無機絶縁物を利用した硬質ケーブルの均一薄膜めっき技術を開発 〜イーター計測装置のみならず、加速器など高周波環境下の幅広い分野への応用も期待〜

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2022-05-27 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • 核融合実験炉イーターの計測装置の研究開発を通じ、硬質線材の全長にわたる均一かつ高精度(±1ミクロン)で薄膜を実現するめっき技術を新たに開発。
  • この技術は、高エネルギープラズマ下で用いるケーブルの絶縁体を物理的に保護するステンレス管の上に高精度に均一なメッキ層を作ることで、電磁的な影響から保護するもの。
  • これにより、ITER計画の実現のみならず、粒子線治療などに用いる医療用の加速器の高性能化などに応用が期待できる。

概要

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)、帝国イオン株式会社 (代表取締役社長 中村孝司。以下「帝国イオン」という。)及び株式会社岡崎製作所(代表取締役社長 岡崎一英。以下「岡崎製作所」という。)は、南フランスに建設中の核融合実験炉イーター1)において、日本が調達する中性子計測装置2)の製作に必要となる、均一かつ高精度で、薄膜を実現するめっき技術の開発に成功しました。
同計測装置はイーターの出力を評価する重要な装置ですが、高温かつ高放射線環境になるため、ゴムやビニールを使用する通常のケーブルは使用できず、無機絶縁物を利用したケーブル(以下「MIケーブル」という。)を使用する必要があります。他方、イーターでは、運転状態を維持するためにプラズマにマイクロ波を入射する必要があり、このマイクロ波の一部がMIケーブルを過熱し、損傷を招くことが大きな課題となっていました。このため、マイクロ波の過熱を低減できる銅メッキをMIケーブル表面全長にわたって精度よく均一に薄膜(5ミクロン±1ミクロン)めっきすることが求められていましたが、この技術は存在しませんでした。
そこで、量研、帝国イオン及び岡崎製作所は、共同で新たなめっき技術の開発に取り組みました。その結果、均一なめっき作業を可能とする回転式めっき装置を新たに開発するとともに、同装置を使った高精度のめっき厚み管理を実現し、イーターの要求性能を満足する高精度な銅めっきを実現しました。
この新しいめっき技術は核融合研究にとどまらず、医療分野などで利用される粒子加速器の導波管など、高精度なめっきが要求される幅広い分野への応用が期待できるため、特許出願を行い、2021年6月に特許を取得しました(特許第6893001号)。

