カーボンニュートラルに向けた家庭エネルギーシステムを提案

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2023-03-01 東京大学

発表のポイント

◆ 家庭エネルギーシステム:Power & Air Conditioning as a Service(以下、PACaaS)を提案し、その高効率な運転が可能であることを明らかにしました。
◆ 実データを含む年間シミュレーションにより電力損失の低減を検証しました。
◆ 高効率システムかつ太陽光発電の有効利用によるゼロエミッション社会への貢献が期待されます。

提案する家庭エネルギーシステムの概略図.png

提案する家庭エネルギーシステム(PACaaS)の概略図

従来はそれぞれの機器が個別に稼働しているが、集中管理をデバイスレベルで行うことによって高効率な運転が可能となる。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本 博志教授、藤田 稔之特任講師、永井 栄寿特任助教、ダイキン工業株式会社テクノロジーイノベーションセンター山際 昭雄氏らによる「EV協調型サーマルシステム工学社会連携講座」は、家庭エネルギーシステム:Power & Air Conditioning as a Service(以下、PACaaS)を提案し、その高効率な運転が可能であることを明らかにしました。

本研究グループは、カーボンニュートラル・再生エネルギー拡大・蓄エネコスト低下を見据えた電力エネルギーと熱エネルギーの統合最適制御システムについて研究しています。一般的な家庭に設置されている太陽光発電(PV: Photovoltaic generator)や電気自動車(EV: Electric Vehicle)充電器、ヒートポンプ給湯器(HP:Heat Pump)などは、それぞれが独立して稼働しており、昼間に余剰電力が発生することでPVの出力を抑制することやそれぞれの変換器の電力損失などの問題が指摘されていました。
今回、PACaaSの実験機を作成し、テスト環境下において、システムの安定的な動作とエアコンの高効率な動作が可能であることを確認しました。それにより、商用電源を介さずにそれぞれの機器を家庭内で直流に接続することで、高効率な運転が可能であることを実証しました。
また、エアコンなどの実負荷の消費電力データを用いて年間のシミュレーションを行い、PACaaSの有効性を確認しました。
今回提案するPACaaSは、災害時など電力供給が途絶された状況においても、エアコンやヒートポンプシステムなどの自立運転が可能になります。さらには太陽光発電の電力を最大限活用できるゼロエミッション社会に向けた取り組みに貢献していきます。

本研究成果は、2023年3月1日および6日に開催される電気学会研究会において公開されます。

発表内容

〈研究の背景〉

我が国においては、新エネルギー等発電の約35%を太陽光発電(PV: Photovoltaic generator)が占めています。
カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みとして、PV 発電電力の自己消費率の向上や、余剰電力および需要電力のピークの緩和、停電時の自立運転などを目的とした定置バッテリと組み合わせたエネルギーシステムが注目されており、定置バッテリの導入量も年々増加しています。

〈研究の内容〉

本研究チームは、新しい家庭エネルギーシステムの提案として、近年普及率が増加している電気自動車(EV: Electric Vehicle)のバッテリストレージを利用する方法、ヒートポンプ給湯器(HP:Heat Pump)を使用して熱エネルギーに変換する方法について実験検証を行いました(論文1)。

まず、PV、定置用バッテリ、系統連系インバータ、エアコンの4つの機器を直流に接続したPACaaS実験機を作成しました(図1)。エアコンは実際の製品を改造し、一般家庭を模擬した電源を使用しました。このPACaaS実験機は一つのコントローラで制御することによって高効率な運転が可能です。
次に、一般的なフィードバック制御を行った場合での特性についての評価を行いました。本システムが稼働している状態においても、PVによる最大電力制御を維持しながら安定的に動作することを確認しました。さらに、本システムの特徴でもある直流電圧を制御することによってエアコンの変換効率が1%程度向上することを確認し、最適な動作電圧があることを示しました(図2)。

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図1:PACaaS実験機

図2直流電圧に対するエアコンへの入力電力.png
図2:直流電圧に対するエアコンへの入力電力

PVの自己消費率を最大化するために年間の実負荷データを用いて定置バッテリおよびEVバッテリの充放電を制御し、HPシステムの動作時間のシフトの効果をシミュレーションによって検証しました(論文2)。

EVの接続台数を増やすとPVの自己消費率が改善されること、およびバッテリが有効利用されていることを確認しました。さらに定置バッテリとEVのバッテリの充放電優先度充電はEVバッテリを優先し、放電は定置バッテリを優先することが効果的であることを確認しました。HPの動作時間を夜間から12時間シフトして、PVが発電している時間とHPの動作時間を一致させることによって、PVの自己消費率を上昇することを確認しました。また、提案システムを用いることで、エアコンやHPの利用率の高い夏および冬において系統連系インバータによる電力損失を40%程度低下できることが示されました(図3)。

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図3:従来システムと比較したPACaaSの月毎の電力損失低減率

〈今後の展望〉

今回提案する家庭エネルギーシステムPACaaSは、これまで別々に制御されていたPV、HP、EV充電器などを商用電源に介さずに直流に接続したシステムとすることで、従来用よりも高効率な運転が可能になります。また、停電時もエアコンやヒートポンプシステムなどが運転可能となり、災害時などにも電気を使用することができるようになります。さらには、EVのバッテリを積極的に使用することで、ピークシフトやダックカーブ抑制などの太陽光発電の電力を最大限に活用できるゼロエミッション社会に向けた取り組みへの貢献が期待できます。
本研究グループは、今後も短周期の動作検証から年間単位のシミュレーション検証まで広い観点でPACaaSの検討を行い、さらなる家庭エネルギーシステムの高効率化を目指します。

〈関連のプレスリリース〉

「東京大学とダイキン工業による「産学協創協定」の締結について」(2018/12/17)
https://www.daikin.co.jp/press/2018/20181217

発表者

東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻
藤本 博志(教授)
藤田 稔之(特任講師)
永井 栄寿(特任助教)

ダイキン工業株式会社
山際 昭雄
安田 善紀
古井 秀治
宮島 孝幸
中川 倫博
山下 尚也

論文情報

論文1
〈発表〉    電気学会 モータドライブ/家電・民生    合同研究会 3月1日
〈題名〉    太陽電池および定置バッテリを含む家庭エネルギーシステムにおけるエアコンのDC接続によるシステムの高効率化に関する基礎検討
〈著者〉    *藤田稔之, 永井栄寿, 藤本博志, 中川倫博, 山下尚也, 安田善紀, 山際昭雄
〈URL〉 https://workshop.iee.or.jp/sbtk/cgi-bin/sbtk-showprogram.cgi?workshopid=SBW00008357

論文2
〈発表〉    電気学会 電力技術/電力系統技術/半導体電力変換    合同研究会 3月6日
〈題名〉    太陽光発電電力量の自己消費率最大化のための電気自動車を用いた学校・家庭のエネルギーマネジメント
〈著者〉    *永井栄寿, 藤田稔之, 藤本博志, 古井秀治, 安田善紀, 山際昭雄
〈URL〉 https://workshop.iee.or.jp/sbtk/cgi-bin/sbtk-showprogram.cgi?workshopid=SBW000085C5

両論文は、上記ウェブサイトより研究会開催の3日前からダウンロード可能になります。

お問合せ

新領域創成科学研究科 広報室

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