リモートセンシングを用いたヒノキ人工林の蒸散量広域予測モデルを開発

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2023-11-30 京都大学

森林は「緑のダム」と呼ばれます。水を地面に浸透させ、地下水を涵養する機能を持っているからです。しかし、日本では近年、間伐などの手入れが行き届かずに過密化した人工林が問題となっています。こうした人工林では蒸発散(土壌からの蒸発や樹木からの蒸散)によって水分が大気中に放出され、相当量の地下水資源が失われていることが指摘されています。日本のような森林の豊かな地域では、特に樹木からの蒸散(Et)が大きな割合を占めています。Etを広域かつ正確に把握できれば、人間が利用可能な地下水量を可視化し、渇水時には計画的な地下水利用が可能となります。

岡﨑麻紀子 学術研究展開センターリサーチ・アドミニストレーター(特定専門業務職員)らの研究グループは、Etをこれまでより正確に予測できる新モデルを開発しました。対象はヒノキ人工林で、衛星リモートセンシング技術と森林調査データ(FI)を組み合わせてEtを計算します。

Etの予測は気象条件や植物の生理的反応に大きく影響されるため、複雑で難易度が高い問題でした。しかし、今回開発したモデルは、衛星が観測した地表の温度とマルチスペクトルデータ、FIを活用することで、これらの要素を効果的に統合することに成功しました。また、Etに大きく影響する辺材面積(樹木断面のうち水が流れる面積)もFIのデータを基に計算し、モデルに統合しました。その結果、この新モデルの予測値は実際のEtとの間に高い相関(相関係数r = 0.76-0.89)を示しました。

本研究成果は他の樹種のEt推定にも応用できる可能性があります。また、ドローンなど他のリモートセンシング手法にも適用できます。このため、新モデルは、樹種ごとのEtをより詳細かつ正確に推定するための貴重な手法となり、森林管理の効率化と精度向上に大きく貢献し、持続可能な林業や森林の水源涵養機能の評価に資することが期待されます。

本研究成果は、2023年11月17日に、国際学術誌「ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing」にオンライン掲載されました。

リモートセンシングを用いたヒノキ人工林の蒸散量広域予測モデルを開発SFデータを利用した各地域の位置。Hw, Izは福岡県、Kiは神奈川県に位置する人工ヒノキ林である。Krは今回モデル開発に利用したSFデータを取得した唐沢山(栃木県佐野市)の位置であり、(c)の白枠におけるSFデータを利用した。(e)は群馬県桐生市におけるFIデータで、広葉樹(Broad-leaf tree)、スギ(Cedar)、ヒノキ(Cypress)の生育範囲が詳細に記載されている。

詳しい研究内容について

リモートセンシングを用いたヒノキ人工林の蒸散量広域予測モデルを開発

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.isprsjprs.2023.11.009

【書誌情報】
Asahi Hashimoto, Chen-Wei Chiu, Yuichi Onda, Makiko Tateishi, Kenji Tsuruta, Takashi Gomi (2023). Satellite remote sensing model for estimating canopy transpiration in cypress plantation using in situ sap flow observations and forest inventory. ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing, 206, 258-272.

1304森林環境
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