研究開発の背景

核融合炉においては、数億度の超高温プラズマを生成することで核融合反応(燃焼)を起こし、その反応エネルギー(核融合エネルギー)を取出し発電します。現在は50万キロワットの核融合エネルギーの実現に向け、国際協力の下、フランスでイーターの建設が進められています。イーターは真空容器や超伝導コイル、加熱装置、計測装置など様々な機器及びシステムから構成されますが、その中で計測装置は、核融合燃焼プラズマの特性を測定するとともに、その値を使って燃焼制御を行う重要な役割を担っています。
日本が製作を担当するマイクロフィッションチェンバー計測装置は、イーターの核融合反応時に発生する中性子の総量を計測し、核融合出力を評価する重要な中性子計測装置です。その大きな特徴は、小型のフィッションチェンバー検出器(核分裂計数管)をイーター真空容器内に設置することです。核融合反応を起こす高温プラズマに近い位置に設置することで高精度の中性子計測が可能となります。一方、真空容器内は350℃という高温で且つ高い放射線線量にさらされる厳しい環境下にあるため、真空容器内に設置するマイクロフィッションチェンバー計測装置は当該環境に耐える必要があります。このための技術的な大きな課題は、マイクロフィッションチェンバー計測装置で用いる信号ケーブルでした。このため、耐放射線性に優れ、高温環境下(約350℃まで)でも利用できるMIケーブル(直径:6.6ミリメートル、表面の被覆材質:ステンレス鋼、長さ:約4メートルと約11メートルの2種類)を信号ケーブルとして採用すべく、その適用性について、これまで解析や試験を通じて実証してきました。
これに対し、設計活動が進むにつれ、マイクロフィッションチェンバー計測装置のような真空容器内機器は新たな熱負荷環境に対応する必要があることが判明しました。すなわちイーターでは、超高温プラズマを生成するため、マイクロ波を真空容器内に入射し、プラズマを加熱しますが、入射したマイクロ波の一部が真空容器自体や真空容器内機器を過熱する可能性があることが判明しました。この場合、MIケーブルも過熱され健全性が保てる温度(約350℃)を超え、1,000℃近くまで上昇し破損してしまいます。加えて高温プラズマが急速に消滅するディスラプションという現象が起きると、MIケーブルに電流が流れ、超伝導コイルで生成した磁場と作用し、MIケーブル自体に電磁力が加わり変形・破損する可能性があります。
この問題に対し、イーターでは、マイクロ波は金属表面(表皮厚みという)のみに高周波電流が流れ過熱すること、一方で、ディスラプション時の誘起電流は金属全体に流れる、との現象の違いを利用し、既存のMIケーブルのステンレス鋼表面に表皮厚み程度(約5ミクロン)の銅めっきを施すことで解決を図りました。これにより、ステンレス鋼に対し電気抵抗の低い銅では、マイクロ波による過熱を約1/8に低減できると共に、ディスラプション時の誘起電流は、MIケーブルの断面積の殆どをステンレス鋼が占めているため電気抵抗は従来のまま低く抑えることが可能になります。
一方、マイクロフィッションチェンバー計測装置で使用するMIケーブルは被覆がステンレス鋼で非常に硬い線材であり、曲げることが難しいだけでなく、何度も曲げ伸ばしを行った場合、塑性変形や破壊が生じる可能性があります。これまでこのような長いMIケーブルを製造時に曲げ伸ばししないで、表面に薄い銅めっきを均一に施す技術は存在しておりませんでした。このため、今回のイーターの要求を満足する銅めっきMIケーブルの製作技術の開発が急務でした。

MIケーブルの均一なめっきにおける課題

MIケーブルに対し、イーターが要求する厚さ(5ミクロン±1ミクロン)を満足するめっき技術が存在しなかったことから、量研は、高いめっき技術を有する帝国イオン及びMIケーブルの製作メーカーである岡崎製作所と共同で、2018年度から新たなめっき技術の開発に着手しました。

従来の線材へのめっき方法として、連続式めっき法の一種である「リールtoリールめっき」法3)があります。これは被めっき物である線材をリール(巻き取り治具)に巻き、引き出しながら前処理工程やめっき工程を連続的に通過させ、再び巻き取ってめっきを施す方法です。しかし、この方法は、MIケーブルのような硬い線材を適切に引き出し、改めて巻き取ることが出来ません。
また、もう一つのめっき法であるバッチ式めっき法(かごや治具に取り付けた材料を次々に移動させながら、一連のめっき作業(前処理、めっき、後処理)を進めていく方法)は、5ミクロンという非常に薄膜の膜厚の均一性に関して課題がありました。バッチ式ではめっき槽の端部に電気が流れやすいという傾向があるため、線材に対してバッチ処理を採用した場合、線材の両端部のめっき析出速度が速くなり、5ミクロンの薄膜の銅めっきを均一に実現するのが非常に困難です。
以上により、MIケーブルのような非常に硬い線材に対し、全長にわたって均一な厚さ(5ミクロン±1ミクロン)のめっきを達成することは、従来のめっき法では不可能とされていました。

高精度なめっきを実現するためのめっき装置の開発

これら課題を解決するため、量研、帝国イオン及び岡崎製作所は、新たに図1に示すような回転式のめっき装置を開発しました。保管・輸送時と同じ輪巻き形状(同じ曲率)でMIケーブルのめっきを施すため、形状を変える必要がなく、また、めっき槽の小型化をも実現しています。また、当該装置を採用することにより、MIケーブルを螺旋状に巻く方式を採用できるため、1 メートル程度からどのような長さのMIケーブルでも、めっきを施すことが可能となりました。さらに、回転方式、給電方法、極間距離の差異抑制方式、めっき液循環方式等に独自の工夫を取り入れためっき方法を組み合わせることにより、MIケーブルの円周方向、及び全長にわたって偏りがなく、均一なめっきを施すことに成功しました。

