2022-11-28 物質・材料研究機構
NIMSは、ハーバード大学およびコネティカット大学と共同で、気体を流入させるとその性質に応じて発色する簡易デバイスを設計・作製し、気体を色によって識別できることを実証しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、ハーバード大学およびコネティカット大学と共同で、気体を流入させるとその性質に応じて発色する簡易デバイスを設計・作製し、気体を色によって識別できることを実証しました。本成果は、気体流入に伴う圧力を利用し構造色を発現させることで、きわめて手軽にあらゆる気体を可視化・識別するための新たな手法を提供するものであり、気体計測がカバーする、環境、安全、ヘルスケアなどの諸分野への展開が期待されます。
- 気体の可視化は基礎研究のみならず応用面においても重要な課題ですが、我々を取り巻く空気がそうであるように、ほぼ全ての気体は無色透明であり、目に見えません。これまで可視化は、主に自由空間における気流を対象に、ごく限られた手段によって達成されていました。例えば、赤外線カメラを用いた温度変化に基づく方法や、トレーサー粒子と呼ばれる微粒子を気中に分散させる方法などですが、いずれも特殊な装置を必要とします。「任意の」気体を一様に可視化することはもとより、可視化した画像から気体特性の分析などを行うことは困難でした。気体の種類を選ばずに可視化し、分析までできる簡易な手法は、ビジュアルベースの各種計測技術など、多様な展開につながると考えられます。
- 今回、研究チームはポリジメチルシロキサン (PDMS) という柔軟な材料を板状に成形し、片面の一部をアルゴンプラズマ処理し、その面をガラス基板と密着させるだけという簡易な方法により、多様な色 (構造色) に基づく気体可視化・識別デバイスを作製しました。このPDMSのプラズマ処理部分には、圧縮によってひだ状の微細構造が形成します。そのため、右図に示すように、PDMSとガラスの接着面をこじ開けるように気体を流し込むと、プラズマ処理部が圧力により圧縮され、構造色が誘起されるのです。この原理は、あらゆる気体の可視化・識別に適用可能です。また、気体の流入を止めると、色は完全に消失します。この構造変化は気体の流量、粘度、密度に依存します。特に全ての気体は固有の粘度と密度を有するため、一定流量下での発色は気体種に特有となり、これにより気体の識別・分析が可能となります。
- 今後は、環境ガスや生体試料の識別などを究極的な目標に据え、デバイスの感度向上・最適化に取り組みたいと考えています。また、画像認識や機械学習と組み合わせた識別手法の確立や、CCDなどを用いた簡易構成の小型デバイス作製についても検討していく予定です。
- 本研究は、NIMS 機能性材料研究拠点 嗅覚センサグループの柴 弘太主任研究員とハーバード大学のDavid A. Weitz教授、コネティカット大学のLuyi Sun教授らからなる研究チームによって行われました。
- 本研究は、JSPS科研費 国際共同研究強化 (B) (課題番号 : JP19KK0141) 、基盤研究 (B) (課題番号 : 21H01971) 、挑戦的研究 (萌芽) (課題番号 : 21K18859) 、基盤研究 (A) (課題番号 : 18H0f4168) 、および内閣府 官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM) の一環として行われました。
- 本研究成果は、Advanced Science誌オンライン版に2022年11月17日 (現地時間) に掲載されました。
プレスリリース中の図 : 気体流入に伴うデバイス発色の様子と原理
上段 : 俯瞰図、中下段 : 断面図
掲載論文
題目 : Visualization of flow-induced strain using structural color in channel-free PDMS devices
著者 : Kota Shiba, Chao Zhuang, Kosuke Minami, Gaku Imamura, Ryo Tamura, Sadaki Samitsu, Takumi Idei, Genki Yoshikawa, Luyi Sun, David A. Weitz
雑誌 : Advanced Science
掲載日時 : 2022年11月17日 (現地時間)
DOI : 10.1002/advs.202204310