2022-08-23 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDOの「地熱発電技術研究開発」の一環で東芝エネルギーシステムズ(株)は、「ビッグデータ解析技術を活用したトラブル予兆診断技術」を適用したシステムの実証実験を2019年10月から2021年2月までインドネシアのパトハ地熱発電所で行いました。
その結果、トラブル発生率を導入前に比べて20%以上抑制できる予兆診断システムを完成させました。稼働停止回数および停止期間の縮減により、発電量の増加、さらには発電コストの低減が可能となります。
なお東芝エネルギーシステムズ(株)はパトハ地熱発電所とIoTサービスの契約を締結し、2022年7月から本システムの有償サービスを開始、実用化に成功しました。
図1 パトハ地熱発電所
1.概要
再生可能エネルギーの導入拡大が国内外で望まれる中、地熱発電は天候や昼夜を問わず安定的に発電できるベースロード電源として注目を集めています。特に日本は世界第3位の地熱資源ポテンシャル※1を有しており、地熱発電技術の開発に大きな期待が寄せられています。一方で既設の地熱発電所では、発電設備の老朽化や地熱タービンに付着した蒸気成分(シリカスケール)の除去作業による稼働停止などにより、暦日利用率※2が60%程度と低い状況です。今後、発電コストの低減を実現し、地熱発電の導入拡大を図るためには、地熱発電所の利用率の向上が喫緊の課題となっていました。
このような背景から、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2013年度に立ち上げた「地熱発電技術研究開発」事業を発展※3させ、地熱資源の利用拡大につながる技術開発を実施してきました。そのテーマの一つである「地熱発電所の利用率向上に関する研究※4」(2018年度~2020年度)で東芝エネルギーシステムズ株式会社は、2019年10月から2021年2月までインドネシアで地熱発電所の利用率向上に向けてIoT・人工知能(AI)技術を適用した地熱発電所のトラブル予兆診断システムの実証実験を実施※5しました。
本実証実験では、NEDO事業で2018年から東芝エネルギーシステムズ(株)が開発してきた「ビッグデータ解析技術を活用した予兆診断技術」を適用したシステムを現地国営地熱発電会社であるPT Geo Dipa Energi(Persero)(ジオ・ディパ・エナジー、以下GDE社)のパトハ地熱発電所(ジャワ島西部バンドン郊外、2014年に運転開始、定格出力は6万kW)の発電設備に設置し、トラブル予兆検知の可能性を評価するとともに、システムの導入による効果の実証実験を行いました。
本システムでは発電所の運転データをリアルタイムで解析できます。さらに、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を活用してGDE社の本社や東芝エネルギーシステムズ(株)の各拠点で解析結果を共有でき、トラブル回避のための対応検討などに利用可能です。今般、こうした取り組みを通じて、システム全体でのトラブル予兆診断技術の有効性を検証した結果、トラブル発生率を導入前に比べて20%以上抑制できる予兆診断システムを完成させました。これにより、稼働停止回数および停止期間の縮減が見込まれ、発電量の増加とそれに伴う発電コスト低減につながります。国内の地熱発電所に導入されれば、さらなる地熱発電の導入拡大が期待されます。
2.今回の成果
(1)予兆診断システムの実装によるトラブル発生率を20%以上抑制
本事業では、地熱発電所のような平常運転時も蒸気の状態などの変動が大きい監視点でも、適切に監視が可能な検出精度を設定できる手法を確立しました。この手法を予兆診断システムに実装することにより、従来の火力発電所向けの手法ではできなかった異常兆候など、トラブルとなる事象の予知に成功しました。
パトハ発電所の実証実験では、本事業で開発した予兆診断システムを適用し、過去に発生したトラブル事例の抑制効果を評価したところ、トラブル発生率を20%以上抑制できることが確認できました。実証試験期間中は、本システムと、GDE社本社(ジャカルタ)や東芝エネルギーシステムズ(株)の各拠点(川崎、横浜、府中など)をリモート接続でつなぐ予兆診断システムの遠隔監視を可能とし、予兆を検知した場合に関係者にメール通知する機能を実装し、利用率の向上につなげました(図2)。
図2 予兆診断システムを活用した遠隔監視
(2)タービンスケールの付着20%以上抑制
地熱発電所の稼働率を向上させるため、稼働率低下の要因であるタービンへのスケール※6付着を、薬剤の使用により20%以上抑制する目標を掲げた実証試験も実施しました。国内の地熱発電所で熱蒸気を使用し、経年的なタービンスケールの付着を薬剤注入とスプレーを組み合わせた模擬試験装置で検証した結果、20%以上の抑制効果が確認できました。
図3 タービンスケール抑制対策の模擬試験イメージ
3.今後の予定
東芝エネルギーシステムズ(株)はNEDO事業終了後、パトハ発電所との間でIoTサービスの契約を締結し、2022年7月からこの予兆診断システムの有償サービスを開始しています。
NEDOは引き続き、「2050年のカーボンニュートラルの実現」に向け、IoTやAI技術などの利活用により発電設備の効率的な運用と利用率向上などを目指し、より一層の地熱発電の導入拡大を促進します。
【注釈】
- ※1 世界第3位の地熱資源ポテンシャル
- 出典:JOGMEC HP「世界の地熱発電」
- ※2 暦日利用率
- 暦日利用率とは、対象とする発電設備を仮に100%の出力で一定期間発電した時に得られる電力量に対する実際に発電した電力量の割合です。
- ※3 2013年度に立ち上げた「地熱発電技術研究開発」事業を発展
- 参考:NEDOニュースリリース(2018年7月4日)「 地熱エネルギーのさらなる高度利用を目指す技術開発8テーマを採択」
- ※4 地熱発電所の利用率向上に関する研究
-
- 事業名:地熱発電技術研究開発/地熱エネルギーの高度利用化に係る技術開発/地熱発電所の利用率向上に関する研究
- 事業期間:2018年度~2020年度
- 事業概要: 地熱発電技術研究開発
- ※5 トラブル予兆診断システムの実証実験を実施
- 参考:NEDOニュースリリース(2019年10月23日)「 地熱発電所のトラブル予兆診断技術の実証試験をインドネシアで開始」
- ※6 スケール
- 水中に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの鉱物が化合物となって機器の側面などに析出したものをいいます。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新エネルギー部 担当:大竹、長谷川
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、橋本、鈴木、根本