建物を考慮した詳細な放射性物質の拡散計算に基づく線量評価を初めて実現

ad
ad

局所域高分解能大気拡散・線量評価システム「LHADDAS」を開発

2022-03-05 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 原子力施設の運転時や事故時、あるいは都市域での放射性物質拡散テロへの対応における影響評価では、放射性物質の大気放出に対する放出点近くでの建物の影響を考慮した大気拡散計算と線量評価が必要となります。しかし、これまでの放射性物質の大気拡散・線量評価システム(原子力機構のSPEEDI、WSPEEDI1)など)では、このような詳細な大気拡散計算と建物による遮蔽を3次元で考慮した線量評価はできませんでした。
  • そこで、個々の建物の影響を受けた風の流れを考慮した高分解能大気拡散計算(LOHDIM-LES)と建物の遮蔽効果を考慮した線量率評価(SIBYL)および都市大気拡散の高速計算が可能な計算コード(CityLBM)を統合した局所域高分解能大気拡散・線量評価システム「LHADDAS」を開発し、無償公開します。
  • 本解析システムは、原子力施設の安全審査における風洞実験2)に代わる現実的な評価、原子力事故時の施設内外作業員の被ばく線量評価、都市域での放射性物質拡散テロ対応など、幅広い活用が期待されます。

建物を考慮した詳細な放射性物質の拡散計算に基づく線量評価を初めて実現

図1 局所域高分解能大気拡散・線量評価システムLHADDASの概念図

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)原子力基礎工学研究センターの中山浩成研究副主幹、佐藤大樹研究主幹、システム計算科学センターの小野寺直幸研究副主幹らは、個々の建物の影響を考慮して詳細に大気拡散および線量評価ができる局所域高分解能大気拡散・線量評価システム「LHADDAS(ラーダス)」を開発しました。

「LHADDAS」は、放出点から数km以内の局所域スケールでの放射性物質の複雑な大気濃度分布および沈着分布を計算するとともに、それらからの放射線について建物による遮蔽効果を考慮して詳細に線量評価ができます。

これまでの放射性物質の大気拡散予測システム(原子力機構のSPEEDI、WSPEEDI1)など)は、原子力施設からの放射性物質の放出に対する広域スケールの環境への影響や住民の被ばく線量評価を目的としています。そのため、100㎞~数千㎞程度の範囲を評価対象として、数百m~数km程度の粗い計算格子で分割して地表面形状を考慮した風の流れを再現して拡散計算を行います。しかし、原子力施設内や都市域の建物の影響を受けた複雑な風の流れを再現できず、それらを反映した大気拡散計算による複雑な放射性物質分布や建物遮蔽を考慮した詳細な線量評価が行えませんでした。

そこで、高分解能計算格子により個々の建物の影響を考慮し複雑な気流を再現可能な乱流モデルを導入して開発した大気拡散計算コード(LOHDIM-LES)と、建物の遮蔽効果を考慮した3次元体系で放射線の挙動を計算する手法による線量率評価コード(SIBYL)を組み合わせた計算コードを開発しました。そして、風洞実験2)や野外拡散実験による多様な地形・建物・気象条件のデータを用いて大気拡散計算の予測精度を検証するとともに、放射線モニタリングの実測データを用いて線量率計算の妥当性を確認することで、様々な事象へ適用可能な高い予測性能を実証しました。さらに、都市市街地内で放出されたガスの大気拡散を短時間で計算可能な都市大気拡散高速計算コード(CityLBM)を導入し、局所域大気拡散の様々な課題に対応可能な解析システム「LHADDAS」を開発しました。

「LHADDAS」は、原子力施設の安全審査における線量評価について、これまで用いられてきた風洞実験では困難な実際の気象条件を取り込んだより現実的な評価手法としての利用が期待されます。また、事前・事後詳細解析により、原子力事故時の施設内外作業員の被ばく線量評価、都市域での放射性物質拡散テロに対する汚染状況の把握と住民および対応要員の被ばく線量評価が可能です。さらに、即時解析による都市大気拡散テロ時での迅速な拡散計算結果の情報提供も可能です。