図1 新たに開発したケーブル用めっき装置の概略

めっき方法の発明

(1) 全長にわたりめっきの析出速度の均一化を実現
めっきの析出速度は電流密度により変化しますが、電極間距離(陰極をつないだ被めっき物と陽極間の距離)が近いほど電流密度が高く、遠いほど低くなる傾向にあります。換言すれば、電極間距離の遠近が発生すると析出速度が変化するため、均一なめっき皮膜を得るためには、電極間距離の偏りを極力少なくし、析出速度を一定にすることが必要です。
めっき装置内にMIケーブルを巻きつけた際、真円の状態であれば極間距離が一定なので膜厚のばらつきは発生しませんが、実際にはどうしても数センチメートル程度のズレが径方向に発生するため、同じ位置で装置を回転させるだけではめっき膜厚の偏りが生じます。本課題を解決するため、
1)回転の中心位置
2)陽極の位置
3)回転速度
の3つのパラメータを変化させることで電極間距離の偏りを最小限に抑え、均一な膜厚のめっきを可能としました。事実、この3つのパラメータのいずれかが一定であれば、周期ごとにMIケーブルの同じ箇所に極間距離の偏りが生じ要求値を達成することができませんが、今回発明しためっき方法の大きな特徴は、一度に全てのパラメータを変化させることができる仕組みを取り入れたことです。

(2) 均一な膜厚を実現する陰極と線材の接点条件の最適化に成功
めっきを施す際、MIケーブルに電気を通すために陰極との接点を有することが必要ですが、接点部分のめっき膜厚が他の箇所より薄くなることが問題でした。この問題への対処として、図1のめっき治具の外周部に接点位置を円周方向に往復移動させる機構を施しました。また、陰極側の接点部を曲面に加工することにより、陰極とケーブルの接点が点接触になり、接点の面積を極小化する工夫も加えました。これらにより、接点部分のめっき膜厚を他の箇所と均一にすることに成功し、さらには接点を移動させる工程をめっき液中で行う工夫により、一旦めっき液から出して接点を移動させる必要がなくなり、空気に触れることによって発生するめっき不良(めっきしたケーブル表面の酸化及びめっき皮膜の密着不良)の要因を解消しました。

(3) 回転方式及び循環ポンプを採用することで、高い皮膜品質も同時に実現
(1)の回転式めっき法の採用に加え、(2)の接点位置の往復移動を加えることにより、バッチ式のめっき法では難しかった攪拌によるめっき液中の銅イオンを均一化させることに成功しました。また、循環ポンプを用いてめっき液を循環させることにより、より効率的に均一化させ、従来よりも高い皮膜品質のめっきを実現可能としました。

高精度めっきの実証

今回、帝国イオンにおいて、新たに開発しためっき装置や必要となる治具等を用い、また、同時に発明しためっき方法を適用することにより、めっきの実証試験を実施しました。
直径5ミリメートルで長さの異なる(長さ1メートルと15メートル)MIケーブルについて、ケーブルが設置されためっき治具をインバータ制御の電気モータにより回転数を変化させ、10~30回転/分にて、めっき処理を行いました。めっき処理中は装置の揺動機構によって陰極側となるめっき治具の回転の中心位置を30~50 ミリメートルの範囲で往復させると同時に、陽極側も約50ミリメートルの範囲で移動させました。めっき処理中に3つのパラメータ(前述の(1)〜(3))を変化させることで電極間距離の偏りを抑制し、また、循環ポンプを稼働してメッキ液の均一化を図ることで、めっき膜厚の均一化と皮膜品質の改善を試みました。
図2にめっき完了時の写真、図3にケーブルのめっき膜厚の測定結果を示します。図3の左側はケーブル断面の模式図であり、A~Dは膜厚測定箇所です。右側の表は各測定箇所のめっき膜厚の結果を示したものです。A~Dのいずれの箇所でも膜厚は5ミクロン±1ミクロンの範囲に収まっており、イーターの要求値を満たす高精度銅めっきを実現することに成功しました。
外観においても、めっき中にケーブルを動かし、めっき液を攪拌することで、めっき液が均一となり、図4のようにボイド等の欠陥がない高品質な銅めっきを実現しました。

