2021-06-15 国立天文台
アルマ望遠鏡を用いた天文学者チームは、天の川銀河から近い距離にある多数の銀河を撮影し、星の誕生現場である分子雲を膨大な数調査しました。その結果、これまでの科学的見解に反して、星の生育環境はすべてが同じではないことが明らかになりました。私たちのまわりの人々、家、地域が多様であるのと同じく、星の誕生過程や誕生現場のようすも場所によってさまざまであることが分かったのです。
アルマ望遠鏡が撮影した近傍銀河の画像をまとめた画像。アルマ望遠鏡は、銀河の中で星が作られる分子雲から放出される電波を検出しました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO)
星は、分子雲と呼ばれる塵やガスの雲の中で形成されます。これら星の苗床は、数千から数万個の新しい星を形成することができます。2013年から2019年にかけて、PHANGS(Physics at High Angular Resolution in Nearby GalaxieS)プロジェクトの天文学者たちは、近傍宇宙の90の銀河にある10万個の分子雲を初めて系統的に調査し、それらが親銀河とどのような関係にあるのかを調べました。
オハイオ州立大学准教授で、PHANGS ALMAサーベイの調査結果を発表した論文の主著者であるアダム・リロイ氏は、「これまで、星が生まれる場所の性質はすべての銀河でほぼ同じだと考えられていました。しかし今回の調査により、星形成現場の性質は場所によって異なっていることが明らかになりました。今回の観測では、多くの近傍銀河に対して、光学写真と同等のシャープさと高い品質を持つミリ波画像が初めて得られました。光学写真では星の光が見えますが、今回アルマ望遠鏡が撮影した画期的な画像では、星が生まれる現場である分子雲が見えています。」
渦巻銀河NGC4254のハッブル宇宙望遠鏡のデータとアルマ望遠鏡(オレンジ/赤)データの合成画像。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO)
ハッブル宇宙望遠鏡のデータにアルマ望遠鏡(オレンジ/赤)のデータを合成したNGC 4535(中心に棒状構造のあるグランドデザイン渦巻銀河)。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO)
マックス・プランク天文学研究所の天文学者で、PHANGS共同研究の主任研究者であるエヴァ・シネラー氏は、次のように述べています。「星がどのようにしてできるのかを理解するためには、一つの星の誕生と宇宙での位置関係を結びつける必要があります。それは、人が家、近所、都市、地域と結びつくようなものです。もし銀河が『都市』だとするなら、もう少し小さなまとまりである『近所』は銀河の渦巻き腕に、そして『家』は個々の星形成領域に相当します。今回の観測結果は、どこでどのように星が生まれるかという問題に、『近所』の環境が小さいながらも顕著な影響を与えていることを教えてくれました。」
研究チームは、さまざまなタイプの銀河における星形成をより深く理解するために、銀河円盤、中心の棒状構造、渦巻腕、銀河中心部における分子ガスの性質や星形成プロセスの共通点と相違点を調べました。その結果、星形成には場所が重要な役割を果たしていることを確認したのです。
カーネギー研究所の天文学者で論文の共同執筆者であるギジェルモ・ブラン氏は、「さまざまなタイプの銀河と、銀河内に存在する多様な環境を観測によって描き出すことで、現在の宇宙で星を形成するガスの雲がどのような条件で存在しているのかを追跡することができます。これにより、さまざまな条件が星形成の起こり方に与える影響を測定することができます」と語っています。
全米科学財団のアメリカ国立電波天文台/アルマ望遠鏡プログラムオフィサーであるジョセフ・ペシェ氏は、「星がどのようにして形成されるのか、また銀河がそのプロセスにどのような影響を与えるのかは、天体物理学の基本的な側面です。PHANGSプロジェクトは、アルマ望遠鏡の優れた観測能力を活用して、星の形成過程に新たな知見をもたらしました。」と述べています。
フランスL’Institut de Recherche en Astrophysique et Planétologie (IRAP)のアニー・ヒューズ氏によれば、星形成を行う分子雲の姿がこれほど多様な銀河で詳細に撮影されたのはこれが初めてです。「星を生む分子雲の性質は、銀河の中での場所によって異なることがわかりました。銀河の中心部にある雲は、銀河のより外側にある雲よりも質量が大きく、密度が高く、乱流が激しい傾向があります。また、雲のライフサイクルも、その環境に左右されます。雲がどのくらいの速さで星を作るか、そして最終的に雲を破壊するプロセスも、その雲がどこにあるかによって異なるようです。」とヒューズ氏はコメントしています。
アルマ望遠鏡を用いて他の銀河で恒星の誕生現場が観測されたのは今回が初めてではありませんが、これまでの研究ではほとんどの場合、個々の銀河またはひとつの銀河のさらに一部を対象としていました。PHANGSは、5年以上かけて、近傍にある銀河の全貌を明らかにしました。アルバータ大学准教授で、今回の研究の共著者であるエリック・ロゾロウスキー氏は、「PHANGSプロジェクトは、銀河の多様性を文字通り新たな『光』で見ることができる、新しい形の宇宙地図作成計画です。私たちはようやく、多くの銀河に存在する星形成ガスの多様性を目の当たりにし、それらが時間の経過とともにどのように変化しているかを理解できるようになりました。アルマ望遠鏡を使う前は、このような詳細な地図を作ることは不可能でした。この新しい銀河の電波写真集には、次世代の星がどこで形成されるかを明らかにするための、過去最高の地図が90枚含まれています。」とコメントしています。
チームにとって、電波写真集の完成は研究の終わりを意味するものではありません。今回の調査では、何がどこにあるのかという疑問に答えただけでなく、別の疑問も生じています。リロイ氏は、「今回の調査では、近傍銀河における星の誕生現場の姿を初めて明確に把握することができました。その意味で、私たちがどこから来たのかを理解するための大きな一歩となりました”。しかし、星の誕生過程が場所によって異なることはわかりましたが、そこで生まれる星や惑星にどのように影響を与えるのかはまだわかっていません。これらの疑問は、近い将来に解決したいと思っています。」と語っています。
この記事は、2021年6月8日発表のアメリカ国立電波天文台のプレスリリース”Cosmic Cartographers Map Nearby Universe Revealing the Diversity of Star-Forming Galaxies”をもとに作成しました。
論文情報
2021年6月に開催された第238回米国天文学会において、PHANGSサーベイの成果をまとめた10編の研究成果が発表されました。また、観測結果は、Adam K. Leroy et al. “PHANGS-ALMA: Arcsecond CO(2-1) Imaging of Nearby Star-Forming Galaxies”として、天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメントシリーズ」に受理されています。