「LHADDAS」の解析コードは、令和4年3月4日より無償公開します。また、本解析コードの詳細は、3月4日に日本原子力学会誌「Journal of Nuclear Science and Technology」にオンライン掲載されました。

【研究開発の背景】

原子力施設の運転時や事故時、あるいは都市域におけるテロ等により放射性物質が大気放出された場合の放出源近傍における影響評価においては、個々の建物や構造物によって引き起こされる複雑な風の流れを想定した放射性物質の大気拡散シミュレーションが必要となります。また、空間線量率3)を評価する際には、放射性物質の不均一な濃度分布および沈着分布を放射線源とし、建物による遮蔽効果を考慮した3次元放射線輸送計算を行う必要があります。一方、従来の放射性物質の大気拡散予測システム(原子力機構が開発したSPEEDI、WSPEEDIなど)では、このような詳細な大気拡散および放射線輸送過程を考慮することはできませんでした。これは、原子力施設からの放射性物質の放出に対する広域スケールの環境への影響や住民の被ばく線量評価を迅速に行うことを目的としているため、予測精度と計算コストの兼ね合いから、数十から数千kmの範囲を評価対象として、数百m~数km程度の粗い計算格子で分割することが最適な計算条件であったためです。

近年、原子力事故時における放射性物質の大気放出に対する原子力施設内作業員の被ばく線量評価や、都市域での放射性物質拡散テロに対する汚染状況の把握と住民および対応要員の被ばく線量評価の必要性が認識されてきました。また、原子力施設の建設時には、施設周辺を対象とした風洞実験を実施して、地形と建物の影響を考慮した拡散解析による安全審査を実施しています。原子力施設の安全審査については、風洞実験に要する労力と時間を削減するとともに、風洞実験では考慮できない実際の気象条件を取り込んだより現実的な拡散評価が求められており、大気拡散計算コードの高度化と活用が期待されています。さらに、迅速な計算結果の提供が要求される都市市街地拡散テロ時などに適用していくためには、短時間で計算が可能な大気拡散の計算コードが必要になります。これらに対応するためには、建物を表現できる数m程度の高分解能計算格子で、建物近傍で問題となる複雑な風の流れ、すなわち、乱流をシミュレーションし、その結果に基づく詳細な線量評価を実施可能な計算コードおよび都市大気拡散を即時解析できる計算コードを統合して、局所域大気拡散の様々な課題に対応可能な解析システムが不可欠です。

【研究開発の内容と成果】

そこで、個々の建物の影響を考慮した高分解能大気拡散計算と建物の遮蔽効果を考慮した線量評価および都市大気拡散の高速計算が可能な、局所域高分解能大気拡散・線量評価システム「LHADDAS」(Local-scale High-resolution Atmospheric Dispersion and Dose Assessment System)を開発しました(図1)。

このシステムは、①局所域高分解能大気拡散計算コードLOHDIM-LES(Local-scale High-resolution Atmospheric Dispersion Model using Large-Eddy Simulation)、②都市大気拡散高速計算コードCityLBM(Real-time dispersion simulation model based on a lattice Boltzmann method)、③迅速詳細線量率評価コードSIBYL(SImulation code powered BY Lattice dose-response functions)、および④計算に必要となるデータベースと入力作成プログラムの4つから構成されています。

