低品位リン鉱石を活用した有機肥料製造技術を開発~土壌微生物の働きにより化学肥料と同等の増収効果~

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2022-10-20 国際農研,ブルキナファソ環境農業研究所,ジョセフ・キゼルボ大学

ポイント

  • 作物残渣に、ブルキナファソ産の低品位リン鉱石1)と根圏土壌2)を添加して発酵させることで、増収効果の高い有機肥料を製造する技術の開発に成功
  • リン鉱石と土壌を添加した有機肥料の増収効果は化学肥料に匹敵し、リン可溶化に有効な土壌微生物量が増加
  • 世界的な化学肥料価格の急騰に対する有効な技術として期待

概要

国際農林水産業研究センター(以下、国際農研)とブルキナファソ国環境農業研究所(以下、INERA)およびジョセフ・キゼルボ大学の共同研究グループは、現地で容易に入手できる作物残渣(ソルガムの茎など)に未利用資源であるブルキナファソ産低品位リン鉱石とリン酸塩可溶化微生物3)を豊富に含む根圏土壌を添加して発酵させることで、増収効果の高い有機肥料の製造技術を開発しました。主要穀物であるソルガムを対象とした実証試験(ブルキナファソ中央台地)において、本技術を用いて調整したリン鉱石などを添加した有機肥料(以下、リン鉱石土壌添加堆肥)は、化学肥料に匹敵する増収効果が得られました。また、リン可溶化に有効な土壌微生物量が増加することも明らかとなりました。
本研究で開発したリン鉱石土壌添加堆肥は、植物残渣、低品位リン鉱石、根圏土壌など、現地農家が利用可能な材料のみを用いた新たな有機質肥料です。本技術は、現地農家に新たな選択肢を提供することとなり、土壌肥沃度の改善に向けた有効な技術になり得ると期待されます。さらに、本研究の成果は、現地未利用資源の活用によるサブサハラ・アフリカでの食料問題への貢献と、世界的な化学肥料価格の急騰に対する有効な技術になることが期待されます。

本研究成果は「Scientific Reports」電子版(日本時間 2022 年 8 月 17 日)に掲載されました。

関連情報
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築」の支援で実施されました。

発表論文

論文著者
A Sagnon, S Iwasaki, EB Tibiri, NA Zongo, IJO Bonkoungou, S Nakamura, M Traore, N Barro, F Tiendrebeogo and PS Sarr
論文タイトル
Amendment with Burkina Faso phosphate rock‑enriched composts alters soil chemical properties and microbial structure, and enhances sorghum agronomic performance
雑誌
Scientific Reports
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-18318-1

問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 小山 修

研究推進責任者:
国際農研 プログラムディレクター 中島 一雄、林 慶一
研究担当者:
国際農研 生産環境・畜産領域 サール・パパ・サリオウ

国際農研 農村開発領域 岩崎 真也

国際農研 生産環境・畜産領域 中村 智史

広報担当者:
国際農研 情報広報室長 大森 圭祐
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

開発の社会的背景

サブサハラ・アフリカでは、厳しい気象条件や肥沃度の低い土壌など、多くの要因により作物の収量が低く、食料不足が慢性化しています。また、同地域では、大多数の農民が小規模な土地で農業を営んでいますが、農業生産性の維持に有効な化学肥料は、小規模農家にとって非常に高価であり、化学肥料の使用量は世界平均のわずか10分の1に留まっています。加えて、世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇を背景として、化学肥料の国際価格が急騰していることも大きな懸念となっています。このような中で、農業生産性を向上させ、食料問題を解決するためには、小規模農家が利用可能な、安価な肥料の開発と普及が不可欠です。

研究の経緯

国際農研とINERAおよびジョセフ・キゼルボ大学の共同研究グループは、ブルキナファソ国内での化学肥料の開発と並行して、同国の主要自給作物であるソルガムの作物残渣を使用した有機質肥料の開発に取り組んでいます。サブサハラ・アフリカに位置するブルキナファソには、約1億トンのリン鉱石が埋蔵されていますが、その多くは不純物を多く含み可溶性も低いことから低品位に分類されており、その大部分は未利用です。また、根圏土壌は、リン酸を可溶化する土壌微生物(Bacillus菌など)を豊富に含むことが先行研究により明らかになっています。
本研究では、作物残渣に低品位リン鉱石と根圏土壌を添加して発酵させるリン鉱石土壌添加堆肥の製造技術を開発するとともに、ブルキナファソ中央台地の農地で実証試験を行い、その増収効果を明らかにしました。

