火山の下のマグマの通り道を机上で推定する手法を発明 ~地形データから、長期間にわたるマグマの移動の痕跡を推定可能に~

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2023-10-04 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 火山のどの場所で噴火が起こりやすいかを把握することは、火山の防災・減災対策の検討や地層処分場の選定における安全評価において重要な要素です。しかし、地下のマグマの推定を行うためには、専門家による現地での調査が必要となるなど、多大な労力と時間を要します。
  • そこで本研究では、一般に公開されている地形データから、火山の下にあるマグマの移動の痕跡(通り道)を机上で推定する手法を構築しました。
  • これにより、現地に行くことなく、現地調査が必要な範囲の”あたり”が簡便につけられるようになります。また、本手法は専門家以外でも利用が可能な汎用性の高いものであるため、防災の担当者等が火山防災の事前検討に使用するなど、より広い範囲での活用が期待できます。

火山の下のマグマの通り道を机上で推定する手法を発明 ~地形データから、長期間にわたるマグマの移動の痕跡を推定可能に~
図 地形解析によりマグマの通り道を推定する方法の概念図

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範)東濃地科学センターの西山成哲、川村淳、丹羽正和ネオテクトニクス研究グループリーダーらの研究グループは、火山の過去のマグマ移動の痕跡(通り道)を推定するための手法の一つとして地理情報システム(GIS (※1))を用いた地形解析手法を構築しました。本手法は、第四紀(約260万年前以降)に活動した火山に対して、地形データから過去の火山活動により形成されたマグマの通り道の長期間にわたる変化を推定することが可能です。

マグマが地下でどのように移動するかは、その火山が周りから受けている力のかかり方や基盤の地質などが関係するとされています。過去のマグマの通り道を明らかにすることは、火山のどの場所で噴火が起こりやすいかについて把握することにも繋がるため、火山防災を検討する際の重要な情報となります。

火山の地形は地下のマグマの通り道の分布を反映しているとされていますが[1]、これまではその関係性を明確に示した研究例はありませんでした。本研究では、既存のGISソフトウェアのツールを独自に組み合わせたモデル[4]を用いて一度に多くのデータ処理を実施し、多くの火山に地形解析を適用することで、火山の地形とマグマの通り道との関係に関する明確な指標を提示することができました。さらに、本研究で提案した地形解析を実施することで、活動履歴がよくわかっている火山のマグマの通り道の特徴を再現することに成功しました。

本手法を用いることで、火山の活動履歴がよくわかっていなかった火山に対しても、マグマの通り道の変化の程度を推定することが可能となり、火山の防災・減災や地層処分における安全評価を検討する上で重要な情報を提供することが期待されます。

本研究成果は、2023年8月10日に一般社団法人日本応用地質学会が発行する学術雑誌「応用地質」に掲載されました。

【背景】

火山の防災・減災や、高レベル放射性廃棄物等の地層処分の安全評価においては、火山活動の将来予測を行うため、火山のどの場所に火口が形成され、噴火が起こりやすいのかを理解する必要があります。溶岩流、マグマ水蒸気爆発、火砕流、火山灰などに代表される火山災害は、マグマの通り道が地表へ到達した到達点である火口から発生・波及するため、過去の火山活動に伴う地下のマグマの通り道に関する情報は、将来、火山体のどの場所で噴火が起きやすいかを推定するための鍵となる情報と言えます。しかし、これらの情報は火山の地下深くにあり、マグマの通り道である火道 (※2)の位置や放射状岩脈 (※3)が発達する方向を把握することは現在においても多大な労力を要します。

我々はこの課題を解決するため、一般的に利用可能な全国の地形情報からこれらの情報を推定することを考案しました。火山の地形は、マグマの通り道である火道や放射状岩脈の分布を反映していることが指摘されています[1][2]。1990年代には、マグマの通り道について地形から解析する技術の構築が試みられましたが[3]、具体的な地形の特徴を把握するまでには至っておらず、それ以降に続く研究はほぼありませんでした。これは、当時までの時点において、地形を定量的に解析するための技術が不十分であったことが一因として挙げられます。

しかし、近年は、地理情報システム(GIS)などのコンピュータによる地形解析技術の向上や、最新の数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)の整備により、地形解析を行うのに適した環境が整ってきています。本研究では、こうした状況を踏まえ、活動履歴についてよく調査されている火山を対象に、地形解析から客観的な地形の特徴を抽出することを試みました。この解析を行うことで、各火山下の過去のマグマの通り道である火道および放射状岩脈の分布、さらにそれらの長期間にわたる変化の程度を示す火道の安定性 (※4)を推定できる可能性があります。このように地形データを用いて解析することで、未だ詳細が知られていない火山を含む全火山について同様の解析を行うことができ、各火山で比較可能なマグマの通り道に関するデータを提供することが期待されます。

【研究成果】

本研究では、過去1万年間の火口の分布履歴について既に研究されている22火山[2]を対象に地形解析を実施しました。具体的には、火山を構成する等高線を用いて、等高線の伸びの方向、山頂以外を囲う等高線の分布の特徴、等高線で囲われた領域の面積など、等高線の形状に関する様々な情報を、GISソフトウェアを用いた地形解析により収集しました(図1)。これらの解析には、大量の等高線データを処理する必要がありますが、既存のGIS上のツールを組み合わせた独自のモデル[4]を使用することにより、多くの火山を短時間で解析することが可能です。