①局所域高分解能大気拡散計算コードLOHDIM-LES

個々の建物を精緻に解像できる高分解能計算格子を用い、非定常乱流解析に優れたLES (Large-Eddy Simulation)乱流モデル4)を導入して開発した大気拡散計算コードです。LESを用いることで、従来のSPEEDIやWSPEEDIの気象モデルの限界により再現することができなかった建物周りの複雑な風の流れを再現できるようにしました。一方、LESは局所域の高分解能計算を対象とし、広域の地形や気象条件を考慮することができないため、広域の地形と気象条件の影響を受けた風の流れを境界条件として与える必要があります。そのため、まず、風洞実験と同様に計算領域の上流側に乱流生成領域を設けて境界層乱流を作り、地表面に障害物を適宜配置させることで任意の気流・乱流場の生成が行える風洞気流場再現手法を開発しました(図2a)。この計算コードにより平坦地形、丘陵地上、単独建物周り、複数の建屋配置、さらに実在都市域のビル群を対象とした大気拡散計算を行いました。流れの衝突・剥離・循環が生じる複雑乱流場での大気拡散挙動について、風洞実験と同等に拡散事象を再現する性能を有するとともに、風洞実験では得ることができない詳細な拡散挙動の解明にも利用可能であることを実証しました。

図2 LOHDIM-LESへの気象データ入力手法(例:気象シミュレーションモデルとの結合)

②都市大気拡散高速計算コードCityLBM

有限個の方向を持つ速度分布関数の時間発展方程式を解くことで流体運動を記述する手法である格子ボルツマン法を導入して開発された大気拡散計算コードです。低消費電力かつ高演算性能の画像処理プロセッサ(GPU)を搭載した最先端のスーパーコンピュータ向けに開発され、都市市街地内でのガス大気拡散に特化した高速計算コードです。1台のGPUには数千台の演算器が搭載されており、従来の汎用演算器であるCPUと比較して演算性能が数倍以上となるため、計算時間を大幅に短縮できます。なお、CityLBMの詳細については、令和3年1月28日のプレス発表にて紹介されています。

③迅速詳細線量率評価コードSIBYL

①のLOHDIM-LESによる大気拡散計算による3次元計算格子の放射能量を入力として、事前計算により整備された放射性核種による線量寄与に関する応答関数データベース(④に記載)を用いることで、評価点の線量率を即座に得ることができる計算コードです。図3に示すように、複雑な大気中濃度分布と沈着分布に対しても、計算格子ごとに異なる濃度の放射性核種からの線量率の寄与を計算し、全計算格子からの線量率の総和をとることで、地上の評価点における線量率を算出することができます。また、建物による遮蔽効果については、放射線の放出地点と線量率評価地点の経路上に存在する建物を探索し、その建物を通過する距離に応じた放射線の減衰を各計算格子からの線量率に対して適用しています。

図3 応答関数データベースを用いた線量率計算の概念図

④データベースと入力作成プログラム

「LHADDAS」には、線量評価に用いる応答関数データベース、気象データや地理情報データから計算格子と入力条件を作成するプログラムなど、計算を支援する機能が含まれています。これらのうち応答関数データベースは、放射線挙動解析コードPHITS(Particle and Heavy-Ion Transport code System)5)を用いて、直達成分や散乱成分を考慮して詳細な3次元放射線輸送計算を実施して作成しました。応答関数は、放射性核種ごとに、ある高度の単位体積(1m3)中の単位放射能濃度(1Bq/m3)または地表面の単位面積(1m2)中の単位沈着密度(1Bq/m2)から地上高1mの評価点が受ける線量率寄与に換算するもので、放出点と評価点の水平距離に対する関数として定義しています。データベース第1版として、9種類の放射性核種(134Cs、 136Cs、 137Cs、131I、 132I、133I、 132Te、85Kr、133Xe)に関するデータを整備しました。