研究の内容・意義

  1. 堆肥化に用いた資材は、ソルガム残渣を100kg、リン鉱石と根圏土壌をそれぞれ10kg、発酵促進のための窒素源として尿素460gです。これらの資材をビニールシート上に5分の1量ずつを交互に積み上げます(図1)。その後、含水率を65%程度に調整し、2週間ごとに攪拌しながら180日間発酵させると、リン鉱石土壌添加堆肥が得られます。
  2. リン鉱石土壌添加堆肥と、作物残渣のみで製造した残渣堆肥とを定量PCR4)により分析した結果、リン鉱石土壌添加堆肥のリン酸塩可溶化微生物量は、残渣堆肥よりも遺伝子量で約2.4倍、酵素量は約2.3倍、それぞれ増加しました(図2)。
  3. ソルガムを用いた栽培試験の結果、リン鉱石土壌添加堆肥(図3の③)を施用した場合の収量は、残渣堆肥(図3の①)や根圏土壌を用いずリン鉱石のみを添加したリン鉱石添加堆肥(図3の②)と比較して、約1.5~1.7倍高いことが分かりました(堆肥区の施用量は図3の①②③とも全て1 haあたり1.34トン)。また、リン鉱石土壌添加堆肥は、堆肥区の窒素、リン酸およびカリ成分量を化学肥料で同量施用した場合(図3の④)と同等の増収効果を示しました。
  4. また、リン鉱石土壌添加堆肥を施用した土壌では、化学肥料区やリン鉱石添加堆肥区と比較して、リン酸の分解に関わる酵素である酸性ホスファターゼ5)aphA)やグルコースデヒドロゲナーゼ6)gcd)、リン酸の輸送に関わる酵素であるリン酸特異的トランスポーター7)pstS)が大幅に増加していました(図4)。
  5. 以上の結果より、リン鉱石土壌添加堆肥による大きな増収効果は、有効土壌微生物の量が向上したことで栽培期間中のリンの可溶化と吸収が促進されたためと考えられます。また、本試験では土壌pH、窒素および交換態陽イオン含量の上昇が確認できたことから、土壌肥沃度の改善にも期待できます。

今後の予定・期待

本研究で開発したリン鉱石土壌添加堆肥は、植物残渣、低品位リン鉱石、根圏土壌など、現地農家が利用可能な材料のみを用いた有機質肥料です。また、化学肥料と同等の増収効果を持つとともに、土壌の有効微生物の量や化学性を向上させます。本成果は技術書として取りまとめることを予定しており、土壌健全性の向上、食料増産、小規模農家への経済的還元を目的に、現地政府、NGO、農民組織、農業開発関係者に広く利用されることが期待できます。

用語の解説
1) 低品位リン鉱石
リン鉱石の中でリン酸含量が低いものや、不純物を多く含み化学的反応性の低いものは低品位に分類され、その多くは未利用のままです。
2) 根圏土壌
植物根の分泌物や、その影響を受ける土壌微生物の相互作用を直接受ける土壌です。通常は、根の極めて近傍の狭い範囲を指します。
3) リン酸塩可溶化微生物
リン酸塩を可溶化する能力を持つ微生物の総称です。特定の遺伝子の活性化により、リン酸塩を可溶化する代謝産物を放出します。本研究では、リン酸塩可溶化糸状菌とリン酸塩可溶化細菌の総和を指します。
4) 定量PCR
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、特定配列の遺伝子量を調べる方法で、堆肥や土壌の微生物を定量的に測定することができます。
5) 酸性ホスファターゼ
リン酸モノエステルをリン酸イオンとアルコールに加水分解させる酵素です。基質から遊離したリン酸イオンは、植物が利用可能な状態になります。
6) グルコースデヒドロゲナーゼ
無機リン分解代謝の最も重要な酵素で、グルコースのグルコン酸への酸化を触媒します。
7) リン酸特異的トランスポーター
菌膜の細胞質側に存在するタンパク質で、無機リン酸の輸送を行います。

低品位リン鉱石を活用した有機肥料製造技術を開発~土壌微生物の働きにより化学肥料と同等の増収効果~

図1. リン鉱石堆肥利用の概念図

収穫時に圃場に残る残渣に、根圏土壌、リン鉱石および尿素を添加し発酵させることで、リン鉱石土壌添加堆肥を製造します。農業を行うことのできない乾季の間に完熟させることができ、次年度の雨季に土壌に還元することで、作物生育を向上させることができます。

図2. 完熟堆肥中のリン酸塩可溶化微生物量および酵素量

リン酸塩可溶化微生物量は、残渣作物よりも遺伝子量で約2.4倍、酵素量は約2.3倍増加しました。

図3. リン鉱石土壌添加堆肥の施肥効果

リン鉱石土壌添加堆肥(③)を施用した場合の収量は、残渣堆肥(①)や根圏土壌を用いずリン鉱石のみを添加したリン鉱石添加堆肥(②)と比較して、約1.5~1.7倍高いことが分かりました。また、リン鉱石土壌添加堆肥は、堆肥区の窒素、リン酸およびカリ成分量を化学肥料で同量施用した場合(④)と同等の増収効果を示しました。

図4. ソルガム生育期間における根圏土壌中の有効微生物量

化学肥料を施用した場合(図中灰色)を100%とした相対値(%)で表示。アーバスキュラー菌根菌(AMF)、グルコースデヒドロゲナーゼ(gcd)、およびリン酸特異的トランスポーター生産菌(pstS)は、生育初期にあたる播種後52日目の値です。その他の項目に関しては、播種後52日、93日、115日の平均値です。

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