2022-10-25 物質・材料研究機構
NIMSは、従来の数百倍のデータを生み出す革新的な電気化学デバイスを用い、計測した大量のデータを解析・活用することで、微生物発電が広い電位範囲で効率を維持できる現象を発見、その分子メカニズムを解明しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、従来の数百倍のデータを生み出す革新的な電気化学デバイスを用い、計測した大量のデータを解析・活用することで、微生物発電が広い電位範囲で効率を維持できる現象を発見、その分子メカニズムを解明しました。本手法は、微生物と相互作用する材料、例えば生分解性プラスチック材料などへも応用可能であり、革新的な材料探索技術への展開が期待できます。
- 廃水を浄化しながら電力を生産する微生物発電は、環境調和型の発電技術として期待されています。微生物電流は様々な条件により影響を受けるため、従来の経験的・理論的なアプローチでは微生物発電を理解し、制御することは困難でした。そのため、大量の計測結果を活用するデータ科学の活用が求められていました。しかし、データ科学を適用するために必要な明確な条件付けがあり、誤差の小さい「高品質なデータ」を大量に電気化学で取得するには、これまではコストや測定の煩雑性の問題があり、高いアウトプットとデータ品質を同時に実現することはできませんでした。
- 今回、研究チームは、従来の数百倍のアウトプットを実現できる電気化学測定系を開発し、データ科学を活用できる高品質なデータベースを構築することで、微生物が効率的に発電する条件の「見える化」に成功しました。さらに研究チームは、微生物発電では、リボフラビン分子という電子を運ぶ物質が働いて、広い電極電位幅で発電促進の効率を維持できる現象を発見し、その機構を解明しました。
- 本研究では電流計測のコストを大幅に下げ、かつ安定した条件下での再現性の高い電気化学計測システムを開発したことで「微生物電気化学分野における大量の計測データを活用した研究手法の有効性」をはじめて実証しました。微生物がつくる電流は、微生物の活性のバロメーターであるため、バイオ材料が微生物に与える影響を測るセンサーとしても応用できます。例えば、生分解性プラスチック材料が速く分解されるほど、微生物がより大きな電流を発生します。様々な材料が存在する条件で微生物からの電流を計測することで、より良い材料がデータ科学から予想できるため、材料探索が大幅に加速されると期待できます。
- 本研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) 電気化学ナノバイオテクノロジーグループのJSPS外国人研究員Miran Waheed (当時) 、今村岳 主任研究員、岡本章玄 グループリーダーらによって行われました。また本研究の一部は、JST 戦略的創造研究 推進事業さきがけ (JPMJPR19H1)、AMED (21he0322002j0002) の支援を受けて実施されました。
- 本研究成果は、Patterns誌ウェブサイトにて 2022年10月19日にオンライン公開されました。
掲載論文
題目 : Multivariate Landscapes Constructed by Bayesian Estimation Over Five Hundred Microbial Electrochemical Time Profiles
著者 : Waheed Miran, Wenyuan Huang, Xizi Long, Gaku Imamura, Akihiro Okamoto
雑誌 : Patterns
掲載日時 : 2022年10月19日
DOI : 10.1016/j.patter.2022.100610