太陽から降りそそぐ「電子の雨」がつくりだした巨大オーロラの観測に成功

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2024-06-22 電気通信大学

ポイント
  • 北極を覆い尽くすほど巨大なオーロラを宇宙と地上から同時に観測することに成功
  • 巨大オーロラは、太陽風が消えた日に、太陽から直接降り注ぐ「電子の雨」によって発生
  • 地上からの観測によって、巨大オーロラの内部に特徴的な模様があることを可視化
  • 巨大オーロラの模様が、太陽表面の構造をスクリーンのように映し出していることを示唆
概要

細川敬祐教授、津田卓雄准教授(情報・ネットワーク工学専攻/宇宙・電磁環境研究センター)と、国立極地研究所の片岡龍峰准教授、小川泰信教授、京都大学大学院理学研究科の田口聡教授を中心とする国際共同研究グループは、ノルウェースバールバル諸島に設置されている全天型オーロラ撮像装置と、DMSP衛星に搭載された紫外線撮像装置による共同観測によって、北極域を埋め尽くすように出現した巨大なオーロラの観測に成功しました。宇宙や地上からの観測を統合的に解析することによって、この巨大なオーロラは、太陽から吹き付ける荷電粒子の風である「太陽風」が1日以上にわたってやんでいた時間帯に、太陽から北極域に「電子の雨」が降り注ぐことによってつくられたものであることを突き止めました。また、地上からの高い解像度の光学観測によって、電子の雨に伴って発生するオーロラに複雑な模様があることも明らかにしました。この模様は、電子の雨の起源である太陽表面の構造をスクリーンのように映し出している可能性があり、電子の雨がつくりだすオーロラを地上から観測することによって、太陽表面のイメージングが可能になることが期待されます。
この研究成果は、米国時間(東部標準時)2024年6月21日(金)14時(日本時間2024年6月22日(土)4時)に、学術論文誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されました。

背景

2022年12月25日に、太陽風の密度が丸一日以上にわたって極端に低下する、つまり、太陽から地球に吹き付ける風がほぼ「やんで」しまう、という特別な現象が起こりました。このように長い時間にわたって太陽風が消失するのは、1999年5月に観測事例があるのみで、数十年に1度しか起こらない非常に稀な現象と考えられています。普段、極地方で観測されるオーロラは、太陽風が強まったときに地球近傍の宇宙空間(磁気圏)から大気へと電子が降り込んで来ることによって発生します。しかし、太陽風が消えたときにオーロラは発生しうるのか? 発生するとすればどのようなメカニズムによってつくられるのか? についての理解は不十分でした。

成果

本研究は、ノルウェースバールバル諸島に設置されている複数の全天型オーロラ撮像装置と極軌道を周回するDMSP衛星に搭載されている紫外線撮像装置を組み合わせることによって、太陽風が消えていた時間帯に、極地方全体を完全に覆い尽くすほど巨大で、地上からも肉眼で見えるほど明るいオーロラが発生していたことを明らかにしました(図1)。通常の太陽風の条件下では、極に非常に近い高緯度領域(極冠域)において、このように明るいオーロラが観測されることはありません。つまり、太陽風が消失するという特殊な状況で、通常とは異なる物理メカニズムによって、この巨大なオーロラがつくりだされていたことが示唆されます。なお、数千キロメートル四方程度の広がりを持つ極冠域を、ほぼ完全に埋め尽くすような特殊なオーロラを、宇宙と地上から同時に撮像することに成功したのは、本研究が世界で初めてになります。

太陽から降りそそぐ「電子の雨」がつくりだした巨大オーロラの観測に成功
図1: DMSP衛星に搭載された紫外線撮像装置によって得られた北極域のオーロラの広域分布。2022年12月25日の世界時4時53分から翌日の世界時11時30分までの24枚の連続画像。画像の中央が磁気的な北極点、上側が太陽方向になっています。磁気的な極を取り囲む約数千km四方の領域(極冠域)が、明るいオーロラによって覆われていることが分かります。