【現実気象条件での都市市街地を対象にした拡散計算】

LOHDIM-LESを、風洞実験では考慮できない現実的な気象条件下でも詳細に大気拡散予測が行える計算コードに発展させるために、広域スケールの気象状況を再現できる気象モデルの計算結果または気象観測データを用いて、風向風速および気温の変動を導入する手法を開発しました(図2b)。そして、2003年に米国オクラホマシティーで実施された野外拡散実験を対象とする試験計算を実施しました。図4に示すように、点源放出されたガスは、都市市街地内の幹線道路上を高濃度の状態を保ちながら風下に運ばれ、ビル群内にも複雑に拡散が及んでいく様子を明瞭に捉えています。気象モデルおよび気象観測と結合したLOHDIM-LESによる大気中平均濃度の計算値は、測定値の0.5倍から2倍の範囲内に収まる割合(FAC2)がそれぞれ42%、30%程度の再現精度であることが示されました(図5)。また、気象モデルを用いた計算手法をCityLBMに導入し、試験計算を実施した結果、FAC2は33%でした。予測性能の評価指標において、FAC2は30%以上が推奨値とされていることから、LOHDIM-LESおよびCityLBMともに、測定結果を良好に再現することを確認しました。さらに、CityLBMの高速計算技術を活用し、放出地点付近にある植生キャノピーの配置形態を航空写真から推定して、計算パラメータとして考慮した多数ケースの計算を実施しました。計算結果の比較解析によリ、FAC2が最大で79%となりました(図6)。このように、CityLBMは測定値との誤差を調べる要因解析にも利用可能であることを実証しました。

これらの計算を実行する際、LOHDIM-LESではシングルコア2.4 GHz Intel CPUのパソコンで計算時間は1週間程度かかりましたが、CityLBMでは原子力機構の有しているGPUスーパーコンピュータDGX-2の1ノード(16台のGPU)を用いて実時間より速い計算を実現させています。以上により、本計算コードは、時々刻々変化する気象条件および個々の建物の影響を同時に考慮した詳細大気拡散予測や、GPUを搭載した最先端のスーパーコンピュータと高速計算コードの組み合わせによる即時拡散解析を実証しました。

図4 LOHDIM-LESおよびCityLBMによる市街地ビル群内の拡散の様子

図5 LOHDIM-LESおよびCityLBMによる平均濃度の測定値との比較
(図において、黒線は観測値との一致を示し、2つの破線は観測値との差異がそれぞれ0.5倍および2倍となり、FAC2はこの範囲に計算結果が収まる割合を示す。)

図6 CityLBMによる植生キャノピーを考慮した場合の平均濃度の測定値との比較

【原子力施設を対象にした拡散・線量計算】

開発した「LHADDAS」による大気拡散計算と線量率評価について、青森県六ヶ所村の再処理工場で2006年から2008年に実施された試験運転の際のモニタリングデータを活用して総合的試験を行いました。試験運転の際に管理放出された放射性希ガス(85Kr)について、敷地内のモニタリングポストで大気中濃度と空間線量率が測定されています。「LHADDAS」により、この測定データの再現計算を行いました。

まず、「LHADDAS」の大気拡散計算コードLOHDIM-LESにより、再処理工場の排気筒から放出された85Krの大気拡散計算を行いました。この計算では、細密地理情報を用いて標高・建物・樹木分布を5 mの高分解能計算格子により精緻に解像しました。図7に計算による85Krの大気中濃度分布を示します。

図7 六ヶ所再処理工場から放出された放射性核種の大気拡散シミュレーション結果
放射性核種の大気中3次元濃度分布は、検出できない濃度レベルまで示しており、放射線影響が想定される範囲ではありません。濃度が高い再処理工場敷地内においても、空間線量率の上昇は、自然放射線による空間線量率の変動の範囲内になっています。


次に、線量評価コードSIBYLを用いて、LOHDIM-LESによる85Kr の3次元濃度分布から建物遮蔽効果を考慮して線量率評価を行いました。図8に示すように、敷地内のモニタリングポストでの空間線量率の測定値を、計算により良好に再現することに成功しました。これにより、現実の事象に対する「LHADDAS」の大気拡散および線量率評価の性能を実証しました。

図8 六ケ所再処理工場敷地内のモニタリングポストの空間線量率の計算値と測定値の比較

【成果の活用方法】

今回開発した「LHADDAS」は、局所域大気拡散の様々な課題に対し適切に計算コードを使い分け、もしくは組み合わせて使うことで、以下の有効な活用方法が考えられます。

