熱関連材料の熱物性を容易に検索可能なデータベースシステムを開発・公開

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脱炭素化に向けた熱マネジメント技術の開発を加速

2022-01-24 産業技術総合研究所

NEDOは「未利用熱の革新的活用技術に関する研究開発」に取り組んでいます。このたび、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)、産業技術総合研究所とともに、熱関連材料の各種熱物性情報とそれらの関連データを収集・体系化したデータベースシステム「PropertiesDB Web」を開発し、TherMATのHPで本日公開しました。これにより、さまざまな熱物性をもつ物質の探索が容易となり、熱関連材料である断熱材、熱の輸送を可能とする蓄熱材や冷媒、熱を電気に変換する熱電変換材料などの開発に掛かる時間を短縮できます。同時に各種熱関連材料を部素材としたモジュール開発も加速させ、将来の脱炭素化に向けた熱マネジメント技術の進展に貢献します。

2022年1月26日~28日に東京ビッグサイトで開催される「ENEX2022 第46回地球環境とエネルギーの調和展」でも本データベースシステムを紹介します。

熱関連材料の熱物性を容易に検索可能なデータベースシステムを開発・公開

図1 公開した「PropertiesDB Web」

1.概要

エネルギーの有効活用とさらなる省エネルギー化が強く求められる中、産業・民生・運輸の各部門で依然として膨大に廃棄されている熱エネルギーの活用が課題となっています。廃棄熱(未利用熱)の有効活用を推進するため、熱マネジメント技術の基盤となる研究開発が求められています。基本的な材料としては断熱材、熱の輸送を可能とする蓄熱材や冷媒、熱を電気に変換する熱電変換材料などがあり、これら熱関連材料の研究を効率的に進めるためには、熱伝導率や蓄熱密度、熱電変換性能に関する熱物性情報の目標値を満足する物質の探索と、新たな物質を部素材とするモジュール設計に必要な多角的かつ体系的な物性情報が不可欠です。しかし、これまで熱関連材料の基礎になる物質の化学組成を収録したデータベースは普及している一方、熱物性情報まで含むデータベースは整備されていませんでした。

そこで、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発※1」の一環として、熱関連材料の各種熱物性情報とそれらの関連データを論文やデータ集、既存のデータベースなどから探索・収集し、デジタル化して体系的に収録したデータベースシステム「PropertiesDB Web」を整備し公開しました。データベースに付随して提供されるウェブ検索表示システムでは、温度や比熱、標準熱力学量などの収録データセット間の2次元相関を解析・表示できます。これにより材料開発やモジュール開発を加速し、将来の脱炭素化に向けた熱マネジメント技術の進展に貢献します。

2.今回の成果

【1】各種熱物性データの収録とウェブ検索表示システムの開発
「PropertiesDB Web」は、これまで体系化されていなかった熱物性情報と関連データを統一したデータベースシステムとして整備し、それぞれの熱関連材料が持つ熱物性値の相関を解析・表示できるようにしたものです。物質の熱物性情報はこれまで、古い文献や複数の出典に分散して記載されたデータがあり、研究開発担当者が個別の原著出典を遡るなど、各種の熱物性データの検索に時間を要することが課題でした。本データベースシステムはこれを解消し、今後の新規材料開発・モジュール開発に有効な情報を提供するものとして活用が期待されます。

【2】データベースシステム「PropertiesDB Web」の特徴
本データベースシステムは以下の特徴があります。

1) SpringerMaterialsを通して提供されているLandolt-Börnstein※3
2) The NBS table of chemical thermodynamics※4
3) 電子技術総合研究所調査報告書第196号※5(蓄熱および蓄熱材に関する調査報告)
原著出典ごとに独自の手法で整理されたデータ構造を見直し、統一のデータ構造としてシステムを一括管理します。これにより、登録データ内での相互参照を可能としました。

  • 主として以下の3文献から熱物性情報に相当する値を収集・整理し収録しました。
  • 収録データの2次元相関を表示する機能を搭載しており、簡単なデータ解析であれば標準熱力学データ※6などの2次元的分布を検索画面上に表示することを可能としました(下図参照)。

図2

図2 「PropertiesDB Web」による化合物検索画面の表示例(物質選択とズーム表示、物質リストの表示)

3.今後の予定

NEDOはTherMAT、産総研とともに、熱物性データとして収録可能な各種熱物性値を順次追加して「PropertiesDB Web」の機能を拡張し、ユーザーからの意見を反映したシステムの機能改善を進めていきます。加えて、熱物性情報と物質の構造情報などを併用したデータ検索を可能とし、熱関連材料に関して多角的に多量の情報を提供することで、新たな熱関連材料の探索をさらに加速していきます。

なお、TherMATでは「PropertiesDB Web」を活用して高い蓄熱密度が期待される候補分子構造を検索し、有機化合物の一種である糖アルコール化合物の化学構造が高密度蓄熱材として重要であることをすでに確認しています。さらに理論計算化学とデータベースを活用した新規蓄熱材の分子設計において糖アルコールを鋳型とするデザイン分子で高い蓄熱密度を予測しています※7。今後は本データベースシステムを活用し、これまでTherMATにて実施してきた各種の熱関連材料開発の基盤研究を推進します。また、計算シミュレーションなどと連携した新規材料を探索する新しい技術基盤を確立し、未利用熱エネルギーの革新的活用のための材料開発研究を加速していきます。

注釈
※1 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
プロジェクトリーダー:小原春彦氏(産業技術総合研究所 執行役員)
事業期間:2013年度~2022年度(うち2013年度~2014年度は経済産業省にて実施)
概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100097.html
※2 ENEX2022 第46回地球環境とエネルギーの調和展
会期:2022年1月26日(水)~28日(金)
場所:東京ビッグサイト(東京国際展示場) 東4ホール(4G-09)
公式サイト:https://www.low-cf.jp/east/
※3 Landolt-Börnstein
K. N. Marsh (ed.), Thermodynamic Properties of Organic Compounds and Mixtures · Enthalpies of Fusion and Transition of Organic Compounds, Landolt-Börnstein – Group IV Physical Chemistry, vol.8A, 1995.
※4 The NBS table of chemical thermodynamics
Wagman, Donald D., The NBS tables of chemical thermodynamic properties : Selected values for inorganic and C1 and C2 organic substances in SI units, Journal of physical and chemical reference data, v. 11, supplement no.2, 1982.
※5 電子技術総合研究所調査報告書第196号
神本正行、作田宏一、小沢丈夫、坂本龍二、蓄熱および蓄熱材に関する調査報告、 電子技術総合研究所調査報告 第196号 1978年6月。
※6 標準熱力学データ
現在収録されている物性値は「標準生成エンタルピー」、「標準生成ギブスエネルギー」、「標準エントロピー」、「比熱容量」、「転移エンタルピー」、「転移エントロピー」です。
※7 理論計算化学と熱物性データを活用した高密度蓄熱材探索の研究論文 (NEDO-TherMAT との共同研究)
Taichi Inagaki, Toyokazu Ishida, Computational Analysis of Sugar Alcohols as Phase-Change Material: Insight into the Molecular Mechanism of Thermal Energy Storage, The Journal of Physical Chemistry C (2016) 120, 7903-7915 (表紙掲載). Taichi Inagaki, Toyokazu Ishida, Computational Design of Non-natural Sugar Alcohols to Increase Thermal Storage Density: Beyond Existing Organic Phase Change Materials, Journal of the American Chemical Society. (2016) 138, 11810-11819.
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