実機相当のMIケーブルを用いた実証試験時の様子

図2 実機相当のMIケーブルを用いた実証試験時の様子

めっき後のMIケーブルの銅めっき膜厚

図3 めっき後のMIケーブルの銅めっき膜厚

銅めっき後のMIケーブルの表面拡大写真

図4 銅めっき後のMIケーブルの表面拡大写真

特許の取得

今回、新たにめっき装置及びめっき方法を開発したことにより、これまで不可能とされていた、硬い線材に対し、全長にわたって高精度(膜厚が均一)かつ高品質(ボイドなどの欠陥のない綺麗な表面状態)なめっきを施すことが可能となりました。本技術は、医療分野などで利用される粒子加速器の入射部品など、高精度のめっき厚が要求される分野にも適用可能であり、幅広い分野への波及効果が期待できます。量研は、帝国イオン及び岡崎製作所とともに、同技術に対する特許出願を行い、2021年6月に特許を取得しました(特許第6893001号)。

今後の予定

今回開発しためっき技術を適用することにより、量研は、2021年度にイーター機構に納入するマイクロフィッションチェンバー計測装置のMIケーブルの実機8本及びステンレス製の排気管4本の銅めっきを実施しました。これらは量研がイーター機構に輸送する最初の計測装置構成機器であり、2022年7月末までに納入予定です。

用語解説

1) 核融合実験炉イーター
我が国は、世界7極35か国の国際協力により、実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画を推進しています。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が進められているとともに、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。

イーター計画に関するホームページ https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/ (日本語)
イーター機構のホームページ https://www.iter.org/(英語)

イーター画像

3) マイクロフィッションチェンバー中性子計測装置
イーターのマイクロフィッションチェンバー中性子計測装置は、イーターのプラズマから発生する中性子の総量を計測し、それを基に核融合出力を評価することを目的とする中性子計測装置であり、量研は、2012年4月にイーター機構との間で調達取決めを締結して、実機の調達活動を進めています。小型の核分裂計数管であるマイクロフィッションチェンバー(MFC)検出器は非常に小型(直径約14 ミリメートル、長さ約200ミリメートル)の中性子検出器であるため、設置空間が限られた場所でも設置できるという利点があり、真空容器内でプラズマに近い位置に設置することで、精度の良い計測が行えることが大きな特長です。イーターでは、MFC検出器をイーターの真空容器の中の四か所(真空容器外側内面の上側及び下側の二か所と、異なるトロイダル断面の同じ位置の二か所)に設置し、検出器からの信号を、二重の被覆を持ったMIケーブル(皮膜がステンレス鋼であり、無機物である二酸化ケイ素で絶縁した金属製のケーブルで、高温、高放射線環境下でも使用可能なケーブル、外径6.6ミリメートル、長さ約4mと約11メートル)を使用し、真空導入端子を介して信号を真空容器外に伝送した後、信号ケーブルや増幅器等を通してデータ収集装置に伝送することで、計測を実施する装置です。量研では、構成機器を段階的にイーター機構に輸送する計画で調達活動を進めており、最初の輸送機器として、MIケーブル、中性子検出器に封入しているイオン化ガスの漏洩を防ぐための排気管及びケーブル固定用クランプを2022年7月末までに輸送します。

マイクロフィッションチェンバー計測装置 の真空容器内機器の概要

マイクロフィッションチェンバー計測装置の真空容器内機器の概要

4) リールtoリールめっき
長い帯形状の被めっき材に連続でめっきする連続式めっき法の一種です。リールに巻いた被めっき材を、引き出しながら、一連のめっき工程を連続的に実施し、再びリールに巻き取ってめっきを完成させます。同様の方式として、被めっき材をロール状に巻いた状態からめっきを行う、「ロール toロールめっき」等があります。これらの連続式めっき方法は、それぞれのめっき処理を個々に行うバッチ式めっき方法とは異なり、必要なめっき処理を一貫工程で実施できるため、ばらつきの少ない均一な厚さのめっきを実現することができることが大きな特徴です。一方で、被めっき材に一定の長さがないと適用できません。

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