(1)原子力施設の安全審査における風洞実験に代わる現実的な評価手法

「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」では、風洞実験の実施により、地形や建屋の影響を考慮した放出源の有効高さを求め、簡易大気拡散式6)により拡散状態を推定しています。しかし、風洞実験は、労力、費用、時間に多大なコストがかかるとともに、実際の気象条件を取り込んだより現実的な拡散評価が困難なことから、計算シミュレーションによる合理化と改善が求められています。今後、風洞実験と同等の再現実績を有するLOHDIM-LESが実験技術に代わるより現実的な評価手法として活用されることが期待できます。

(2)原子力事故時の施設内外作業員の被ばく線量評価

「実用発電用原子炉に係る重大事故時の制御室および緊急時対策所の居住性に係る被ばく評価に関する審査ガイド」では、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所事故と同等の放射性物質の放出に対して、原子炉制御室、緊急時制御室および緊急時対策所での運転員および対策要員の実効線量が、7日間で100 mSvを超えないように定められています。しかしながら、大気中に放出された放射性物質からの被ばく線量評価において、拡散状態の推定に簡易大気拡散式を用いているために、原子炉建屋の影響を受けた非一様性の強い濃度分布および沈着分布を表現することができません。簡易大気拡散式に代わりLOHDIM-LESを活用することで、一人あたりの被ばく経路ごとの実効線量の詳細な評価が可能となり、対策立案などに役立てられます。

(3)都市域での放射性物質拡散テロに対する汚染状況把握と被ばく線量評価

都市域で放射性物質拡散テロが発生した場合、様々な形状の建物が密集して立ち並ぶ空間での複雑な大気拡散により、放射性物質の空気中濃度や都市建築物への沈着は極めて非一様な分布となります。そのため、LOHDIM-LESとSIBYLの組み合わせによる建物配置形態を精緻に解像した拡散・線量計算は、拡散テロ災害対策の事前検討や事後詳細解析に役立てられます。また、拡散災害時における即時評価においては、CityLBMを用いた迅速な拡散計算結果の情報提供が有効です。

(4)簡易拡散計算コードの検証およびチューニングのための参照データ提供

本解析システムは、現状では多大な計算時間を要するため、原子力緊急時において即時対応のための予測計算を行うことはできませんが、即時対応用の迅速大気拡散計算コード開発に活用可能です。このような大気拡散計算コードの開発においては、性能検証のために風洞実験や野外拡散実験のデータが用いられます。LOHDIM-LESは、風洞実験と同等以上の性能を有するとともに、現実の拡散事象を再現できることを実証しています。そのため、本解析システムにより拡散事象を厳密に再現した解析データは、緊急時における即時対応用の簡易拡散計算コードの性能検証やパラメータのチューニングのための風洞実験や野外拡散実験に代わる参照データとして活用できます。また、CityLBMは、放出点付近にある建物だけでなく樹木等の植生の存在も、計算パラメータとして新たに考慮することで、地表面近傍の風況に大きく影響を及ぼすことを明らかにしました。計算時間の大幅な短縮により多数の計算を一度に実行することも容易なことから、計算精度に関わる要因解析に用いることもできます。

【今後の予定】

「LHADDAS」を活用し、上記のような様々な大気拡散事象の課題解決に貢献するとともに、グラフィカルユーザーインターフェイスや解析結果の可視化機能など、システムの利便性を向上する機能開発を行います。また、新たな研究開発として、原子力施設からの放射性物質の大気放出に対して、原子力サイト内の詳細な拡散解析と放射線計測データの融合解析により、放射性物質の分布と放出量、あるいは汚染状況を逆推定する手法の開発を進めます。これにより、原子力事故時の放射性物質の漏洩や原子力施設の解体時の放射性物質の飛散の監視と環境影響評価への活用を目指しています。

【論文情報】

タイトル:Development of local-scale high-resolution atmospheric dispersion and dose assessment system