解析の結果、既往研究で火道が不安定とされている火山は、山頂以外に高まりを見せる地形(山頂以外を囲う等高線)の面積の合計が、火道が安定とされる火山と比べて明瞭に大きいことを明らかにしました(図2)。これらから、マグマの主な通り道である火道の安定性は、山頂以外を囲う等高線の面積データを使って単純に見分けられることが示されました。ここで火道安定型とされる火山は、同じ火道を使って何回も噴火する傾向があり、これによって、火山の形は次第にその火道からマグマが走る方向に延びた楕円になっていくことが知られています。このため、等高線の伸びの方向および高まりを示す等高線の分布から、火山のマグマの通り道の分布、即ち放射状岩脈がよく発達する方向を推定可能と考えられます。

ここで得られる推定結果は、地形データのみから得られる一つの独立した結果となります。つまり、火山の下の地質構造(断層など)や地殻応力(地下の岩盤にかかる力)の他のデータと組み合わせることで、火山ごとにマグマの通り道がどのように変化してきたかを考察することが可能となります。

本研究により、マグマの通り道の違いによる火山の地形の特徴を大まかに捉えることができました。これは火口の分布履歴が明らかとされている火山において、地形解析により捉えた特徴と矛盾しない結果を得ることができたことを意味しています。これまで定性的に議論されていた火山の地形の特徴を、面積や方位などの定量的なデータで示すことにより、マグマの通り道に関する情報を地形から取得可能となりました。このことは、活動履歴がよくわかっていない火山についても、本研究で提案した地形解析手法が新たなアプローチ方法として利用することができ、マグマの通り道の推定に役立つことが期待されます。一方で、火道不安定型とされる火山については、マグマの通り道が複雑であることが予想されるため、本解析手法を適用するにはさらに検討が必要であり、今後の課題となります。


図1 マグマの通り道と火山地形の特徴との関係の検証方法。上図は、長期間にわたるマグマの通り道の変化の程度(火道の安定性の違い)が及ぼす地形への影響についての検証である。これにより、山頂以外を囲う等高線の面積の合計を見ることで(図2に示す)、火道の安定性を推定可能と考えた。下図は、火道安定型の火山における放射状岩脈(マグマの通り道)の分布による地形への影響についての検証である。この検証から、地形により推定される放射状岩脈の卓越方位と実際の火口の分布傾向が合致しており、地形解析手法の有効性を確認した。


図2 地形解析による火道の安定性評価(上図)および富士山における放射状岩脈の卓越方向の推定結果の例(下図)。上図で示すように、山頂以外を囲う等高線の面積の合計によって、多くの火山について火道の安定/不安定を区別することができる。なお、グラフ中の「●(火道安定型)」と「▲(火道不安定型)」は、既存の研究[2]において火道の安定性評価を行った際の火山の対象範囲が大きく異なる火山であり、安定/不安定の判定が異なる可能性が高い火山である。図のような解析手順を踏むことで、火道が安定している火山を把握することができ、さらに放射状岩脈が卓越する方向を推定することも可能である。一方で、カルデラを伴う火山などの例外もあり、地形解析の適用範囲について今後の検討が必要である。

【論文情報】

雑誌名:応用地質
論文タイトル:等高線を用いた地形解析による第四紀火山の山体下の岩脈分布および火道安定性評価
著者名:西山成哲※,川村 淳※,梅田浩司※※,丹羽正和※
所属:※日本原子力研究開発機構,※※弘前大学大学院理工学研究科
DOI:https://doi.org/10.5110/jjseg.64.98
公表:2023年8月公開

【引用文献】

[1] Nakamura, Volcanoes as Possible Indicators of Stress Orientation – Principle and Proposal. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 1977. 2: pp.1-16.
[2] 高橋, 複成火山の構造と地殻応力場 1.火道安定型・不安定型火山. 火山, 1994. 39: pp.191-206.
[3] 向山ほか, 日本列島における第四紀火山地形解析. 1996. PNC TJ7362 96-001.
[4] 西山ほか, GISを用いた火山体の地形解析によるマグマ供給系の推定方法(受託研究). JAEA-Testing, 2022, 2022-003: 51p.

【特記事項】

本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」研究課題番号(JPJ007597)の一環で実施されたものです。

※用語解説

1.GIS:
地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は、緯度、経度、標高といった地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である。(国土地理院HP参照

2.火道:
地下深くのマグマ溜まりから火口をほぼ鉛直につなぐマグマの通り道のことであり、火山の活動中心とされる。地下深部から供給されるマグマの主な通り道と考えられる。([2]を参照)

3.放射状岩脈:
火道から放射状に派生、伸展したマグマが固まったものであり、その分布は過去のマグマの通り道を指す。放射状岩脈の発達の度合いにより、火山の地形が徐々に変形して、より岩脈が発達した方向に山体が伸びるとされている。また、岩脈と山腹との合流点には、側火山と呼ばれる規模の小さな火山が形成される。岩脈が卓越する方向は、その地域の地殻にはたらく応力に関係するとされており、圧縮応力の方向に岩脈がよく発達すると考えられる。([1]を参照)

4.火道の安定性:
火山の活動の中心である火道の空間的、時間的拡がりに関する特徴のこと。小型の単成火山と大型の円錐形複成火山の違いは、前者の火道が極めて短期間しか使用されず、次の噴火では別の火道が利用されるのに対して、後者ではそれが長期間にわたって繰り返し利用される。言い換えれば、小型の単成火山は火道がきわめて不安定であったのに対し、大型の複成火山は火道が長期間安定していたことを意味する。([2]を参照)

1702地球物理及び地球化学
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