。例えば、2019年から2020年にかけて、Maersk はCOVID-19 の影響を受けて輸送航路の見直し(輸送ネットワークの変化)や輸送距離の減少によるCO₂排出削減ができた一方で、そのパンデミックの混乱から平均燃費を悪化させたことでその削減効果を一部相殺したことがわかります(図2)。従って、本結果はMaersk が輸送航路や輸送距離の見直しを計画的に行うことで、より効果的なCO₂排出削減の可能性を示しています。本研究の結果は、コンテナ船輸送由来のCO₂削減策として燃費改善や次世代船舶の運用が注目される中で、輸送ネットワーク改善によるCO₂削減策の重要性を示しており、国際海運ネットワークに対するより効果的なCO₂削減策(例えば、CO₂排出集約的な航路に対する厳しい燃費規制や炭素税導入など)の重要性を示唆しています。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP23KJ1737 及びJP20H00081)の支援を受けました。本研究成果は、9月29日にMarine Policy 誌(2022 Impact Factor: 3.8)に公開されました。
研究グループからひとこと
国際海運の脱炭素化は、国際海運だけでなく世界のあらゆる産業にとって大きな影響を及ぼします。今後は、各海運会社はどういったネットワークを目指すべきかについて分析していきたいです。
図1 2018年と2020年における運航会社別のCO₂排出量の多い上位10 航路(kt-CO₂)
図2 Maersk の2018年から2019年にかけてのCO₂排出量の変化と各要因による寄与度と2019年から2020年にかけてのCO₂排出量の変化と各要因による寄与度(積み上げ棒グラフは各要因の寄与度を表し、増加要因、減少要因はそれぞれ正の値、負の値をとります)
- 本研究の詳細についてはこちら
論文情報
タイトル: Firm heterogeneity in sources of changes in CO2 emissions from international container shipping
著者名: Taiga Shimotsuura, Tomomi Shoda, Shigemi Kagawa
掲載誌: Marine Policy
D O I : 10.1016/j.marpol.2023.105859
研究に関するお問い合わせ先
経済学研究院 加河 茂美 主幹教授