2022-10-28 物質・材料研究機構
NIMSの研究チームは、大体積を扱う新たな3D解析手法を活用することにより、ミクロな疲労亀裂の成長メカニズムが、金属結晶の特定の面に沿ったすべりにより成長することを解明し、金属疲労の分野で50年にわたる課題を解決しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (以下、NIMS) の研究チームは、大体積を扱う新たな3D解析手法を活用することにより、ミクロな疲労亀裂の成長メカニズムが、金属結晶の特定の面に沿ったすべりにより成長することを解明し、金属疲労の分野で50年にわたる課題を解決しました。従来、亀裂は ”引張り力” によって成長すると考えられてきましたが、亀裂をすべらせる力である ”せん断力” が、亀裂成長の大部分を支配することを明らかにしました。
- 繰返し力を受けることで起こる金属の疲労破断は、機械の破損事故の多くに関与しており、そのメカニズムの解明は重要な研究課題です。疲労寿命、すなわち、使用中に繰返し力を受ける材料が破断するまでの期間は、ミクロな亀裂が発生し成長する過程です。疲労過程初期の亀裂の発生メカニズムと、後期の大きくなった亀裂の成長メカニズムは50年以上前に明らかにされましたが、その中間過程におけるミクロな亀裂の成長メカニズムは、材料寿命の大部分を占めるにも関わらず、長い間不明確なままでした。その一因は、最も重要な、大きさ200 μm前後の亀裂の観察の難しさにありました。
- 今回、電子顕微鏡をベースとした3D組織解析手法を高度化して、大体積 (従来比100倍) の金属組織の高解像度解析を可能としました。この方法を、航空機エンジン用耐熱合金の疲労亀裂に適用することで、世界で初めて、大きさ200 μm前後の疲労亀裂の高解像度な三次元解析を実現しました。これにより、亀裂の成長経路と金属の結晶方位の関係を広範囲で定量的に解析することが可能となり、従来の認識と異なる亀裂成長メカニズムの存在が明らかとなりました。
- 金属の疲労寿命の管理や予測は、疲労破断のメカニズムに立脚して構築されてきました。前提となるメカニズムが明確となれば、より正確な寿命の予測が期待できます。例えば、特に高い安全性が求められる航空機用材料の開発・実用化には、高精度な寿命予測が不可欠です。本成果は国産合金の信頼性確保および実用化促進に大きく貢献すると期待出来ます。
- 本研究はNIMS構造材料研究拠点の疲労特性グループの西川嗣彬主任研究員、古谷佳之グループリーダー、超耐熱材料グループの長田俊郎主幹研究員、川岸京子グループリーダー、および構造材料組織解析技術グループの原徹グループリーダーによって実施されました。また、本研究は内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」 (国立研究開発法人科学技術振興機構) の一環として行われました。本研究では、航空機エンジン用耐熱合金の中でもNIMSが開発したタービンディスク用Ni-Co基超合金を対象としました。
- 本研究成果は、Scripta Materialia誌 (Vol. 222) で2022年9月5日にオンライン公開されました。
プレスリリース中の図 : 3D解析の概要と明らかとなった亀裂成長メカニズムの模式図
掲載論文
題目 : Three-dimensional high-resolution crystallographic observation of the entire volume of microstructurally small fatigue cracks in Ni-Co based superalloy
著者 : Hideaki Nishikawa, Yoshiyuki Furuya, Toshio Osada, Kyoko Kawagishi, Toru Hara
雑誌 : Scripta Materialia
掲載日時 : 2022年9月5日
DOI : 10.1016/j.scriptamat.2022.115026