小規模な木質バイオマスエネルギー利用の採算性を評価するツールを開発~循環型社会の実現に向けて~

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2022-04-07 森林研究・整備機構 森林総合研究所,北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場

ポイント

  • ツールの利用者は、木質バイオマス(林地残材や製材工場の残材等)を用いた小型ガス化熱電併給(CHP)事業やバイオマスボイラー熱供給事業の採算性を評価できます。
  • 原料の種類・消費量・購入単価、熱利用の条件、設備導入費、発電効率などを入力することにより事業の採算性を評価できます。
  • 地域の原料・熱利用事情に合わせた、小中規模の事業検討などに活用いただけます。

概要

国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構森林総合研究所は、地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場(以下、道総研林産試)と共同で、「小型ガス化熱電併給事業採算性評価ツール(以下、ガス化CHP評価ツール)」および「熱供給バイオマスボイラー経済性評価ツール(以下、バイオマスボイラー評価ツール)」を開発しました。
2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)*1が始まり、未利用の林地残材や間伐材等を燃料とする発電所が多数稼働しています。これらのほとんどは、発電のみを行うものであり、エネルギー利用効率(発電効率)は25%前後にとどまっています。それに対し、工場や宿泊施設等の加熱・給湯や暖房にバイオマスを用いた熱供給事業の効率は80%を超えます。また、電力と同時に熱も利用する熱電併給事業*2を行えば、エネルギー利用効率を高めると同時に採算性も高めることができます。そこで、森林総合研究所と道総研林産試は共同で、蒸気タービンを用いた熱電併給事業の採算性評価ツール(以下、CHP評価ツール)を開発し、平成29年12月より無償公開を始めました。しかし、1000kW未満のガス化熱電併給装置*3等を用いた発電事業や、バイオマスボイラーを用いた熱供給事業の評価には対応していませんでした。そこで、小中規模のガス化熱電併給装置を用いた熱電併給事業を評価する「ガス化CHP評価ツール」と、チップ等を用いた熱供給事業の採算性を簡便に評価する「バイオマスボイラー評価ツール」を共同で、開発しました。導入コストや発電効率、原料の条件、熱の利用条件などを様々に変えることによって、各地域の原料・熱利用事情に合わせた、小規模な熱電併給事業や熱供給事業の検討に活用されることが期待されます。

背景

2012年7月に始まったFITでは、木質バイオマス発電による電力が固定価格買い取りの対象となり、間伐材等の未利用材を燃料とする木質バイオマス発電施設が全国各地で稼働を始めています。ただし、ほとんどの施設は発電だけを行っているため、熱効率(発電効率)は25%前後と低くなっています。これに対して、電力と熱を同時に利用する熱電併給はエネルギー利用効率が高いことから、小規模でも経済性を高めることができ、農山村地域のエネルギー自給向上につながると考えられます。FITにおいても、発電出力2000 kW未満の施設からの電力買い取り価格が引き上げられ、各地でガス化熱電併給事業が普及しつつあります。しかし、その採算性を評価するツールがないため、事業の採算性に関する事前検討を円滑に行えない状況にありました。同様に、熱効率や経済性が高く、さらなる利用拡大が期待されている熱供給事業についても、採算性を評価するツールがない状況でした。

内容

これまで、蒸気タービンを用いた熱電併給事業の採算性評価については、発電出力や熱利用量、チップの購入単価等を入力することによって簡便に評価できるCHP評価ツールを道総研林産試と共同で開発し、無償配布してきました。このツールは、大型の蒸気タービン方式を念頭に置いていたため、導入が進みつつある小型のガス化熱電併給事業や、バイオマスボイラーを用いた熱供給事業の評価に対応させる必要がありました。そこで今回、実際に稼働している施設の調査を行い、採算性評価に必要な項目を追加して、こうした事業の採算性を評価するための「ガス化CHP評価ツール」と「バイオマスボイラー評価ツール」を開発しました。ガス化CHP設備は、燃料(チップまたはペレット)、メーカーによって発電効率や設備費が異なるため、発電出力・効率、熱出力、導入台数、設備費を手入力する必要があります。これに、燃料の単価や含水率等の条件を入力すると採算性を評価することができます。また、入力項目には初期値が入力されていますが、ユーザーが任意の値に変更して、想定する発電事業を詳細に検討することができます。
なお、2つのツールは、以下の手順にて無償配布しております。
1)下記のホームページから、アンケート用のワードファイルを入手していただき、
https://www.ffpri.affrc.go.jp/database/evaluationtool/index.html
2)アンケートにお答えの上、gaschp@ffpri.affrc.go.jpにファイル添付等で送付いただきますと、プログラムファイルとマニュアルをメール配信いたします。

想定する発電所の条件を入力し、結果が自動計算されるまでの流れを示した図
【小型ガス化熱電併給事業採算性評価ツールの画⾯】
ユーザーが想定する熱電併給事業の条件を入力し事業採算性等の大まかな評価を行うことができます。

今後の展開

本ツールは、小中規模の木質バイオマスエネルギー事業を検討されている事業者や自治体の意思決定に資する情報を提供します。既存の木質バイオマスエネルギー事業においても、燃料の種類の変更や価格上昇、FIT期間20年間終了後の売電価格の変動などによる影響を評価できます。

論文

タイトル:不確実性を考慮した乾燥木質チップを燃料とする小規模ガス化熱電併給事業の経済性評価
著者:柳田高志、古俣寛隆、久保山裕史
掲載誌:木材工業、76(5)、170-177、2021.05

タイトル:木質ペレットを用いた熱分解ガス化による熱電併給事業の採算性評価 ―不確実性を考慮した北海道における事例研究―
著者:古俣寛隆、前川洋平、山田敦、石川佳生、柳田高志、久保山裕史、吉田貴紘
掲載誌:日本エネルギー学会誌、101(2)、24-35、2022.02
DOI:10.3775/jie.101.24

用語解説

*1 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff、FIT)
再生可能エネルギーによる発電は、石炭やガス火力発電と比較してコストが高く、このことが普及の妨げの一因となっています。これに対して国は、再生可能エネルギーで発電した電気を、採算のとれる価格で電力会社が一定期間買い取り、その費用を電気の利用者から賦課金という形で集めるというしくみを導入しました。新規の事業者は、長期に渡って収入の予測ができ、事業計画が立てやすくなったため、再生可能エネルギーの供給が拡大しています。

*2 熱電併給事業
電気だけでなく熱も有効活用できる発電施設を用いた事業です。発電だけを行う場合の排熱は、利用しづらい低温水となって出てくるため、冷却塔を用いて大気中に捨てており、熱効率は25%前後にとどまります。これに対して、熱電併給プラントでは、大気圧(0.1MPa、約1気圧)以上の蒸気をタービンの途中から抜き取るので、発電量はその分低下しますが、蒸気をクリーニング工場や木材乾燥に利用する、あるいは熱交換によって温水を利用するなどして、熱効率を80%前後に高めることも可能です。

*3 ガス化熱電併給装置
ガス化システムは、木質バイオマス燃料(チップまたはペレット)を、低酸素下で蒸し焼きの状態にして可燃性ガスを取り出し、それによってガスエンジンを動かすことで発電し、排ガスやエンジンの廃熱を温水利用するシステムです。

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 林業経営・政策研究領域 領域長 久保山裕史
地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場 利用部 資源・システムG 古俣寛隆

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
林産試験場 企業支援部 普及連携グループ

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