2022-04-05 東北大学,科学技術振興機構,丸文財団
ポイント
- 量子ビットとして使われる固体中のスピン中心の性能を決める位相緩和時間(量子情報を保持可能な時間、T2)を支配する「一般化スケーリング則」を発見した。これにより、実用材料中のスピンの量子状態に関する、半世紀にわたる未解決問題の解決に成功した
- 従来は複雑・大規模な計算により、1つの材料につき最大数日を要したT2予測計算が、関数電卓などのありふれたツールで瞬時に実行可能になった
- 12,000種を超える候補材料についてT2を調べ、量子ビットの性能を向上することが予測される700種以上の新しい量子材料を予測した
- 「ニューノーマル」の時代および「Society 5.0」での活躍が期待される、従来技術では困難な問題解決を開く量子コンピューターなどの量子デバイス材料研究を加速
固体中のスピン中心は、量子ビットを構成する物理系の1つで、量子テレポーテーションなどが実証された他、一部が室温動作可能であるという特長により大きく注目されています。
東北大学 電気通信研究所の金井 駿 助教と大野 英男 教授(現 総長)は、シカゴ大学およびアルゴンヌ研究所(米国)のDavid D.Awschalom 教授を中心とする研究グループとの共同研究により、固体中のスピン中心の量子ビットとしての性能を決める、位相緩和時間(T2)を支配する「一般化スケーリング則」を発見しました。これにより、『実材料のT2を記述することはできるか』という量子スピン物理研究50年来の問題を解決すると同時に、12,000種を超える材料のT2予測に本発見を応用することで、新たな量子ビット材料の大規模かつ定量的な材料探索を行いました。本研究成果は、次世代の量子材料研究、新奇量子物性の探索に関する研究を基礎・応用の両面から大きく加速させるものです。
本成果は、2022年4月4日付で米国の科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」で公開されました。
本研究の一部は、丸文財団 交流研究助成、電気通信研究所 若手教員海外派遣プログラム、文部科学省 研究大学強化促進事業、日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究強化(B)19KK0130、基盤研究(B)20H02178、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「不確定性スピントロニクスデバイス」(研究代表者:金井 駿)JPMJPR21B2などの支援を受けて行われたものです。
<論文タイトル>
- “Generalized scaling of spin qubit coherence in over 12,000 host materials”
- DOI:10.1073/pnas.2121808119
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
金井 駿(カナイ シュン)
東北大学 電気通信研究所 助教
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東北大学 電気通信研究所 総務係
科学技術振興機構 広報課