太陽の磁場がある特別な向きになったときに、太陽の磁場と地球固有の磁場である「地磁気」が繋がりあい、太陽と地球が磁気の糸(磁力線)によって結ばれることが知られています。このような条件下では、太陽表面のコロナホールと呼ばれる構造から、磁場に沿って宇宙空間に放出される「ストラール」と呼ばれる太陽起源の電子群が、太陽と地球を繋いでいる磁気の糸に沿って直接地球大気に導かれ、極地方に雨のように降り注ぎます(図2)。この太陽から極地方に直接的に降り注ぐ「電子の雨」のことを「ポーラーレイン」と呼びます。人工衛星による太陽風観測データの解析から、太陽風が消えた日に観測された事例では、太陽の磁場と地磁気が繋がりあう条件が満たされていることが分かりました。太陽を放出されたストラール電子は、太陽と地球を結ぶ磁気の糸をつたいながら数日かけて地球に到達し、北極地方に豪雨のように降り注いだものと考えられます。また、太陽風が消えていたため、電磁気的な力によって進路を乱されることがなく、通常よりも遙かに大量のストラール電子が北極に到達できたと考えられます。これによって、通常よりも遙かに規模が大きく、極端に明るいオーロラが北極域を覆うように発生していたのです。このように太陽から直接降り注ぐ電子の雨に伴ってオーロラが発生しうることはこれまでにも報告がありましたが、本研究は、極冠域全域を覆うほど大規模で、極端に明るいポーラーレインオーロラを宇宙と地上から同時に撮像することに世界で初めて成功しました。また、太陽風が「消えている」ことが、この特別なオーロラの発生にとって必須の条件であることを突き止めました。

図2
図2: 太陽表面のコロナホールから放出されたストラール電子が、磁力線をつたって地球の北極域に到達し、電子の雨を降らせている様子の模式図。大量に降下する電子の雨(ポーラーレイン)によって、北極域の広い領域を覆い尽くすように明るいオーロラが発生しています。本研究では、このオーロラをノルウェースバールバル諸島に設置されている全天光学撮像装置および低高度を周回するDMSP衛星からの紫外撮像装置によって観測しました。


本研究は、ポーラーレインオーロラの生成メカニズムや発生条件を明らかにするだけでなく、ノルウェースバールバル諸島に設置されている全天光学撮像装置を用いた高解像度観測によって、ポーラーレインオーロラが複雑な模様(空間構造)を持つことを明らかにしました(図3)。特に、ポーラーレインオーロラの内部には、マッシュルームのような形をしたうねりや、波打ちのような複雑な構造が存在し、秒速200メートル程度の速度で反太陽方向(太陽から遠ざかる方向)にダイナミックに移動していることを示しました。この特徴的な模様や運動特性は、ストラール電子の源である太陽表面の構造をスクリーンのように映し出している可能性があります。また、ポーラーレインオーロラの運動は、ストラール電子の伝搬経路そのものが太陽風とともに反太陽方向に移動していることを示しています。

図3
図3: 電子の雨に伴って発生したポーラーレインオーロラが最も明るくなった時間帯に得られた地上からのオーロラ撮像データ。557.7 nmの緑色の発光を観測するカメラによって得られたデータを示しています。オーロラの形態に特徴的な模様(マッシュルームのような形や波打ち構造)が見られることが分かります。

今後の期待

今後、ポーラーレインオーロラを地上から高い時空間分解能で観測することが、太陽表面や惑星間空間を可視化することに繋がることが期待されます。また、このタイプのオーロラは、珍しいとはいえ、今後もときおり観測される可能性があります。現在、国立極地研究所を中心に国際協力で進められている、南極大陸の上空を埋め尽くす広大な視野をもつ高感度な全天オーロラカメラのネットワーク観測が実現することで、この不思議なオーロラの全体像が明らかになり、太陽表面のプラズマの詳細について、さらに新たな知見が得られることが期待されます。

(参考動画)

  • (動画が再生されます) 動画1「電気通信大学 細川敬祐研究室 提供」
  • (動画が再生されます) 動画2「電気通信大学 細川敬祐研究室 提供」
  • (動画が再生されます) 動画3「電気通信大学 津田卓雄研究室 提供」

(論文情報)
論文雑誌名:Science Advances
タイトル:Exceptionally gigantic aurora in the polar cap on a day when the solar wind almost disappeared
著者:K. Hosokawa, R. Kataoka, T. T. Tsuda, Y. Ogawa, S. Taguchi, Y. Zhang and L. Paxton
DOI:(新しいウィンドウが開きます)https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adn5276

(外部資金情報)
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(20K20940,21KK0059,21H01144,22H00173,22H01285)の補助により行われました。

詳細はPDFでご確認ください。

1702地球物理及び地球化学
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