雑誌名:Journal of Nuclear Science and Technology

URL: https://doi.org/10.1080/00223131.2022.2038302

著者:中山浩成1、小野寺直幸1、佐藤大樹1、永井晴康1、長谷川雄太1、井戸村泰宏1

所属:1日本原子力研究開発機構

タイトル:Development of Local-Scale High-Resolution Atmospheric Dispersion Model using Large-Eddy Simulation Part 6: Introduction of detailed dose calculation method

雑誌名:Journal of Nuclear Science and Technology

URL: https://doi.org/10.1080/00223131.2021.1894256

著者:中山浩成1、佐藤大樹1、永井晴康1、寺田宏明1

所属:1日本原子力研究開発機構

タイトル:Real-Time Tracer Dispersion Simulations in Oklahoma City Using the Locally Mesh-Refined Lattice Boltzmann Method

雑誌名:Boundary-Layer Meteorology

URL: https://doi.org/10.1007/s10546-020-00594-x

著者:小野寺直幸1、井戸村泰宏1、長谷川雄太1、中山浩成1、下川辺隆史2、青木尊之3

所属:1日本原子力研究開発機構、2東京大学、3東京工業大学

タイトル:Simulation code for estimating external gamma-ray doses from a radioactive plume and contaminated ground using a local-scale atmospheric dispersion model

雑誌名:PLOS ONE

URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0245932

著者:佐藤大樹1、中山浩成1、古田琢哉1、吉廣保2、坂本健作1

所属:1日本原子力研究開発機構、2日本ヒューレット・パッカード株式会社

【コード公開情報】

公開した計算コードは、原子力機構のコンピュータプログラムなどの検索システム「PRODAS」(https://prodas.jaea.go.jp)を通して入手することができます。

【用語説明】

1)世界版緊急時環境線量情報予測システムWSPEEDI
WSPEEDIは、緊急時環境線量情報予測システムSPEEDI (System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)を、世界の任意地点での原子力事故に対応出来るように大幅に改良したもので、世界版SPEEDI(Worldwide version of SPEEDI)の略称です。WSPEEDI第1版は、チェルノブイリ事故を契機に開発に着手し、モデル開発や検証、システム化を経て、1997年に完成しました。その後、様々な事象に対する使用経験に基づく改良により、WSPEEDI第2版(WSPEEDI-II)が2009年に完成しました。
参考URL: https://www.jaea.go.jp/02/press2008/p09020501/index.html

2)風洞実験
大きなダクト内に調査対象とする地形や建物模型を設置し、大気の状態を模擬した風を送り、気流や拡散状態を調べる室内実験手法です。風洞実験は多大なコストがかかるものの、限定された気象条件下では信頼性に定評があり、環境アセスメントにおいてよく用いられています。

3)空間線量率
一定時間内に空気中を通過する放射線の量で、環境モニタリングにおける重要な測定項目となっています。

4)LES乱流モデル
計算格子サイズよりも小さい渦をモデル化し、それよりも大きい渦を直接的に乱流計算を行います。建物周辺に形成される衝突・剥離・循環といった複雑な風の流れの挙動を的確に捉えることができます。近年の計算機能力の飛躍的な発展から、LESモデルの環境分野への適用研究例が多く見受けられるようになって来ています。

5)放射線挙動解析コードPHITS
あらゆる物質中での放射線の振る舞いを第一原理的に計算するシミュレーションコード。原子力機構が中心となって開発を進めており、放射線施設の設計、医学物理計算、宇宙線科学など、工学・医学・理学の様々な分野で世界50か国・5,000名以上のユーザーに利用されています。
参考URL: http://phits.jaea.go.jp/indexj.html

6)簡易大気拡散式
排気筒など、空間のある一点から大気放出されたガスの濃度分布は、正規分布に従うものと仮定した大気拡散式です。簡易に濃度分布を算出できることから実用性が高く環境アセスメントでの実績は豊富です。ただし、地形や建物の影響を十分に考慮できず、詳細な拡散評価はできません。

2005放射線防護
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました